第一章3話 ヒロイン?と出会ってもいいですか?
気絶してからどれだけ時間が経過しただろうか。想像したくもないがかなり長そうだ。
目を開けると、どこかの小屋のベットに俺は寝ていた。俺は体をお越し、あたりを少し見渡した。ベットにテーブル、そして暖炉まであった。まあ、江戸時代にしては少し出来ている家のようだ。
扉から出ると、そこに一人の少女がいた。
「あ、きずきましたか!?」
笑顔で対応してくる少女。俺を助けてくれた人だろう。
黒いショートヘアで、とても美人だ。黄色の瞳がまた愛らしさを出している。
「あの、危険なところを救って下さり、ありがとうございました」
「あ、いえいえ。困ったときはお互い様ですよ。それにしても見ない顔ですね。どこから来たのですか?」
「あ、申し遅れました。水徳絆と申します。17歳です。どこから来たかと言いますと・・・」
未来からです。と言ったらどうなるのだろうか。信じてもらえない気しかしないから適当にごまかそう。
「えーっと、ずっと北の方からです。少し旅をしていたのですが、途中でモンスターと出会い、武器などをなくしてしまいました。その後森の中をずっとさまよい続け、あなたに助けられたということです」
「そうですか!遠くから遥々来てくださったのですね!・・・あ、申し遅れました。田先阿左美と申します!えーっと、歳は伏せさせて下さい!」
ヒロイン、というやつだろうか。こんな風にまさか誰かに助けられるとは思ってもいなかった。
実は俺は、さっきから疑問に思っていることがあった。それは服装だ。茶色いジャケットを着ていて、とても江戸時代とは思えない服装をしていた。江戸時代は着物のイメージがあったが、実は違ったのだろうか。
「あのー。服装、変わってますね・・・」
「あー。それ、よく言われます。でもこの服、結構好きなんですよ?文明開化していなかったら、本当に困っていましたよ」
今なんと言った?文明開化?文明開化って江戸時代じゃないのか?
「あの、今何年か、わかります?」
「はい?・・・今は1808年ですけど?それが何か?」
おかしい。江戸時代なのに文明開化が起こってる。これも魔王の仕業なのだろうか。
「鎖国って、いつまでしていましたか!?」
「鎖国は、1750年までです」
「その時、誰か開国しろっていったか、知っているか?」
「ぺ・・・あれ、誰だっけ?確かかなり有名なんですが・・・」
完全に歴史が変わっている。鎖国がもう終わっているなんて、ありえない。
「ここはどこですか?阿左美さん」
「ここは日本のモスクワです」
日本に、モスクワはない。なのにロシアの首都がこんなところにある、つまりこれが神様の言っていた現象だ。
ということは、文明開化しているのは、魔王が勝手に違う国同士の干渉をさせているから起こったのだ。
そうなってくると、今まで習った知識は全部捨て、誤謬を正し、この国の事を精査する必要があるだろう。
「ちなみにモスクワの王様って、誰だ?」
「王様?王様はもうとっくの昔にいませんよ。選挙、知らないのですか?」
日本が選挙をし始めたのは明治時代。ここもおかしくなっている、というのか。
「あ、でもすごいお偉いさんはいますよ。天皇みたいな存在の人は」
確か、昔の政治はお金持ちだけ政治ができたっけ。今みたいに男女平和主義はないのだろうか。
「私も参加したいです、政治。この国を良くしたいのに、女性への差別が多いですから」
聞いてはいけない事を聞いてしまった気分だ。しかし、少し暗そうな表情を見せる阿左美だったが、笑っているようにも見えた気がした。
そんなとき、グクウゥーっと大きな大をお腹から鳴らしてしまった。そういえば、ここに来てから何も食べてなかったな。
「助けてもらった後にこんなこと言うのもなんですが、お腹、空きました。何かあります?」
「あ、大丈夫ですよ!私の料理で良ければ!ここの村は美味しい食べ物がいっぱいありますし」
そう言いながら家の中の案内をする阿左美。
「適当に腰をかけといてください。私は少し料理を作っていますので」
遠慮なく俺は丸いテーブルの前に座った。エプロンをつけて手を洗い、準備をする阿左美。
江戸時代の人は毎日お米を五合食べていたそうだ。俺はとうていそんなに食べれないし、病気にでもすぐかかるだろう。更にお米よりパンの方が好きだ。
しかし文明開化がしているので、西洋の料理も取り入れられているのだろう。別の意味から捉えると、魔王は良いことしたな。
