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ホラーギルド  作者: 時雨瑠奈
新ギルドマスターとの交流
9/35

狙われるじゃじゃ馬姫

 サヤ=ライリーは、はねっかえり姫

ルーンの手をしっかり握って走っていた。

 烈火のごとく赤い髪が、窓から差し込む

風に揺れている。

 小さな体には、汗の玉が垂れ落ちていた。

力を出し切った事のないサヤは、それが

こんなに辛い事とは知らなかった。

 初めて自分より強い相手と対峙したという

緊張で、彼女の紅い目は潤んでいる。

「何故……私を助ける?」

「ああ!?」

 訳が分からないという顔のルーンを、キッと

サヤが睨みつける。

 途端に、ルーンはびくっ、と走ったせいで

少しほつれた長い薄桃色の髪を怯えたように震

わせた。

 余裕がなかったからか、きつい言い方をした

事に気づいてサヤは少し声を柔らかくする。

「何故って、友達助けちゃいけないのかよ」

「とも……だち……」

「あんたはそんな事思っちゃいないかもしれ

ない、でも、オレにとってはあんたは友達

なんだよ!」

「ありがとう……」

 ルーンは驚いたように薄桃色の瞳を見開

いていた。

 一切の嘘がないサヤの笑顔に、ルーンは

心の中が温かくなるのを感じて笑顔になる。

 太陽のように輝く笑みだった。

ルーンは今まで仲のいい人が出来た事が

ない。でも、彼女と――いや彼女達と

ならば仲良くしたいと思った。

「私も、そなた達と友になりたい、と

思うぞ」

 色白の顔を赤らめながらルーンが告げる。

サヤは長年の友達に対するように、彼女に

にっ、と明るく笑いかけた。

「姫さん! 姫さんってのもなんかな、

ルーン、仲良くしようぜ!」

「もちろん!!」

 二人は嬉しさのあまり、今までの事も忘れて

立ち止っていた。

 ルーンのミルクのように白い手が、しっかりと

サヤのやや日焼けした手を握り返す。

「ぅあ……」

「サヤ!?」

 と――。

 サヤが小さい声を上げていた。先ほどまでの

彼女とは違う、妙にか細い声にルーンはぎょっと

なって彼女を見つめた。

 サヤの顔が苦痛で青ざめて歪んでいた。

その背には、だらだらと脂汗のような物が流れて

いる。

 チョコレート色の地味なドレスに包まれたサヤの

腹部に、深々と銀色のナイフが突き刺さっていた。

 血がポタポタと滴り落ちて、真っ赤な色でドレスを

染めている。

「サヤっ!! 何で……」

 ルーンの泣きそうな叫び声に応える声は無く、サヤの

小さな体は音もなく崩れ落ちた。

 倒れる前に抜いたらしく、カラン、と血にまみれた

ナイフが銀色にきらめていて落下する。

 流れ出た血が、赤い髪の色と混じりあっていく。

ルーンは慌ててサヤを抱き起したが、べっとりと

クリーム色のドレスについた血の量の多さが、ルーンの

心を騒がせた。

 何故、こんな事になったのかルーンには分から

なかった。この場には誰もいないはずなのに、何故

サヤにナイフが突き立てられたのだろうか。

「サヤ!! しっかりしろ、サヤ!!」

 ルーンは今はそんな事を考えている場合じゃない、

と慌てて頭を振った。髪から素早くリボンを引き抜き、

サヤの傷口に押し当てる。

 サヤは小さく呻いたが血は全く止まらず、布が瞬く

間に真っ赤に染まる。レースの飾りがついた純白の

ハンカチも、とっさに破った両方のドレスの袖も、

同じ運命をたどった。

 このままではサヤは死んでしまう。

「誰か、誰か助けて! サヤを助けて!!」

 今度はスカートのすそを少しやぶってサヤの腹に

押し当て、ルーンはひときわ大きな声で叫んだ。

 サヤは精神力を使い果たし、小さな黒い狼の姿に

戻ってしまい、ぴくりとも動かない。

 それをしっかりと抱きしめて、ルーンはなおも

サヤを助けてと叫び続けていた。

 赤い敷石の床にぽつん、と垂れ落ちている黒いしみの

ような水たまりが、少しずつ近づいているのを彼女は

助けを求めるのに必死で気づいていない。

 黒い水から突き出た手が、さっきサヤが落とした血に

まみれたままのナイフを握っていることに、彼女は

全く気づいていないかった――。



「血の匂いがしない!?」

 全ての襲撃者を片付けた後、鼻をひくつかせて

そう言ったのは、ルーだった。

 彼女は人狼ルー・ガルーのサヤほどではない

が、吸血鬼の一族なのでかなり嗅覚は優れている。

「血ってまさか、あの王女様が!?」

 ゆきなが慌てたように青白い顔が、さらに青く

染めた。銀色の瞳が不安そうに翳っている。

 ルミアも砂色の髪を小さく震わせていた。

彼女達は最初は王女の事を嫌っていたが、彼女が悪い

人間ではないと気づいてからは、意地悪してしまった

