真実
「神の奇跡の、正体が分かった」
話は、街が沈む一週間前に戻る。
「正体? 正体ってことは、あれは人為的なものなの?」
「まあ、半分は。少なくとも、神なんてものはいない」
「もったいぶらずに教えてよ! エンジ君! 恋人には秘密はなしだよ!」
誰が恋人だ。だが、クリアも興味深そうにこちらを見ていたので、教えることにする。
フェニクスは、どうでもよさそうな顔をしていた。
「神の奇跡の正体。それは、シンクホールだ」
「シンクホール?」
シンクホールとは、地下水による侵食や、何らかの科学的変化によって、地下にある岩石や空間が崩壊して、大きな穴が開くことをいう。採石場跡など、人工的なものに由来することもあるが、今回はどちらともいえる。
浮遊感を覚えたのは、俺達が『街ごと』穴に落ちたからだ。穴に落ちるなんてそんなこと、起これば普通は気づくだろうが、規模が大きすぎて、気づかなかったのだ。
街の周囲をぐるりと回って調べると、不自然な断層がそこら中にあった。今にして思えば、俺が最初にこの街を訪れた際、森から街全体を見て感じた違和は、ここらへんが理由だろう。
「え、穴? 穴は私にもあるけど……。そんな簡単に、大きな穴が突然できるものなの?」
こいつは、話を聞く気があるのだろうか。
私、何かおかしなことでも言ったかな? と、言うような顔で、首を横に傾け、ニヤけるアイマスク女。鳥は、寝そべり始めていた。やれやれと、最後にクリアの方を向くと。
「……私も、ある」
もういい、分かった。
「通常であれば、こんな街全体を覆うような穴は、できないと思う」
こんなことがほいほい起きていたら、世界中穴だらけでパニックだ。
「だが、それを可能にした要因が、この街には二つあった」
「神石?」
俺は頷く。もう一つは……。
「ハイハイ! 分かった、分かった! もう一つは、魔力水だね?」
「正解だ。まず、あの神石とやらだが、あれは土魔法の入った魔力石だな」
「え! 嘘!? でも、そうだとしても。あん! 大きすぎるよぉ……」
無視だ無視。
魔力石とは、魔力を帯びた石のことをいう。簡単な魔法なんかを付与させることが可能で、魔法をまともに使えない人が、火を起こす等の用途で使うことが多い。
大きい街なら、道具屋に普通に置いてある。しかし、あんな大きな魔力石、俺も見たことはない。
自然にできるとしても、何年、何十年……。いや、何百年かかるのか。
「理由は分からないが、確かに魔力石だ。付与されている土魔法は、削岩系のやつだろうな。そして、それだけでは、あんなことは起きない」
「それで、魔力水ね。うっ。分かってきたら、ちょっと怖いかも」
そう。この街の川や地面に溶け込んだ地下水は、全てあの山から流れてきている。正確には、魔力水の溜まった精霊の湖からだ。
街の人が言っていた、この街に来てから調子がいい、というのも、魔力を帯びた水を飲み、魔力が補給されていたからだ。
つまり、神の奇跡とは、壁に埋まった土魔法の魔力石が魔法を発動し、それが魔力水を通して、ここら一帯全ての地面に浸透させ、引き起こしたもの。
自然に出来るシンクホールとは違い、魔法を使ったことで、一気に地下の岩石等が崩壊し、まるで浮遊をするかのような、地上への落下をしていたのだ。
地球ではあり得ない規模のシンクホールは、この世界だからこそ、起きた。
「ほえ~。でも、よく気付いたね~」
「……すごい」
褒められて、悪い気はしない。
「あー。認めたくはないが、気づいたきっかけの一つは、お前なんだよ」
少し良い気分になっていた俺は、アイマスク女の顔を見ながら、言う。言ってしまった。
「あ! 私の穴に入りたいっていう願望が、きっかけにな……」
「違う。精霊の湖に落ちただろ? あの時に、底に亀裂が入ってるのを見たんだ。それが最初だな」
まあ、大きな衝撃を与えなければ、まだ何回かの神の奇跡には、耐えられるだろうとは思った。だが、近いうちに決壊する。そうなれば、何も知らない街の人からは、死人がでるだろう。
「さすが、私の最愛の人。すごいね!」
「やめろ、お前の最愛の人には絶対なりたくない。すでにお前の中で決まっていることなら、できるなら辞退させてくれ」
「……すごい。エンジ」
「そうだろ?」
「ん~! もうもうもう! きっかけ作ったのは私でしょ! 私にも優しくしてよ! もっと構ってよ! 愛してよ!」
全身を使って、構ってよアピールしてくる。――ああ、うっとおしい。
「よくよく考えたら、あの貧乳精霊に殴られたのがきっかけだ。うん、お前じゃなかったわ」
引き剥がし、蹴り飛ばす。
「もうもうもう! 私、私だって……。う、うぇ~ん」
アイマスク女は、コロコロと転がった先で、泣いた。
「どうするの?」
慣れてきたのか、そんなアイマスク女を無視して、クリアが聞いてきた。
「一応、解決策のようなものはある。街の人にも、世話になったしな」
「私も、手伝う」
ふんと、握りこぶしを体の前で作り、クリアがやる気を見せていた。
「んー。お前はとりあえず、いつも通り神の奇跡の巫女をやってくれ。それが俺を助けることになるからさ」
「うん……分かった」
若干、不満そうにしているが、仕方ない。街の人を助けるのは嘘じゃないが、俺はこの機会を利用して神石を盗み出そうと思っている。こいつに、盗賊の片棒を担がせるわけにはいかない。




