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ITエンジニアの異世界デバッグ  作者: 冷静パスタ
第一章 ITエンジニア、異世界にいく
10/202

エンジニアの魔法1

「ごめんごめん。魔法の事だと思わなかったの。許してよ」


 俺は、殴った本人であるイオから治療を受けていた。


「普通、いきなり殴るか?」

「ごめんって。あなたが余りにも必死な顔だったから、つい。それで、何だっけ? 私の魔法を見たいんだっけ?」


 まだ言いたいことはあったが、まあいい。この二年間を思えば、何でもないことのように思える。それよりもそう、魔法だ。


「ああ、頼む」

「種類は何でもいいのね? じゃあいくわよ」


 そう言い、イオは詠唱を始める。


「おい……。なぜ掌をこちらに向けているんだ?」

「え、ああ。何かに当てなくてもいいのね。ごめんごめん」


 失敗、失敗と可愛く舌を出しているが、おかしいだろ。何かに当てる必要があるとして、何で俺に当てようとする?


「じゃあ、いくね」


 再度、イオが魔法の詠唱を始めたのを見て、俺は魔法の目に魔力を通した。

 詠唱と共に、イオの掌辺りに魔力が集まり、色をつけ始める。そして、詠唱が完成した瞬間、色の付いた魔力が形をなし、前方に飛んでいった。今のは、初級魔法のファイアボールか。やっぱりこれは……。


 というより、その魔法を俺に当てるつもりだったのか? と、頭の隅で思いつつも、簡単な魔法なら、他にもいくつか使えるよ、と言うイオに、別の魔法もいくつか見せてもらった。

 多分に漏れず、どの魔法も詠唱から展開までが遅かった為、しっかりと見ることができ、俺は満足する。今回の、スカートめくり・パンツがひらり事件は、間違いなく、俺にとって収穫のあるものだった。いや、変な意味ではなく。


 ……。


 それから数日が経ったある日、にわかに村の入口が騒がしくなった。魔物が村を襲ってきたとか、そういう類の雰囲気ではない。

 何事だ? 俺は、その騒ぎの中心に向かってみることにした。


「おい、大丈夫か! しっかりしろ」

「一人か? 皆はどうした?」


 俺がその場に到着すると、体中傷だらけの若い男一人、村の皆に迎えられている所だった。傷だらけの男は、村長と何かを話しているようだが、ここからではよく聞こえない。

 そのまましばらく様子を伺っていると、村長との会話が終わると同時に、若い男は意識を失った。


「何だ? 何が起こっているんだ?」

「あいつは、確か森の開拓のために魔物を倒しに行った奴だよな? なぜ一人なんだ?」

「用があって、一度戻って来たとか?」

「でも、只事ではない様子だったぞ……まさか」


 俺の近くで見ていた村人達も口々に話し始める。

 聞いた限りでは、俺がこの村の護衛を務める理由にもなった、出払っている人達というのは、近くの森の開拓をするために、魔物討伐に行っていたらしい。だが、あの様子だと。


 気付けば、その若い男と話していた村長が、こちらへ向かって歩いて来る所だった。こりゃあ、俺の仕事っぽいな。


「エンジ殿、少し厄介な事が起きたかもしれん。話を聞いてはくれんか?」

「ああ、何が起きた?」

「さっきの男は、近くの森へ魔物討伐に向かった者の一人でな。あいつが言うには、森に膨大な数の魔物が出たらしい」


 魔物か。膨大な数というが、そもそもの目的を考えるに、森へ向かった奴らは、ある程度戦う力を持っていたんだよな? 表情に出ていたのか、村長が続けて言う。


「森に向かったのは、帰ってきた彼を含め、狩りのうまい者や、魔物を狩るのを仕事としているような者達だ。君が倒した熊の魔物だって、一撃とはいかないが倒せる者達。だが……」

