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ITエンジニアの異世界デバッグ  作者: 冷静パスタ
第二章 神の住む街
23/202

騒動

「ん~。やっぱり、神殿を破壊して、強引に盗むしかないか?」


 俺は今、街の全景が見渡せる、崖と言ってもいいような場所から、山にある神殿を見ていた。色々と考えてはみたが、特に解決策は思いつかない。


 山の向こうから穴を掘って、反対側から盗むとかどうだろう。いや、何年かかるんだよそれ。穴が開通する前に、クリアが死んでしまいそうだ。

 考えれば考えるほど、強引な手段しか思いつかない。


「おい! 早まるんじゃない!」

「ん?」


 下の方から声が聞こえてきた。何やら、少し騒がしい。


「早く降りてこい!」

「そんなことをしても、親が悲しむだけだぞ!」


 なんだ? 何て言ったかまでは聞き取れなかったが、俺に言っているのか?


「うるせぇ! こっちは今、考え中なんだよ! 邪魔だからどっか行ってくれ」


 何か、ないものかね……。

 ごろんと寝転がり、空を見る。ああ、いい天気だ。


「おーい、降りてこい!」

「ああ……神よ」

「君には、その、やりたいこととかないのか!? 君みたいな者でも、何かあるだろう?」


 うるさい。よくは分からんが、好き勝手言われている気がする。

 少し、考えが煮詰まっていたこともあり、俺は吐き出してしまう。


「俺も、どうしたらいいか分からないんだよ! お先真っ暗なんだよ!」


 そう言うと、下にいた奴らがボソボソと話しだした。


「おい、まずいぞ」

「随分と、追い詰められているようだな」

「私、あの人見たことある。確か最近、街に来た人だったと思う」

「なるほど。やはり、神のいらっしゃるこの場所を選んだというわけか……」


 俺は、寝転がりつつも、声の聞こえる方をちらりと見てみると、何らかの話し合いが終わったのか、その場にいた者達が互いに頷き会うところだった。

 こんな所で、秘密の作戦会議か? 一体何の? まあ……いいか。

 興味のなかった俺は、視線を逸し、また晴れ渡る空を眺め始めた。すると。


「俺達は、ここを動かない! 君が、死ぬのを諦めるまでは!」

「まだ若いじゃないか! 何をそんなに悩むことがある!」

「神も、自害なんてお許しにはなられませんぞ!」


 あ? 自害?

 嫌な予感がし、もう一度下を見てみると、下にいる者達全員が、俺のいる場所を見上げていた。

 どうやら、俺が頭を悩ませているのを見たのか、飛び降りて自殺するものだと思っているらしい。場所もお誂え向き。俺は、説得されていたのだ。


「いや、違う。俺は……」


 勘違いを正そうとしたその時、人だかりの中から見知った顔が飛び出した。それは、アイマスクを着けたあの女だ。

 アイマスク女は、人々の一歩前に出ると胸の前で両手を組み、すうっと息を吸った。


「死なないで! そんなに思い詰めてたなんて、知らなかったの!」


 あ? 何か始まったぞ。


「ごめんなさい。いつも……いつも、あなたには助けられてたね。私、あなたの優しさに甘えてただけだった。でも! これからは、私があなたを助けるから!」


 そう言い切ると、顔に手を当て泣いていた。いや、あれは泣いている振りだ。間違いない。あ、ほら。今一瞬、口元がニヤリと笑ったぞ。

 そんなアホな芝居だったが、群衆に火が注がれる。


「おい! この娘、お前の恋人じゃないのか! こんないい娘を残して死ぬのか!?」

「彼女の為にも死なないであげて! 二人で考えれば、悩みなんてなくなるはずよ!」

「あの男が死ねば、僕が君を養うよ!」


 あいつ、本当何してんの……。

 そいつはいい娘ではない。変な娘だ。あと最後のやつ、俺が死ななくても、そいつ引き取ってくれ。

  当の本人は、泣く振りをしながらも、恋人という言葉に、ハイソウデスとか、アイシテルとか、いい加減なことを言っていた。


 ……。


 話がどんどん大きくなる。もうこれ、飛び降りちゃおうかな~。





 ====================





 自殺騒動から次の日、俺はクリアに会っていた。ちなみに、下に降りて自殺ではないと周りに説明した後、アイマスク女には、ボディブロウを決めておいた。

 うっ、と崩れ落ちるアイマスク女を見て満足した俺は、その場を立ち去った。


「……何してたの?」

「ああ、まあちょっと、考え事をな」


 昨日の騒ぎをどこかで聞いたのか、クリアは俺が起こした事件を知っていた。


「……何、考えてたの?」

「神を、一発ぶん殴ってやる計画を練っていた」


 俺は昨日のことを思い出し、少しぶすっとしながらも答える。冗談とでも思われたのだろうか。クリアは、ぽかんと口を開けた後、楽しそうに聞いてきた。


「ふふ。それで、神様はどうなっちゃうの?」

「まあ、痛いだろうな。泣いちゃうくらいには」


 というより、泣かせるのが目的だ。


「何それ。そんなこと考えてたんだ。……変な人」


 クリアは、くすくすと笑う。……あれ? そんなクリアを見ていると、何か違和感を覚えた。


「お前、笑ってる?」

「え? あ……」


 こいつの笑い顔を見たのは初めてだった気がする。というよりも、真顔以外の表情をあまり見たことがない。

 クリア自身、不思議だったのか、自分の顔をペタペタと触っていた。


「あ、私」


 少し、嬉しそうな表情をするクリアが俺の方を見てくる。


「ん? ああ。いいじゃん、いいじゃん。笑うととっても……」

「とっても?」


 首をくてんと横に倒し、何かを期待した表情になるクリア。


「ブサイクだな、お前」

「そう。ありが……って、よくないよ!」


 笑い顔を初めて見たかと思ったら、今度はツッコミを入れられた。初ツッコミだ。エロい意味ではない。

 今は、頬をぷくっと膨らませて、私は怒ってます! という表情。


 本来、こいつもこういう娘なんだと思った。普通に笑って、普通に怒って、普通に悲しんだりする、そんな娘。

 怒っているところ申し訳ないが、俺はそんなクリアを見て、少しだけ笑った。


「はは、笑うのに慣れてないんだよ。顔の筋肉が引きつって不自然なんだ」

「どうすればいいの?」

「もっと笑え。笑って、怒って、泣いて。泣くのは違うか? まあでも、そうやってころころと表情を変える、お前の方が……」

「お前の方が?」


 また少し、期待した表情の後、先程俺が言ったことを思い出したのか、ジトッとした目を向けてきた。


「あー。いいと思う」


 そう言うと、訝しげに俺を見ていたクリアが、一瞬変な顔になり、そして、笑った。

 ぐにゃっと表情を崩して、声にだして笑うクリア。その笑顔は、さっきよりも良い笑顔だった。



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