②
俺は、アイから逃げて、台所に来ていた。
適当に食パンを焼いて、コーヒーを淹れる。
部屋には戻らずに、コーヒーを一口含んだ。
苦みで目がさめる。
アイは、急に静かになった。俺は少しだけ彼女のことが心配になる。
俺たちが、共同生活を始めて、もうすぐ二カ月が経過するところだ。
スマホの中に住む女の子との二人暮らし。
字ずらだけ見たら、俺は完全にやばいやつだ。
仮に警察に捕まった時、ワイドショーで自称「同級生」たちから、スマホを見てニヤニヤしながらしゃべっていたとか、どう見ても「やばいやつ」とか好き放題言われてしまいそうな感じだ。
この生活は、夏休み前の最後のゼミから始まった……。
その日は、とても暑かった。
※
「おーい、中村くん。ちょっと、いいかな?」
ゼミが終わって、帰宅の準備をしていた時、いきなり“教授”に呼び止められた。
「どうしたんですか? 教授?」
「ちょっと、頼みたいことがあってね。昼食まだだろう? おごるから、僕の研究室に来てくれないか?」
「はい、わかりました」
突然の話だったが、昼食に釣られてしまった。
こういう時は、教授が出前を取ってくれて、奢ってくれるのだ。
貧乏学生の俺にとっては、魅力的な話だった。
そして、俺はホイホイと教授の研究室に行ってしまった。
この選択肢が、俺の平穏な学生生活を一変させるとは知らずに……。