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ITエンジニアの異世界デバッグ  作者: 冷静パスタ
第一章 ITエンジニア、異世界にいく
3/202

エンジ

 おお、これは何とも――


 誰が言った言葉だったか。誰が? と問われれば、誰でも言いそうな言葉だし、言われそうな言葉ではある。

 ああ……思い出した。そもそも、これは誰かに向けて言った言葉ではない。俺の手がけたソフトウェアに対する評価だった。言ったのは取引先の課長で、良いものを作った時も、悪いものを作った時もこれだった。今にして思えば、口癖だったのだろう。

 そんな言葉は今、俺に対して向けられていた。


「ああ! 大事なことを聞き忘れていたわ! あなた、――なの?」


 俺は答えていた。それはもう、答えていた。何に? 答えるって行ったら質問に、だ。

 地球から召喚され、勇者として生きていくことを決めた俺に待っていたのは、王女による質問の嵐だった。

 黙って俺とおっさんの話を横で聞いていた時は、お淑やかなタイプだな、と思っていたが、違ったようだ。家族構成から始まり、趣味に特技、果てには交際遍歴まで。

 怒涛のような質問に、俺は堪えていた。王女様、あと何回聞き忘れそうですか?


「エンジ……ニア、です?」

「そう、エンジ・ニアっていうのね。エンジって呼ばせてもらうわ」


 名前を聞かれていた。もう、何でもいいや。偶然日本人っぽい名前だしな。

 俺は成り行きで、エンジと名乗ることにした。


「エンジと言うのか。それではエンジ、お主の力を確認させてもらう。勇者としてのその力を」


 俺の力ね。正直、日本にいた時と何も変わった感じはしない。大丈夫だよな? 今でこそ、こんな扱いだが。俺に何の力もなくて、見捨てられたりしないよな? いや、異世界で自由に過ごすって意味ではそれもありなのだが。

 さっきは魔法だとか言っていたし、そんなファンタジーな世界では、力はあるに越したことはない。


「大丈夫、ちくっとするだけじゃ。さきっぽだけじゃからな」


 何をするつもりなんだ、このおっさん!? 俺は逃げる用意をする。


「血を、少し抜くだけじゃ。そんなに怖がらなくても大丈夫じゃ。なーに、ワシに任せておけ」

「おっさん……!」


 おっさんの優しくも心強い声に、俺はほいほいと手を差し出す。そして、人差し指に針をぷすっと刺された。

 おい……深くね?


「あ、失敗した」


 痛えぇぇぇ。あ、じゃねーんだよ! 痛いに決まってるだろ、こんなん! もっと斜めから刺すとかしろよ! 

 無駄に多くの血が、下に置いてある鑑定紙と呼ばれる紙に、吸い込まれる。淡い光の後、何も書かれていなかった紙に、文字と数字が浮かび上がった。


「ん~?」


 メルトが興味深そうに鑑定紙を眺める。そして、一瞬ではあったが、悲しそうな顔をしたように見えた。


「どうじゃった?」

「身体能力はそこそこ。魔力量もそこそこ。特殊なスキルは、言語理解くらいだけど、これは召喚された者だったら、皆持ってたっていうし……」

「つまり?」

「微妙、ね。体を鍛えて魔法を覚えていけば、国の将軍クラスにはなれるかもね。頑張れば」


 本当に俺、勇者? しかも頑張ればって何? そりゃ、努力が不要だとか言うつもりはないけれども。

 もう、帰っていいですか? 魔力なるものが、俺にもあることが分かったのは良かったが、これだと世界救う前に死んじゃうよ? 


「おお、これは何とも……」


 課長、今回は悪い意味ですね?

 将軍クラスって多分、普通に考えたら凄いけど、俺は勇者らしいので!


「短い間だったが、世話になった。んじゃ、俺はこれでな」


 俺は立ち去る。もう、用はなくなったはずだ。俺がこの世界で平和に暮らすためにも、新しい奴でも呼んでおいてくれ。



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