いーこにしてろよ。2
どうも、碓氷です
いーこにしてろよ。の第二弾登場です!!
第一弾をまだ見ていない方はそちらを先にご覧いただくと、さらにお楽しみいただけます。
今回の語り手は龍汰なので、前作とはまた違った雰囲気となっています。
それではどうぞ☆
俺は龍汰。
一夜限りの交わりで孕ませてしまった、男勝りな女・雅との再会から、半年が経った。
この前、とうとう俺らは籍を入れた。
本当は、結婚という決断にとても苦悩した。
雅はまだ、俺を信じ切れていないところもあるようだし、何より、俺にのしかかる重い責任を果たせるかどうか、自信がないからだ。
けれど、もう時期2歳を迎える幼い龍雅のことを考えると、この選択は賢明なのではないかと思う。
龍雅は初対面の時も、俺に懐いてくれて、命の重さ、そして息子ができる喜びを教えてくれた。
俺は家族を養うために、定職に就いた。
まだまだ稼ぎは少ないが、少しでも家族を幸せにしたいと思い、一生懸命働いている。
そして、今まで俺が犯した過ちは、消すことはできなくても、龍雅を愛することで少しずつでも償えたらと思う。
「雅……」
ベッドの上、俺は優しく雅を抱きしめた。
龍雅が産まれた時、俺たちは愛しあっているわけではなかった。
それは、龍雅にとって残酷なことだ。
今、俺は雅を心から愛している。
彼女がいなければ、彼女が中絶していれば、今の俺はない。
最低な人間のグズのままだっただろう。
自分の人生を身を呈して変えてくれた雅が、本当に愛おしく、大切に思う。
そして龍雅は、俺たちの愛の結晶なんだと伝えたい。
次に産まれてくるかもしれない子どもにも、平等に愛を注ぎたい。
「いーこにしてろよ」
俺は久しぶりにこの言葉を口にした。
顔を真っ赤にして、必死にしがみついてくる彼女は、本当に愛らしい。
……俺、そうとう雅に惚れてるみてーだ……
俺は彼女に堕ちていった。
その夜、俺は眠れなかった。
隣で雅は静かな寝息を立てている。
行為中の彼女の反応がいつもと違う気がした。
妙に退屈そうというか、上の空のような。
俺は思考を巡らせた。
もしかして、不倫してたりする……?
俺よりも上手い奴と寝て、俺とのセックスに感じなくなった……とか?
俺は、雅の寝顔を眺めた。
ーー雅に限って、そんなこと。
雅は、赤の他人であった俺の子をひとりで産んだ。
そんな正義感の強い奴が道徳を無視するなんてこと、ないだろう。
俺の考えすぎだ、きっと疲れてるんだ。
そう信じていたかった。
次の日、久しぶりに仕事が休みで部屋でゴロゴロしていると、雅が外出の準備を始めるのが視界に入った。
「出かけんの?」
「え、う、うん……。ちょっと買い物に……」
そう言って、引きつった笑顔を見せて出かけていった。
その様子は、明らかに怪しかった。
しかも、買い物なら昨日済ませたはずだ。
「……ぱぁぱ」
呼ばれて振り向くと、ハイハイで近付いてきた龍雅が俺の袖を掴んでいた。
「なんだ?」
ひょいと持ち上げて、膝の上に座らせる。
「うひひぃ」
俺の顔を見て、満面の笑みを浮かべる龍雅。
自分に似てると思っていた龍雅の顔だが、全くの別人に見えてきた。
まさか。
……まさか、な。
だが夜、事件は起きた。
いつものように、彼女の身体を求めると、俺の手は軽く振り払われた。
「……ごめん、今日はそんな気分じゃなくて」
そう言って、彼女はもそもそと布団へ潜っていった。
ーーとうとう拒否された。
俺は耐えきれず、夜の街へ飛び出した。
確実に、雅は隠し事をしている。
絶対に、俺じゃない男がいるんだ……。
「お兄さん、暇なの?」
いつの間にか、ラブホの建ち並ぶ通りに来てしまっていたようだ。
俺は、欲を満たしてくれる相手を探している女に逆ナンされた。
「や……」
俺、妻子持ちだから、と断ろうとして俺は口を止めた。
いや、俺の女は不倫している。
それなら、俺だって遊べばいい。
元は、そういう奴だっただろ。
女なら見境なく性欲処理の道具にしてただろ。
「……あぁ、暇だ」
