戦車発見
「ああ、そうか。失望、までとはいかないが、正直、期待外れみたいだな。」
レイア将官からの一言はとても強烈。控えめにがっかりした。と言われていることらの身も考えてほしいのだが。
「しかし、捜索は困難です。退職後の動向は一切不明であります。通常ならば、退職後も定期的に動向が記録されるはずなのですが。」
そう、これは異例中の異例であり、自分が悪いわけではない。そうだ、手掛かり不足なんだ。いや、待てよ。そういえば、一〇五の古参に聞けば、何かわかるんじゃないか?
「すみません、手掛かりがありました。」
レイア将官曰く、それは喜ばしい。とのことだ。結局、元隊長殿の所へ行かなくてはならなくなった。なんとも、今日は人生最悪の日だ。
「いいのか、レイア姫。」
トニーはレイアに向けて言い放った。彼女の最も定着している名で。
「トニー、その名で呼ぶなと言っただろ。私にはもったいないくらい良いあだ名だぞ。」
レイアは常識人を超えて、もはや機械人間だ。なによりもまず、自分以外の身を案じ、助けるようにしてきた。いうなれば、レイアは善良の女性だった。裏表がなく、常識を持ち、心優しく、手厳しい。まさに控えめに言って女神だった。少なくとも、トニーはそう思っている。少なくとも、彼だけが。
情報というのは中々見つからないものである。そう思い知らされたのはまさにこの瞬間だった。
「ほう、エイブラムスか。昔いたな、そんな奴。」
「エイブラムス? ああ、あの無口なおっさんのことか。」
隊のほとんどがエイブラムスを知らない。この事実はかなり辛いものである。エイブラムスを知っている奴は多けれど、親友の奴はいなかった。
「エイブラムス、ああ、あいつか! 確か今は、日本の北海道って小さな島に住んでるぞ。」
ふふふ、北海道はそこまで小さくない。むしろ大きい。確かに、外国人目には小さいかもしれない。しかし、日本では本州を除けば、一番大きな島なのである。
「はあ、了解です。では、御武運を。」
「と、いう訳で、久々に日本へ行ってきます。」
レイア将官への報告。日本まで八時間の飛行機旅。正確に言えば戦闘機旅。いや、旅ではない。職務だ。レイア将官曰く、戦闘機は自由に使いなさい、とのこと。正直なところ、戦闘機の操縦は得意ではない。一応、免許は取っているのだが、軍事系の資格の中で一番取るのに苦労した。
そんなことより、エイブラムスを探す。五百三十万人の中から一人を探す。まあ、全国ニュースで流してくれれば簡単なことだが。
そして、日本に到着。すぐさま、北海道の放送局と警察に捜索の願いを出し、ホテルで三泊。無理もなく、久々の日本語で身も心も癒される。まったく、日本語というのはいいものだ。なんせ、一つの事柄について、何通りもの伝え方がある。こういうことは、英語にはあまりない。それに、略語もとてもいい発想だ。スマートホンをスマホと呼んだのは、約二年ぶり。
「エイブラムスさんがいらっしゃられています。」
この丁寧な言葉もその一つ。よし、後はエイブラムス君をアメリカに連れていくだけだ。
「やあ、エイブラムス! 異獣駆除機構からの要請だ。一緒に来てもら……。」
しかし、彼の身なりを見た瞬間、仕事を終えた達成感は、急な不安へと変わった。
「よお、あんたが槍次ってやつか! 言っとくがなぁ、俺はもう、アメリカには戻らねぇ。」
そこにいたのは、酒に酔ったボロボロのコートを着ている中年の男だった。