色取り取り
キリルという前髪パッツン女が加わり、四人となった俺達は、大通りの方へ出ていた。
元々、路地裏にはカイルの宿を探しに行ったのだが、事情を知ったキリルが、私のところに泊まりますか、と言ってくれたのだ。それで俺達は、有難く、その申し出を受けることにしたのだ。
ちなみに、路地裏で何をしていたんだ? と聞くと、不届きな男達が声をかけてきたのでぇ、クイッとね。と、言っていた。クイっ、の中身は聞かなかった。
宿のアテが見つかった俺達は、何ともなしに一緒に歩いていたのだが、そこでカイルが、こんなことを言いだした。
「キリルの部屋に、俺が行ってもいいのか? ああ、嫌って訳じゃないぜ? 俺としては、別に構わないんだけどさ」
「私は、誰でも構いませんよぉ? 変なことをしようとしたら、その場で殺す自信がありますしぃ」
「カイル君が、そのまま行けばいいよ!」
キリルもそう言っていることだし、俺もそれでいいんじゃないかと、最初は思っていた。だが、ストレのやけに必死な様子が気になっていると、ふと気付く。
そういえば、まだ確認していなかったが。
「ストレ、お前が取ってくれた宿だけど、俺とお前の部屋は、別々だよな?」
「え!? 何で急にそんな。別に、どっちでもいいじゃん……」
「ああ、俺も贅沢は言わないよ。ただ、気になってな。どっちなんだ?」
むー。と口を尖らせて、しばらく黙っていたストレだが、俺が詰め寄ると口を開いた。
「……二人部屋」
「よし、じゃあ俺とカイルで使わせてもらうから、キリルはそいつ、連れてってくれ」
「まぁ、その方が変な遠慮しなくて済みそうですねぇ」
キリルはそう言うと、むんずとストレの襟首を掴み、引きずっていく。
「え! え!? ちょっと、やだ! するよ遠慮! めちゃくちゃするよ! あ、待って。やだやだやだやだ! せっかくのチャンスだったのに! エンジ君止めてよ! 私、エンジ君と一緒がいい! あ、待って! あ……ああぁぁぁ」
ストレが絶叫を上げながら引きずられていくのを見て、俺はうんうんと頷くと、カイルの方に向き直る。
「無事、安寧の地が手に入ったな」
「ま、正直助かるけどよ。良かったのか?」
「ああ。あいつは、ああやって弄られることに喜びを感じているんだ。問題ない」
こうして俺達は、宿へ向かい、帝都での一日目が終わった。
……。
次の日、俺とカイルは二人で帝都を歩いていた。カイルが買いたいものがあると言い、武器屋に行くというので、やることのない俺は、付いて行くことにした。
「正直、舐めてたよ。昨日一日、街を見て回って、割りと厄介そうな奴をチラホラ見かけたわ」
「まあなぁ。でも、それは俺達の親分のせいでもあるだろ……あんないい加減な依頼しやがって」
「はは、違いねえ。だが、俺が武器を補充しようと思ったのは、昨日の一件だ」
「キリルか。俺、あいつとは戦いたくないなぁ。怖いし」
「俺は、キリルを怖いで済ます、お前のことも脅威に感じてんだけどな」
「やめろ。そんなこと言われて、すぐに負けたら恥ずかしいだろ」
俺は参加者の中で、最もやる気がないであろう男だぞ。怖い奴と当たったら、即棄権も辞さない覚悟だ。
「お、ここか」
カイルと話している内に、武器屋に着いた。
「何を買うんだ?」
「エンチャントナイフ。軽くできるやつな。三十本は欲しい」
「そりゃまた……。お、ここに大量に置かれてるやつなんてどうだ? 安いぞ」
エンチャントナイフとは、魔力石が埋め込まれたナイフのことだ。魔力を通すと魔力石に込められた魔法が発動し、様々な効果が現れる。今回カイルが探しているのは、軽量化の魔法が入ったナイフ、とのことだが。
大量に置かれていたナイフを、カイルが一本一本見比べていく。だが、いくつか見た後、首を振っていた。
「駄目だ。俺には全部同じに見える」
「こんなときは店員だ! 店員さん来てー!」
はいはい、どうしました。と、おっさんがこちらに向かってやってきた。
「軽量化のエンチャントナイフ、三十本頼む」
そう言うと、おっさんは意地の悪い笑みを浮かべた。
「お客さん、ここにある物は所謂、くじ引き的な扱いで売っているものでしてね。何の魔法が施されているかは、購入されたあとに、説明する手はずになっております」
これだけ安いのには理由があったか。
だが、待てよ。と、俺は考える。――くくく。おっさん、俺をあまり舐めるなよ。
「おっさん、正規の値段で一本売ってくれ」
「一本でいいのかい? もっと必要なんじゃないのかい?」
「いや、それでいい」
武器屋のおっさんから、一本だけ目的のナイフを買った俺は、それを魔法の目で解析する。後は、これと同じやつを、あっちから選ぶだけだ。
「カイル、これとこれと、あとそれ。全部、軽量化だ」
「何だと!?」
おっさんが驚愕している。やはり正解のようだ。見たか、これが魔王の息子の力だ。……残念ながら、俺の力ではない。
その後も、俺は大量のナイフを目利きしていき、カイルに渡していった。
「いやぁ、こんなに安く仕入れられるなんてな。助かったよ」
「おう、あのおっさんの悔しそうな顔も見られたし、俺も満足だ」
「お、悪い顔だな」
「盗賊だしな」
二人で店を出て、わははと笑っていると、カイルが俺の方を向き、ニヤリと笑った。
「エンジ、お礼にいいもん見せてやるよ。あの女を見てな」
何だ? カイルが指差した女を、じっと見てみる。
すると、どこからかそよ風が吹き、女のスカートを捲り上げた。
「きゃあ!」
慌ててスカートを抑えるも、もう遅い。最初から注目して見ていた俺達には、バッチリと見えていた。
女がこちらを見てきたが、俺達は何も悪くない。ニコっと笑い、事故ですよ、という顔をしておいた。
「カ、カイル君。今のは?」
「秘技、アクシデントブリーズ。膨大な歳月と特訓を経て、編み出した、俺が唯一使える、無詠唱魔法だ」
「カイル、お前……尊敬するよ」
「ああ。エンジなら、そう言ってくれると思っていた」
今のを一から説明すると、まず驚くべきは緻密な魔力操作だ。強すぎても駄目、弱すぎても駄目。そして、対象だけを狙う風魔法の操作。
次に、無詠唱。熟練の魔法使いになり、やっと初級辺りの魔法を無詠唱で使えるようになるとは聞くが、こいつ、これほど難しい魔法を、使い続けたとでもいうのか? 今まで一体どれほどの……。
最後に、魔法を使用したことを、気づかれてはいけないということ。これが何より一番大事だ。事故と言い張るにはそれしかない。
カイルは手をかざすこともなく、表情すら普段通りだった。そう、何もしなかったのだ。ただ、そこに立っていただけ。恐ろしい……アンチェインには、こんな化物がいたのか。
「親友……行くのか?」
「遅れるなよ、俺にしっかりついてこい!」
その後、俺達は一日中、スカート捲りに勤しんだ。白、黒、赤、青、紫、水玉に縞、紐だってあるさ。帝都はこんなに広いんだ。




