⑮
俺たちは、花火を見ていた。
場所は、俺たちの部屋だ。
金魚すくいが終わった後、アイは「突然帰りましょう」と言い出した。
「どうして?」
俺は聞く。
「花火は部屋からでも見えますから」
彼女は曖昧にそう言った。
そして。俺たちは部屋に移動した。
「うわ~、きれい」
花火は、高く打ち上がり、きれいな華をさかせて、消えていく。
何度もそれが繰り返されている。
「わたし、生の花火ってはじめてみました!」
そりゃ、そうだろ。
おまえは、生後何ヶ月なんだろうからな。
俺は、そんな無粋なつっこみをのみこむ。
絶対に余計なセリフだ。
「なら、お祭り会場で見ればよかったのに。そのほうが、もっと近くできれいにみえただろう」
「それも、そうなんですけどね……」
恥ずかしそうにはにかんでいる。
「花火だけは、先輩とふたりっきりで見たかったんですよ……」
※
さっきの会話のせいで、先輩は恥ずかしそうにうつむいている。
花火はきれいに空を彩っていた。
ふたりだけの、部屋は沈黙に包まれている。
でも、それは居心地の悪い雰囲気ではなかった。
「ねぇ、先輩。どうして、私が金魚を欲しがったかわかりますか?」
「どうして?」
「金魚なら、お祭りが終わった後でも、先輩と一緒に眺めることができるからです」




