いつもの光景
「ああ、暇だなあ…」
「ぐぬぬ、兎風情が我が主の膝を占領しおってからに……!!」
「あれれ?そんなに起こったら小皺が増えるよ?お、ば、さ、ん!」
「ぐおおおお!!!もう我慢ならんぞ!!!」
ある日の正午あたり、神社裏手のなだらかな平原ではいつものように喧噪が響いていた。
そこにいるのは1人の男と7人の女。
男の膝を独占する女に怒鳴り散らす女。
こういうのをハーレムとでもいうのだろうか?
そんな小説でしか見かけられないような光景がそこにはあった。
「もう少し静かにしてくれればうれしいんだけどなあ…」
そういって平原を駆け抜ける風に身を任せ、目をつぶる男。
いや、青年と言っていい年齢だろうか。
彼のつけている衣服、つまり学生服からしてこの近辺の高校のモノだということがわかる。
「本当にそうね、もう少し穏やかな環境で主とこの風を楽しみたいのだけれど?」
「まったくだな」
彼に同調する台詞を口にしたのは残る5人の女の内2人。
騒ぎ立てる2人を三白眼を作り睨む。
睨む視線に当初の2人はその居心地の悪さで身を数回よじらせ、膝に座っていた女は膝から降りる。
そして2人の目があったかと思うとまたにらみ合いを始める。
まだ懲りない2人に制裁を加えるため握り拳を堅くする三白眼の女2人。
その光景にため息をついた青年はまだ何も行動を起こさない3人の女へと目を向け、またため息をつくのだった。
「せめて彼女たちのように大人しくできないのかい?」
「一応主に言っておくけどその3人の内2人は寝てるわよ」
睨んでいた女2人の1人が呆れ半分で体操座りをしている女2人へと目を向けて口にする。
それを聞いた青年も呆れたオーラを出して頬を掻いた。
「道理で物珍しいと思った。寝てる方が大人しいならそのままで居てほしいものだけどね」
「それもそうね」
拳の制裁を2人に落として場を鎮めた女が寝てもいなければ行動も起こさない最後の1人に声をかけた。
「んで、お前はなにしてんだ?」
「……風と……お話し……してた」
質問者はその予想外の回答に頬をひきつらせる。
「へえ、それは面白そうだ。ところであとの5人はどうしたんだい?」
「昼ご飯をお使いに行ってもらってるわ。ほらあそこに」
そう答えた女が指さす先には買い物袋を持った女が5人。
「疲れたわ!この服ったら着にくくて仕方ないんだもん!!」
そういっていままで着ていた現代風の服をいつも着ている服に替えるのは気が強そうな女。
「まあまあ、仕方ないんだ。我慢してくれよ」
「私があなたの名には逆らえないの知ってる癖に!」
「それが惚れた弱みってヤツよ。我慢なさい」
どうやらとんでもない方向へと話が進んでるようだと苦笑する青年。
このままではいつまで立っても昼飯にありつけなさそうだ、と話の流れを変えるために一言発した。
「さあ、そろそろご飯にしようか?」
これがいつもの光景。
高校生の青年と女12人が団欒するだけの平和な光景。
しかしながら他人から見れば異様。
青年の学生服に対し、女たちは色形が変わろうとそれは着物。
その着物を優雅に着こなしていた。
女たちが発するオーラはまさしく人外のそれ。
神々しくも暖かい神の如き力。
また、それに呑まれない青年も異様。
ただ彼らの団欒する光景は夫婦のような甘いオーラに包まれているのに気づく者はいない。
そしてその光景もある日突然変わることとなる。