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勇者になってもいいですか?  作者: 新城ミキヤ
第一章 異次元での冒険、始めていいですか?
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第一章2話 異次元に行ってもいいですか?





 俺は目を開けた。するとそこは森の中だった。


 ここが江戸時代なのか。想像もつかないくらいに空気が澄み渡っていて気持ちがいい。


「江戸時代か・・・。想像がつかねーな」


 そう呟きながら俺は上の方に登っていく。今自分は何処にいるのか把握したいからだ。


 ゆっくり時間をかけて山を登っていき、そして頂上にたどり着く。


「おお!本当に凄いな!・・・それにしてもきれいだなー太陽!」


 太陽がここまで美しく見えたのは初めてだ。そもそも、太陽に興味を向けたことなんて、勉強以外ではなかったかもしれない。


「太陽は今こっちにあるから。これを朝日と仮定したら東がこっちで、西が向こう。・・・西に森が続いていてて、東には村があるのか」


 目を凝らしながら俺は淡々と呟いて自分に言い聞かせた。


「よっしゃ!あっちいってみよ!きっと街の人達は俺を祝福するはずだ!」


 村に行くために俺は山を降りた。村についたら何をしようか。やっぱりまずは武器を揃えないといけないし、色々な情報を知らなければならないのだろうか。


 そう思っていたとき、敵が現れた。


「あ、化物がいる。絶対にあれはゴーレムだ。どうしよ、マジやべーな」


 せめて武器を持っていたならなにかできたかもしれない。しかし今、手元には武器がない。せめて神様に剣くらいもらっていれば良かった。


「ヴォぉぉぉぉ!!」


 高さは2メートルくらいで、白いゴーレムの気迫は凄い。鼓膜まで潰れそうな大声を張り上げてきた。しかし負けることはできない。ザコ敵なら倒せるって神様が言っていたから勝てるだろう。ゴーレムが弱かったら、の話だが。


「勝てそうにないかもしれねーな。どうしよ、逃げるか!?」


 学校の中で走りは速い方だった。特に逃げ足になると誰も引けを取らないかもしれない。


 だから俺は土を掴み取り、それをゴーレムの目に向かって投げ入れた。


「グォォーー!!」


 余計に怒らせてしまったかもしれない。後悔してしまった。


 俺は慌てて逃げたが、相手も速い。本当にこんな得体もしれないものが走っているなんて、物理的に考えられない。


「あ、だめだ。追いつかれる!森の中ならなんとかなると思っていたのに!」


 森の中には木が沢山並んでいる。俺はゴーレムより圧倒的に細いから木と木の間は余裕で避けられる。だがゴーレムは違う。俺よりも高い上に横周りもある。木に当たって速度ダウンして追いつかないと思っていた。


 しかしこれくらいの木なら、強引に突破できるらしい。木はバキバキっと音を立てて倒れていく。


 更に言えば俺は立っている木や倒れてくる木を意識しながら走っている。しかしゴーレムは倒れてきても、木にぶつかっても問答無用に突っ込むことができる。


 そこが裏目に出てしまった。例えるなら、ゴーレムは100メートルを走っているのに対して、俺は予測の出来ない障害物走を走っているようなものだ。


 そしてゴーレムには体力なんてないだろう。仮にあっても、先に尽きるのは自分、確定している。


「クソッ!この世界に来て早速化物に追いかけられるのかよ!こっちの身にもなれよバカヤロー!」


 危機的状況のせいでうまく頭が回らない。何をすればゴーレムから逃げ切れるのか、倒せるのか。


「とりあえず、村に行くまで耐えるしかないのか!」


 体力はまだある。本気を出せば逃げ切れるだろうが、そうすると体力が持たないので、今はマラソンより少し早めで走っている。しかし、その速度では追いつかれる。


「感覚的には村まではまだ遠いから、村に着く前に俺、殺られるじゃねえか!」


 今までにないくらい俺は考えたがいい案そう簡単に出てこない。今この状況から逃れるための1番いい方法。俺は走りながらあたりを一度見渡す。


「森ばっかりだからな・・・上手く木を使いたいが、どうせ蹴り散らすだけだし・・・槍にはならないもんな・・・あー!クソッ!やっぱり神様嫌いだわ!なんでこの状況を作りやがった!?」


