襲来の予兆
皆、泣けと言われたら泣けるだろうか。恐らく、特別な訓練をしていなければ無理だ。それか、偶然に悲しいときだろう。
しかし、今、まさにその様な事をやらされている。なにが国連だ。なにが国際平和だ。結局、列強国が力を奮って、したいようにしているだけでは無いか。
「で、今は何をやっているんだ?」
戦友が問いかけてきた。現在、異獣の発見により、午前〇時、異獣を捜索中。今回見つかったのは、ウィズドム・コング。作戦時のコードネームはW・K。異獣の中でもかなり頭がよく、人間に匹敵する。文字を持ち、手で指揮を執る厄介な奴だ。
「W・K発見。」
ようやく発見した。しかし、いつもとは状況が違った。
「奴ら、百はいるぞ!」
戦闘が始まった。数が多い。こんなにも多くの異獣が集団で活動するなど、聞いたことも、見たこともない。いくら撃ってもあっという間に再生してしまう。というか、そもそも、銃弾をはじく。
毎回、この皮の強度には驚かされるが、いつもは一体から三体くらいで、さほど厄介でもない。だが、その戦略を用いて、堅い皮と強力な筋力があるため、なかなか、力尽きず、こちらに反撃してくる。それが、百体余りもいるのだ。銃で撃つのはいいが、接近されると銃では撃てない。そのため、距離をとらないといけない。
「ネームドか? 隊長!ボスです。ボスがいます!」
その中でも特に凶暴な個体はネームドと呼ばれ、個々に特有の名前が付いている。それが百体の中に見られる。ネームドは、一体で兵士百人に匹敵する強さの者もいる。
明らかに無理だ。異獣駆除機構偵察第一〇五中隊では、戦力も数も劣っているだろう。
こういう時こそ現れるのがヒーロー。だが、戦場にて希望的観測は敵。常に最悪の場合を予測しながら、それを回避しなければいけない。いつからだろうか、軍人的な思考になったのは。まあ、今はそんなこと考えても仕方がない。
「隊長殿。分かっておられるとは思いますが、一旦、体勢を立て直した方が良いかと。」
現状の悪さを踏まえての進言。しかし、隊長は頑固なお方で、命令に背かう気がさらさらない。今は、さすがに退いた方がいいとは考えているのだとしても、恐らく、援軍を頼んで足止めに徹するだろう。
「スチール〇一。分かっている。だが、今は足止めに徹するとしよう。上は援軍を用意してくださるようだ。」
最悪の場合を予測するというのはよく当たるものである。口には出していないものの、考えるだけで本当になりうる。愚痴に愚痴を重ねてはいるが、敵前逃亡などするつもりもないし、もう、進言しようとも思わない。いつもこうだ。隊長殿は命令に忠実すぎる。異獣を駆除するのが義務だとしても、生きる権利はあるとは思うのだがね。
「了解。スチール小隊に突撃の許可を。」
こうなれば、早くケリを付けるしかない。だから、小隊員を引き連れて突撃。これしかない。
「なにを言っている。我々の任務は足止めに変わったのだぞ。」
まったく。どうしてこう、命令ばかり守って、柔軟な考え方が出来ないのか。
「スチール小隊。突撃します。」
だから、無視した。これで何度目か。恐らく十回は命令違反をしている。まあ、実際のところはそんな命令ないのだが。
さて、突撃するとしよう。
「分隊、スチール〇一に続け。」