要求を受け入れると、女は俺の腕に抱きつき、胸をすり寄せてきた。
ホテルの部屋に着くや否や、俺は女をベッドに突き飛ばした。
雅を思い出して、妙にイライラした。
「やーん、激しいぃ。ゴーインなのね」
女は自ら服を脱ぎ捨て、俺の股間に飛びついてきた。
……俺だって楽しんでやろう、お前じゃない、他の女と。
だが、女を見つめれば見つめるほど、雅と比べてしまう自分がいた。
雅なら、もっと恥じらいがあって可愛らしい。
雅なら、嫌がる素振りを見せながらも、煽ってくる。
雅なら、雅なら……。
「もう、好きにしてぇぇ!!!!」
だが、目の前にいるのは、自ら脚を開く下品な女。
昔なら、こんな女こそ、めちゃくちゃに食ってやってた。
でも今は……。
「わりぃな、やっぱ他の男にイカせてもらえ」
「……えぇっ?」
俺は服を羽織って部屋を去った。
俺はその晩、公園のベンチで一夜を過ごした。
朝になって家に戻ると、心配そうな顔をした雅が飛び出してきた。
そして俺の前に立つと、キッと顔をしかめた。
「アンタ、妻子持ちでありながら、夜遊びかい?」
その時、俺は限界を超えた。
「あぁ、そうだよ、わりーかよ!!でもな、旦那の他に男作ってる奴に言われたかねーよ!!」
「は?男?」
「とぼけんなよ?こっちにはお見通しなんだよ」
「アンタ、何言って……」
男の嫉妬は見苦しいってわかってる。
でも、俺は抑えずにはいられなかった。
「俺はお前や龍雅の幸せのために働くことが幸せだった。そして、今度こそ自分の子どもが産まれてくるのを見届けたいって……。なのに、お前は俺を拒否した。悔しくて悔しくて、他の女を抱こうとした!!でも、お前と比べちまって、お前の愛らしさを思い知るんだ!!俺はもう、雅以外の女は抱けない。なのに、お前は俺以外の男と簡単に寝れるんだな!!つーか、龍雅だって、本当に俺の子なのかよ!?」
今の自分がみっともないことは十分承知だった。
でも、俺には自分を守ることしかできなかった。
「……俺が嫌なら出てけよ」
「龍汰、アンタ、勘違いも甚だしいわ」
雅は、曇りのない真っ直ぐな瞳で俺を見つめてきた。
「……実はアタイ、妊娠したんだ。龍汰の子をね」
「妊……娠……」
「そうさ。黙ってて悪かったよ。アタイらのために仕事をがんばる龍汰を刺激しないようにと思って、落ち着いたら話そうと思ってたんだ。拒否して本当にごめん……」
「じゃあ、昨日の昼間に出かけて行ったのは……」
「……産婦人科に行ってたんだ」
俺はヘタリと床に座り込んだ。
雅は俺のためを思ってくれていたのに、俺は雅を疑っていた。
申し訳なくて、恥ずかしくて、顔から火が出る思いだった。
「じゃあ、気持ち良さそうにしてなかったのも……」
「あぁ、最近体調がおかしくて、もしかしたらって考えてたからかも……」
「本当に、不倫、してねーの……?」
「当たり前でしょ!!」
俺は雅に近づき、強く抱きしめた。
「ごめん、疑って……。ホントに悪かった……」
「いいんだよ、黙ってたアタイも悪いんだから。……それと、アタイは龍汰しか受け入れたことないから。龍雅だって、このお腹の子だって、アンタ以外の父親はあり得ないんだよ」
「……ぱーぱ」
ハイハイで近寄ってきた龍雅を俺はそっと抱き上げた。
「ふふふっ」
俺の顔を見てニッコリ笑う龍雅は、やっぱり俺に似ていた。
それから、雅の腹に目線を合わせ、優しく撫でてみた。
まだ見た目に何の変化もないが、この中に自分の遺伝子を継ぐ人間がいるのかと思うと、たまらなくなった。
「外の世界に出てくるまで、いーこにしてろよ」
俺は微笑んだ。
雅も微笑んだ。
龍雅も笑顔だ。
俺は、俺の人生を変えてくれた、この家族が大好きだ。
今の生き方のほうが、昔よりもずっと得をしてる。
俺も、雅や龍雅やお腹の子の人生を良い方向に変えられるように、良き夫、良き父親でいるように、精一杯彼らを愛していきたい。
もしかしたら第三弾も書くかもしれないです……
その時はまたお付き合いいただけると
嬉しいです\(^o^)/