皿
男性的な少し節が目立つ指先と、白の袖口と水色のYシャツから覗く腕は少し毛深い。手首に巻かれた腕時計は明るめの茶の革ベルト。結婚指輪は見当たらない。
清潔感が漂う指先は、器用に焼き鳥とジョッキを動かしている。乱れのないリズムでオーダーと口に運ぶ動きが止まらない。
最初はたまたま隣り合ったので、意識はしなかった。ただ規則正しく乱れのない動きが、雰囲気が気になった。手元を見やると几帳面に並べられた焼鳥の串。乱れのない皿。
何の事はない中年男性だ。目立った特徴はない。思い返しても顔は思い出せない。ただ指先と皿だけが浮かび上がる。
周りを拒絶しながら規則正しく食べる姿は何故だか艶めかしい。本人は気付いていないだろう。ちりちりと意識が削られていく。
隣りにいる私だけが気付かれないように見つめている。なんでこんなに欲情するのだろう。あの指に触れたい、噛みつきたい。
話しかける度胸はない。でもずっと見続けていたい。
先に終わり来たのは私。反対側の隣に話かけられ、飲みすぎたのに気付かされる。離れるときも変わりなく端正で。また隣で指先を見つめたいと思った。今度こそ話したいとも思った、
叶わないから重く沈む、ただそれだけの話。