しばらくぼーっと俺は座っていると、いい匂いがしてきた。カレーだろうか。
「出来ましたよー。カレーです!冷めないうちに召し上がれー」
人参に牛肉、じゃがいもそしてネギ。そう言えば、明治時代の人は玉ねぎの代わりにネギを入れていたらしい。文明開化をしているとはいえ、まだ玉ねぎという発想はないのだろうか。
しかし、そのカレーはお世辞ではないくらい美味しそうだ。いい色をしていて、香りは独特のあるスパイシーで鼻を刺激し食欲をそそらせている。
「いただきますー!」
俺はカレーをスプーンですくい上げ、大きく口を開けて頬張る。
「んんー!!ウメーーっ!口に広がる程よいカレーの辛さを野菜たちが絶妙にマッチしている!こんなにもおいしい料理を食べたのは久しぶりだなー!」
俺は一年前に食べた料理を思い出す。それは妹が作った料理だ。どんなに素材が悪くても、見た目も味も一流品になる腕を持っている妹。しかしそんな妹はもう居ない。
「本当に、美味かったよなー・・・」
「・・・どうかしましたか?辛かったですか?」
「あ、いや、なんでもない。・・・あと水を下さい」
「・・・辛かったんですね・・・」
そんな調子で俺はカレーを食べていった。妹の作ったカレーの味も想像しながら。
「ふー。ごちそうさま!・・・そう言えば、この後予定ある?」
「言え、特にありません。・・・強いて言うなら、洗濯くらいでしょうかね?」
カレーを入れていたお皿を洗っている阿左美。水は井戸から組み上げてきていて、服のようなタオルでゴシゴシ磨いる。
「じゃあ、少しこの街のこと、案内してくれよ!」
すると阿左美は押し黙った。そして沈黙が流れた後、口を動かし始め
「・・・あ、はい。私で良ければ。後で一緒に行きましょうか」
「お願いしますー」
そうこうしているうちに、食器を洗う作業が終わったようだ。
「それでは、支度していきましょう。ちょっと待ってくださいね」
そう言って、押し入れから剣を取り出した。長剣を取り出してきた。
「へ?なんで持っていくの?そんな物騒な物」
「知らないのですか?この世の中物騒じゃないですか。モンスターが居たり、時には人だって襲ってきますよ?」
少し笑いながら俺に告げる阿左美。まるで殺すことを喜んでいるみたいにも見えてきた。
「これ、貸してあげます。武器、どこかへ行ったのでしょ?」
「あ、はい。ありがとうございます」
そう言われて俺は剣を受け取る。だが以外とその剣は重く、初めて触った人にでも本物とすぐに判別できた。
「うわ、おっも!・・・でも、阿左美さんの武器は?」
「私にはこれがあるから」
そう言い、再び押し入れから取り出す。腕に装着できる系のタイプだ。
「これ、私が愛用しているナイフなんです。ピンチなとき、いつもの私を助けてくれました」
愛用しているのがナイフと言われると、なんだか鳥肌立つな。でも、それくらい強いってことだろう。
「名前、ないんですか?」
「名前かー。考えたことないですねー。・・・斬るんだから『ジャジャジャキン』とかですかね?」
以外と中二病っぽい。あと、俺の知っている有名人の名前に少しかぶっているような・・・気のせいだろう。というよりも、まず名前がダサい。
「腕に装着するんだから、『腕装着型ブレードソード』とかはどうでしょうか?」
「なるほど。センス、あるんですね!」
いや、お前がないだけだろ。そう突っ込みたくなった。
「他にどんな武器があるのですか?」
「剣系ならこの曲がっている鎌のような武器とか、探検とかですかね。他にも先にトゲトゲのボールがついている武器とか」
トゲトゲのボール、つまりモーニングスターのことだ。振り回して当てると体が吹っ飛ぶほどの威力を誇る武器。触ったくらいだけでも怪我しそうだ。
「なんか、当たれば本当に痛そうだな」
「試してみせます?威力」
「怖いこと言わないでください!」
「冗談ですよー。そんなに本気にならないでくださいなー」
冗談でも怖い事を言う阿左美。少し変わった女の子だ。普通の女の子ならそんな事は言わないだろうが、まるで平気にやってきたから言えるセリフ。恐ろしいでは言い表すことはできない。
「さあ、武器も持ったところで、行きましょうか!つまらない所でもありますが、面白い所でもあります」
そう言いながらカバンの中にお金を入れて、腰に腕装着型のブレードソードをつけて、準備を終えた阿左美だった。