始まりの村
フェニクス、魔法って何だろうな――
勇者達や、魔王の息子ルーツと別れてから一週間が経ち、俺とフェニクスは、とある村に来ていた。
目的地もないまま、とりあえずは遠くへ行こうと思い、適当に進んできたのだが、世界はそんなに甘くなく、とうとう金がなくなった。そして、食料もなくなろうかという頃、その村を見つけた。
食料だけでも分けて貰おうと思い、村に入ったのだが、そこで魔物が現れた。現れたというよりは、村の中をのしのしと歩いていた。何だあれ? ペットか? 等と思いつつ、眺めていると、あろうことか、その熊のような形をした魔物は、俺の目の前で村人を襲い始めたのだ。
「おい。嘘だろ?」
俺は、魔法を詠唱しつつ走った。熊の魔物に引き裂かれたのだろう、逃げようとした男の背中から血が吹き出し、悲鳴が響く。――ちっ……男は? よし! まだ生きている!
「フェニクス! 先に行け!」
「おう!」
熊の魔物が男にとどめを刺そうとしたが、フェニクスが何とか間に合った。男の肩を足で掴み、近くの家の屋根の上まで運んでいく。
熊の魔物は、少しの間自分の腕を見つめ、空振りした事に気付いたのか、男を助けたフェニクスに向かって吠えていた。
「背中から、失礼します!」
人語を理解出来ない魔物に対して、本当に失礼な背中からの攻撃。吠える熊の魔物に対して、俺の魔法ファイアストームが炸裂する。念の為、もう一発撃つ準備をしたが、熊の魔物は燃え上がり、そのまま息絶えた。
「おお! あの魔物を一撃とは!」
息を整えていると、まだ近くにいた村人が集まってくる。熊の魔物に一撃をもらった男は、フェニクスが地上に降ろし、手当を受けていた。
「どこの誰かは知らないけど、助かったよ。丁度、この村で戦える奴は、皆出払っていてね。本当、助かった」
髭面の大男が俺の手を握り、強い力でぶんぶん振ってくる。ちょ、取れる取れる。お前、絶対戦える奴だろ?
そんな事があり、俺は出払っている人達が戻ってくるまで、この村に住む事にした。護衛として金も貰えるという事だったので、二つ返事で了承した。
ちなみに、助けたのはこの村の村長だったのだが、あの後えらく気に入られ、娘をやるとまで言われたが、丁重にお断りした。
そして今、村の隅の原っぱに寝転び、俺はフェニクスに問いかけていた。
「フェニクス、魔法って何だろうな?」
「あ?」
面倒臭そうな顔をしながら、フェニクスがこちらを向く。何を訳の分からない事を、と言いたげな顔をしていた。
「魔法は、魔法だろ」
「そうなんだけどな」
「あん?」
魔法の目を貰ってからずっと、考えている事があった。勇者として連れて来られたというのに、何も特殊なスキルのなかった俺が、初めて得ることのできた、特殊なのだ。何か、使い道はないかと。
何も思いつかないまま、その場の流れで、村の護衛を務めることになった俺だったが、ある日事件が起きた。
その日も俺は、ここ数日の日課である、村の周辺の見回りをしていた。あれ以来、大きな魔物が村に現れることはなく、現れたとしても、自分から逃げていくような雑魚ばかり。よし、今日も平和だな。と、いつものように村に戻ると、純白のパンツが、俺の目の前で踊っていたのだ。
「こらー! あなた達ー!」
パンツを踊らせていたのは、村長の娘である、イオだった。正確には違う。イオのパンツは踊らされていたのだ。他ならぬ、村の子供達のスカートめくりによって。
俺は、思った。どこの世界でも、やっていることは同じだな。この青い空がどこまでも繋がっているように、と。
「なるほどな」
うんうんと頷いていると、イオが俺の方に歩いてくるのが見えた。
「エンジさん、見た?」
「何を?」
「私の……パンツ」
イオは、顔を赤くして、もじもじとしていた。そんなに恥ずかしいなら、言わなければいいのに。紳士である俺は、見なかったことにしようと決める。
「見てない。俺が見たのは、世界の真理だ」
「世界の、真理? もう! そんなはぐらかすようなこと言って! 見たんでしょ?」
「いや、君が何を言っているのか分からないが、世界は繋がっている。この青い空のように」
「繋がっている? あなたには、何が見えているの?」
「パンツが。あ」
「やっぱり見たんじゃない!」
俺は殴られた。あんまりだ。中々に狡猾な誘導尋問だったと言っておこう。
というか、見たのは偶然だ。偶然だとしても、知らない振りをしようとした俺は、本来褒められるべきなのだ。
「変な言い訳するからよ!」
どうやら、それが駄目だったらしい。ままならんね。
その後、話を聞くと、イオは村の子供たちに魔法を教えていた所だったらしい。だが、俺が村に帰ってくるのを見た子供が、イタズラに、という訳だった。
「もう、あなた達! 次、こんな事やったら許さないんだからね!」
はーい、と声を揃えて言った子供達の中で、一人がニヤリと笑ったのが見えた。そして、ぷんぷんと怒るイオが、子供達に後ろを見せた、その瞬間。
「おりゃー! イオ姉ちゃんのパンツは、二度舞う!」
何やら必殺技のような事を言いながら、少年がイオのスカートをめくりあげる。フワッと、スカートが元の位置に戻るまで口を開けていたイオが、プツンと切れたのが分かった。
「こら、ガキー! 消し炭にしてやるわー!」
「へーん。姉ちゃんの魔法なんて当たらないよ~」
少年が言うように、イオの魔法は、詠唱に発動、全てが遅かった。本当に消し炭にするつもりはないのだろう。威力も弱かったが、それはその時の俺にはどうでも良かった。
俺はイオの魔法を見ていて、ある事に気付いた。閃き、というほど大したものでもないが、思いついてしまった。これは、もしかすると……。
「イオ! 俺に、俺にもう一回見せてくれー!」
駆け寄る俺を見たイオは、ぎょっとした顔をする。なぜかまた、俺は殴られていた。