「思っていたよりも、強い魔物が大量に現れた?」

「そのようだ。流石に、一度引こうとはしたらしいのだが、それも上手くはいかなかったようで、皆散り散りになってしまったらしい。そして、今の所帰ってきたのは彼だけだ」


 さらに話を聞くと、あの森には、そこまで強力な魔物は今までいなかったらしい。いたとしても、それこそ俺が倒した熊の魔物くらいが関の山。それでこの際、村の規模を大きくする為に、森の開拓に乗り出したのだそうだ。


 想像以上にまずい事態。俺に頼みたいのは、引き続き村の護衛ということだが、あの熊の魔物より強い奴が数匹、いや、数十匹は出たと思っておいてよさそうだ。そんなのが一斉に村を襲ったらと思うと、正直、俺の手にも余る仕事だが。


「頼む。こんな事態になってしまったが、やってくれないか? 俺達が村を捨てて、逃げる準備をする間だけでもいいんだ」

「村を捨てて逃げるのは、正しい判断だと思う。でも、三日……いや、二日待ってはくれないか? もちろん、その間の村の護衛は俺がする」

「ああ、準備をするのにも時間がかかるので、それはもちろん構わないが、どうするんだ?」

「森の魔物を、倒してみる」

「森の魔物を? いや、それができるならありがたいが……なんだ!?」 


 近くで悲鳴が上がる。悲鳴を上げた女の視線を追うと、森の方から走ってくる狼の魔物が数匹。数は七。走る途中で、まとまっていた陣形を変え、正面から三匹、左右から二匹ずつが、村の方へ迫ってきていた。


「さっきの男の血でも追われたのか?」

「エンジ殿! 厳しいだろうが、俺と一緒に正面の奴らを頼む! おーい! 戦える者は武器を持て! 半分ずつ別れて、左右の奴らを!」


 村長が、きびきびと号令を出す。村人達はそれを聞き、青ざめつつも戦う準備を始めていた。俺は、慌ただしく動く村人を避け、一番に外に出る。


「フェニクス、ここは俺一人でいい。他にも魔物がいないか周囲を見てこい」

「エンジ、やるのか?」

「ああ」


 肩にとまっていたフェニクスを索敵に出す。そして俺は、一人で狼の正面に出た。形は、できているんだ。後は実践のみ。


「マジック・マクロ ファイアボール RUN」


 俺は、初級魔法のファイアボールを放った。距離はそこそこある。狼の魔物は、放たれたそれを見て難なく躱す。が、俺の魔法はこれで終わりじゃない。


「RUN RUN RUN」


 俺の掌からファイアボールがいくつも放たれる。狼の魔物達が逃げ場を失い、正面にいた三匹は火に包まれ、絶命する。俺はそれを見届けると、そのまま、その場からファイアボールを左右に向けて何発かずつ放ち、七匹全てを倒す事に成功した。


「やっぱ、かなり使えるなこれ」

「エンジ殿、今のは?」

「中々だっただろ?」


 俺が一息で全ての魔物を倒してしまったのを見て、ぽかんと口を開けた村長が話しかけていた。


「エンジ殿! 中々なんてものではありません! 今の魔法! 詠唱してなかったように見えましたが!?」

「ああ」


 そして、鼻息が荒い。まあ、気持ちは分かる。自分でも、これができた時は、飛び上がって喜んだ。その勢いのまま、歩いていたイオのスカートをぺろんとめくったくらいだ。


「おーい! エンジー!」


 興奮覚めやらぬ村長を抑えていると、フェニクスが戻ってきた。


「上手くいったようだな」

「おう。そっちはどうだった?」

「この辺りは、もう大丈夫だ。で、ついでに森をちょっと見てきたが、ありゃ何だろう? 何だか、異常な雰囲気だったな」

「そうか」


 やっぱり、急がないとな。今回の魔法が成功したということは、もう一つのあれも、上手くいくはず。それは、俺にとってこの先、絶対に必要になるもののはずだ。

 自分で言い出した納期は、およそ二日。それまでに必ず完成させてみせる。



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