⑪
「とにかく、ごめん。許してください」
俺は、アイにひら謝りし続けていた。
アイは少しずつ機嫌がなおってきた。
「わかりました。なら、今回の件は、私の誤解ということにしておきます」
よかった。
これで解放される。
「でも、ひとつだけ、条件があります」
「えっ」
嫌な予感がする。
「条件って、なに?」
俺はおそるおそるアイに聞く。
「簡単なことですよ~」
アイはいたずらっ子のような笑顔になった。
ますます、嫌な予感がする。
「今度の週末、私とデートしてください!」
「はい?」
「恋人のように、私とデートしてください!」
アイは顔を赤く染めていた。
その表情を見ると、少しだけドキっとしてしまう。
俺は、黙ってうなづくことしかできなかった……。
※
先輩は眠ってしまった。
バイトと私の尋問で疲れ果ててしまったようだ。
我ながら、少しやりすぎてしまったと少しだけ反省する。
それに……。
「ちょっと、強引すぎたな~」
いくら先輩とデートがしたかったからと言って、やり方が強引だった。
先輩じゃなかったら、たぶん通用しなかった。
「でも、先輩の顔、キョトンとしておもしろかったな~」
あの顔を撮影できなかったのが、今回最大の失敗だ。
「デートか……」
生まれてからはじめてのデートだ。
それも大好きな彼と一緒だ。
気色の悪い顔になっていると自分でもわかる。
彼が、眠ってくれてよかった。
週末まで、私は世界で一番幸せな存在だと思う。
彼の寝息が聞こえる。
それが、とても愛おしかった。
「先輩、大好きです」
彼と顔を合わせて言う時は、ふざけてしまうのに、ひとりきりの時はちゃんと言える。
「わたしって、本当に馬鹿だ」
「楽しみにしていますからね。先輩」
聞こえないとわかっているのに、私はそう言って自分の電源を落とすのだった……。




