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「じゃあ、先輩、いきましょう」
そう言って、アイは俺を前へと向かわせようとする。
アイは画面上にしかいないはずだのに、まるでここにいるかのような錯覚におちいる。
まるで、手をつないで、アイに引っ張られているかのように……。
「しっかし、おまえ、どうして夏祭りに行きたかったんだ? 買い食いはできないし、出店のゲームもできないから、楽しくないんじゃ……」
「先輩が、一緒に来てくれるのだから、楽しくないわけがないじゃないですか」
アイは即答した。
ぐぬぬ。
何も言えない。
「それに……」
「それに?」
「たとえ触れることができなくても、食べることができなくても……」
アイは、少しだけさびしそうに笑う・
「なぜだか、好きな人とお祭りに来るのが夢だったんです」
その表情は、いつもの明るい彼女とは違って、どこか、なぜだか、
はかなげだった。
※
「先輩、次は焼きそば食べてください!」
「おい、俺はさっきたこ焼き食べたばっかりなんだぞ」
「いいじゃないですか。私、焼きそばの屋台みたいです」
かなり、独特な考えだ。
俺は、焼きそばを食べる。
「いいなー。私もできることなら、焼きそば食べたいです」
「おまえ、味覚とかわかるの?」
「食べたことがないから、わかりません。あっ、先輩。のりがほっぺについてますよ。かわいいな~」
顔が赤くなるのを感じる。
※
「もう、腹いっぱいで動けない」
俺はギブアップして、ベンチに座りこむ。
「もう先輩、男子なのに情けない」
「好き勝手言うな」
アイは、いつも以上にはしゃいでいた。
「先輩とこうして話していると……」
アイは少しだけいいずらそうにしていた。
「なんだか、手をつなぎ合っているように感じませんか?」
ドキッとして、顔がさらに赤くなった。
俺は慌てて、アイから顔を背けた。
「もう、素直じゃないんだから~。まぁ、今日は許してあげますよ」
「うるせえ」
「だから、ひとつだけ、わがままを言わせてください、先輩……」




