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ITエンジニアの異世界デバッグ  作者: 冷静パスタ
第二章 神の住む街
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盗賊団アンチェイン

 分かってない……お前は何も分かってない――


 誰の言葉だったか。

 ああ……思い出した。それは、過去の偉人が残したような言葉ではない。俺の上司だった男が、俺に最後に言った言葉だ。

 俺よりは偉い立場にいたので、特に何かを成し遂げたわけではないが、文字通りの意味では、偉人の言葉なのかもしれない。あの上司が、日本で最後に言葉を交わす相手になるとは、夢にも思わなかった。

 その上司が言った言葉と全く同じ言葉を、俺は今、言われていた。


「分かってない! エンジ、お前は何も分かってない!」


 ……。


 アドバンチェル冒険者ギルド受付嬢のサラに、俺のお手伝いがしたいと涙ながらに言われ、仕方ないなと快く受け入れてから、一ヶ月が経っていた。

 決して、過去は捻じ曲げてはいない。俺はそういうところ、結構真面目なんだ。


 そんな真面目な俺だが、今は冒険者兼盗賊という職についている。盗賊って職なのか? ……まあいい。

 『盗賊団アンチェイン』。サラに聞いた話では、こうだ。

 知っている人は知っているし、知らない人は知らない。何でもかんでも略奪していくようなゴロツキではなく、盗むものは少し特殊な物が多い。メンバーは各地に散らばっており、普段は、物取りとは無縁の生活を送っている者が、ほとんど。


 時折、リーダー? ボス? 盗賊的には親分がいいか? から、依頼の内容が書かれた魔力文書が届く。魔力文書は、一定以上の魔力を持つ者しか、開ける事ができず、そこに盗むものと場所だけが書かれている。


 今回、俺に届いた文書であれば、『神の住む街で、神の涙を掬え』とだけ、書かれていた。最初に見た時は、何かのイタズラではないかと思った。こんな、情報も足りない、意味不明な依頼内容だが、その場所に、それは確実にある、と言われている。


 アンチェインは、親分自ら認めた者しかメンバーになることができないらしく、その分、実力は折り紙つきで、特殊な才能や戦闘能力を持っているらしい。

 奪取率、百パーセント。アンチェインに狙われたものは諦めろ、とまで言われるほどだ。

 おっと、俺の自慢みたいになってしまったな。


 存在するのか、しないのか。半ば、アンチェインは都市伝説のような扱いになっているらしいが、その噂話を信じ、自らの手中に収めようと、アンチェインの情報を集めている貴族や、国まであるとか。


 まあ、ここまでが、自分で集めた情報や、サラに教えてもらったこと。

 俺は新入りのため、ほとんど何も知らないのだ。親分の名前も、顔すら知らないし、メンバーの一人とさえ、会ったことがない。

 こんな謎組織の手伝いを何でしたいんだ? と、サラに聞いてみると、過去に命を救われた、と言っていた。あと、お手伝いする分、報酬を少しよこしなさいとも言われた。

 あの女の場合、そっちが目的だろうな。世知辛い世の中だよ。

 

 そして、ついに俺の元へ依頼が届き、依頼の情報を集め始めたのが十日ほど前。それから何とか、サラの手伝いも借り、それらしき情報は集まった。

 集まりはしたのだが、重要な部分は、何も分かってはいない。神の涙ってなんだよ? 新人に一人に仕事を任せるとか、采配間違えてるぞ、親分。すまんな、俺が奪取率百パーセント、破っちまうかもしれないわ。

 

 これが、今日の朝までの話で、俺は今、歩いて目的の街に向かっているところだ。


「うぉぉおん! キャサリン~」


 キャサリンって誰だよ。


「おい、うるせえぞ」

「うぉぉおん。お前は、彼女のことを何も知らねえから! うぉおおおおん」


 隣を歩く、うるさい相棒。こいつはそう、失恋していたのだ。というか、俺が知っていたら怖いだろ。鳥のあれこれなんて。


「あの透き通るような羽、滑らかなクチバシ、美しい鳴き声……。あんないい女、見たことなかったんだよ!」


 知らんがな。俺からしたら全部同じに見えるわ。全く。

 フェニクスは、放っておくことにした。何しろ、こいつはバカなのだ。


 うるさい相棒を無視しつつ、しばらく進んでいると森が見えてきた。あの森を抜けると、目的の街だ。

 街は山に囲まれているのだが、あの森からなら、簡単に入ることができる。ま、山を越えていくという方法でも、行けることは行けるらしいが。


 それからまた少し歩き、ついに、俺達は森の入口に到着する。一休憩し、さて入るかという時だった。

 一匹の小さな鳥が、俺たちの頭上を横切り、森に入って行く。何となく、視線で追いかけていると、先程まで、おんおんと聞こえていたフェニクスの泣き声が、聞こえなくなっていた。嫌な予感がした俺は、振り向く。


「……天使だ」

「ん?」

「エンジ、ちょっと俺様、やることあっから」

「あ、おい!」

「自慢のトサカがビンビンだぜ。鳥肌立ったわ。じゃあな」


 そう言って、バカは飛び去っていった。フェニクスは、先程の小さな鳥を追いかけていったのだろう。

 あれだけ泣いていたのは何だったんだ? 節操なしにも程がある。あと、お前は常に鳥肌だから。


「はぁ」


 分かってはいた。あいつはいつもこうなんだ。放っとくのが、一番疲れなくていい。

 しかし、頭頂部のあれは、トサカだったのか。ただの体毛だと俺は思っているのだが……。と、どうでもいいことを考えつつも、一人になった俺は、森へ侵入した。



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