 俺は落ちている長めの木を一度拾い上げ、ゴーレムの方に振り返る。


「やるしか・・・ねぇのか・・・」


 呼吸が荒い。全力疾走するのがここまで大変だったとは思わなかった。


 正直に言って俺はある程度は鍛えている。バリバリの筋肉質、とまでは行かないが目を凝らせばシックスパック、見えるんじゃねえか?くらいまでは鍛えている。


 俺が振り返り止まるとゴーレムも止まる。俺が木を持っていることに対して抵抗があるのだろうか。


「おりゃァァァァァーー!!!」


 全身の一撃を俺は腰に目掛けて放つ。しかしそれをゴーレムは右腕でガード。


 直後左腕で俺のお腹に向かって殴りつけてくる。


「チッ!避けねーと!」


 間一髪の所を避け、一度後ろに引く。するゴーレムは下に転がっている細長い木を持ち、それを俺の顔面に目掛けて投げてくる。


 飛んできた木は俺の頬をかすめた。そこから軽く血が流れ出る。


「・・・誰か助けてくれよ!・・・本当に死なないのか、俺・・・」


 抵抗して俺は尖っている木を拾い上げ、ゴーレムの顔面に目掛けて投げつける。しかしその木をゴーレムは再び腕で弾き飛ばす。


 その瞬間、俺は察した。なぜゴーレムはあんなにもおかしな行動をするのか。

 それを試すべく、再び、今度はお腹に投げ入れる。


 自慢である鋼鉄のような硬さを持つゴーレムの肌だからこそ避けなかった。それどころか、避けたり、というよりも自分から当たりに行っているようにも見える。


「・・・やっぱりな。この読みが正しいのなら・・・」


 俺はもう一本木を拾い上げる。言わいる二刀流っていうやつだ。


 ゴーレムに向かって力強く地面を蹴り、走り出す。そして高く跳躍してゴーレムの頭に振り落とす。


 ゴーレムはそれを左腕でしっかりとガード。そのままジャンプ力が死んで俺が落下し始めた頃に、


「これなら・・・どうだァァァァーーー!!!」


 左手に持っている木をゴーレムの右手に向かって叩きつける。すると


「グォォォッ!」


 ーーやっぱりそうだった。


「こいつ、知能がある。だから自分の弱点を知ってやがる。身体すべてが岩でできているように見せかけているが、手や顔は違うようだな。」


 ゴーレムは自分の弱点を知っていたからこそ、そこを付かれないように常にガードしていた。しかし、ガードしすぎだった。それが裏目に出たのだ。


 だから手と足に当たる攻撃は腕で防ぎ、それ以外の攻撃は避けなかった。実はゴーレムには瑕疵があったのだ。


「それを知ったら俺の勝ちみてーなもんだ。逐次行動するだけでよさそうだな」


 俺はそう呟き、敵に向かって再び木で攻撃し始める。顔と手だけに集中して。


 一発入れたらあとは逃げる。近づいてきたと思ったらもう一度相手の急所に向かって叩きつけて。それを永遠に繰り返す。


 もう少しで村だろうか。そんなあと一歩のところで俺の体力は切れ始めた。


「ハーハーハー・・・あと少しだ。耐えろ、俺!」


 自分にそう言い聞かせる。荒い呼吸のせいで胸が苦しくなり、それを必死に手で押さえつける。 


 正直、もう限界だ。いつもの俺なら、やるだけやったからもういいやと、投げ捨てていただろう。だが今は違う。死なないと分かっていても、俺はずっと気概を見せていた。今までとは違う人生を送っているから楽しいのだろうか。


「あと少し、あと少しなんだ・・・行ける!」


 俺はゴーレムに向かって直進し、再び叩きつける。だが、ゴーレ厶は俺の行動を読み取り、一発目の攻撃をし終えたあと、ニ発目の俺の攻撃が来る前に俺のお腹を殴り始めた。


「ガハッッッ!!」


 俺は吹っ飛ばされ、体ごと木に激突した。背中に電気が走ったような感覚。背骨が数本折れたかもしれない。


「ハァハァ・・・忘れていた・・・こいつ、知能あるんだった・・・」


 慌てすぎて、再び誤算をしてしまった。


 恐らく死んでいく人は皆こんな風にやられているのだろうか。ボロボロになっても、なお続く重い一撃。死ぬまで攻撃するのだろう。


 体中が痛い、立ち上がる気力もない。しかし、ゴーレムはこちらにやってきて、再び俺を殴ろうとする。俺は間一髪、かろうじて避けるが、もはや悪あがきの様に見える。


「ここ・・・までか・・・」


 落ち葉の香りがする。俺は今、倒れているのだ。自分らしい結末かもしれない。


「ハハハ・・・何が異次元(パラレルワールド)だよ・・・何が人助けだよ・・・ただの期待だけじゃねえか」


 ついさっきまであった楽しみとはなんだ?ついさっきまであった喜びはなんだ?ついさっきまであった期待はなんだ?ついさっきまであった勢いはなんだ?


 ーーそして、勇者ってなんだよ


 意識が朦朧(もうろう)とする。体はもう使い物にならない。このまま死ぬのだろうか。だが死にたくない。せめて、もう少しくらい活躍したい。したかった。


「くそったれがァァァァァァーーーー!!」


 目を開けた直後、ゴーレムが飛ばされていた。形成逆転の僥倖ぎょうこうが舞い降りてきたのだ。氷の塊のような物が当たったのだ。魔法だろうか。


「あら、大丈夫?怪我はない?」


 不敵な笑みを女性がそこにいた。嘲笑っているのだろうか。なんとでも言えばいいさ。どおせ俺は何も力がないのだから。


「立てる?歩ける?」


 しかし、その女性は俺に優しく手を差し伸ばしてくた。こんな俺を救ってくれる人がいたのだ。


「ゴーレムは・・・倒したの・・・ですか・・・」


 意識がほとんどない。そのせいでよく顔が見えない。


 足に力はもちろんかからないので、そのままこの場で倒れたい気分だ。本当に足が木になっているのだろうか。


「ゴーレムは倒しました。それよりも先に治療しましょう。」


 その言葉を聞いた直後、安心感が急激に芽生え、意識は途切れた。




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