事を謝り、もう一度仲良くしてみようと皆思っていたの

だった。

「サヤ……」

 しかし、ルーは続いて鼻を動かし、獣に似た匂いと

血の匂いが混じっている事に気づいてびくっと動きを

止めた。

 こんなところに、他の人狼がいるとは思えない。

「何ですって!? 確かなの!?」

「そんな……!」

 ゆきなが白に近い銀の髪を振り乱しながらルーを

詰問した。ルミアは色をなくした唇をぎゅっ、と

噛みしめている。

 ルーはう~っ、と唸りながら金の目から涙を

零して頷いた。その様子を見てさらにゆきな達は

血の気が引いたような顔になる。

「サヤ!! サヤを助けなきゃ!!」

 しかし、ずっとこうしていてもサヤ達を助ける

事など出来ない。

 ルーはきっと顔を上げ、妖精に似た虹色の羽を

羽ばたかせて疾風のような速さで駆け抜けて

行った 

 ルミアとゆきなもうつむいていた顔を上げ、

顔を見合わせてアイコンタクトする。

 ゆきなが青白い手をかかげると、ぴきぴきと

冷気が彼女の手の中で姿を変えて氷の波のような

状態に変化した。

 巨大な氷のアーチがその場にせり上がる。

「しっかり掴まっててよ、ルミア!!」

「了解!!」

 ゆきなはルミナを抱きしめながら空中へと

飛び上がり、氷の波をを器用に滑って行く。

 さらに助走をつけてからそこからもう一度

飛び上がると、走るのとは格段に早い早さで

ゆきなは抱きしめたルミアと共に空中高く

跳んだ。

 少々危険な方法だが、向かうなら早いに

越した事はない。

 全ては、仲間を、家族同然の者を助ける

ために。

 彼女達は必死になっていた――。



「死ねッ!! ルーン王女!!」

「きゃあっ!!」

 サヤの血を周囲に振りまきながら、黒い

水か飛び出した暗殺者の最後の一人は、きら

めく白刃が振り上げていた。

 ルーンは腕の中の黒い小さな狼――サヤを

かばうように抱きしめる。

 袖をちぎったクリーム色のドレスの肩が、

かっと熱くなって彼女は身を震わせた。

 サヤの血で滑って軌道がずれ、暗殺者の

ナイフは斬る予定だった背中の代わりに、

ルーンの肩を斬りつけたのだ。

 チッと舌打ちし、暗殺者が床に落ちた

汚れた布で血を拭う。

 サヤの血はもう止まっているけれど、まだ

ぴくりとも動いていない。

 まだ気絶しているようだった。

(サヤは絶対に守るッ!)

 ルーンはしっかりとサヤを抱き直した。

さっきサヤは自分を助けてくれた。

 だから、今度は自分がサヤを守る番だ。

自分を殺すなら殺せばいい。

 だけど、サヤをもう傷つけさせはない。

ルーンはぎゅっと目を閉じると、サヤを

もう一度深く抱きしめた。

 血を拭って滑りが良くなったナイフを

構えた暗殺者は、年端もいかない少女を

殺す嗜虐心に口元をにやりと歪ませた。

「――させないんだから!」

 しかし、そのナイフは今度は振り下

される事はなかった。

 虹色の妖精のような羽を制御し、空中に

停止したルーが睨みつけるとナイフは

暗殺者の手から弾け飛んでしまう。

「そ、そなたは……先ほどの……」

「話は後! サヤをちょっと貸して。

あたしが回復する……」

 ルーンは安堵の表情になると、未だ

狼の姿のままのサヤをルーへと引き

渡した。回復の光がサヤに振り注ぎ、

狼の苦悶の表情が消える。

 暗殺を邪魔され、そして武器を失った

暗殺者は悔しげにチッと舌打ちした。

 来た時と同じように黒い水にまぎれて

逃げようとしたけれど、彼が水に飛び

込んだ瞬間、その水がいきなり凍り

ついて動けなくなった。

「――逃がさない!!」

 空中からゆきなが冷気を放出させていた。

ルミア共々氷のアーチを滑ってその勢いを

つけてここまで飛んで来たのだ。

 しかし、ルーのように彼女自身が飛べる

訳ではない。

 着地に失敗し、ルミア共々赤い敷石に

叩きつけられて呻いていた。

 それでも、暗殺者への殺意にも似た

怒りは消えていない。

「よくも、サヤに怪我させたわね……」

「ルーンを殺そうとした罪、その身で

償いなさい」

「許さないんだから!」

 三人は怒りをにじませながら、逃げ

られない暗殺者ににじり寄る。

 ルーはいつもは優しい金の目を怒りで

ぎらつかせ、ルミアは変身が解けかけて

蛇が頭に見え隠れし、ゆきなは冷気を

周囲に振りまいていた。

 そして、耳をつんざかんばかりの悲鳴が

響き渡った――。



 暗殺者達はゆきなとルミアの術を解かれた

後、尋問の末王宮の地下牢へと放り込まれた。

 どうやら、ルーンを狙ったのは王様の弟

――つまりルーンの叔父のようだった。

 兵士達に尋問された暗殺者達に裏切られ、

青ざめたように震えていた彼もまた、地下牢

での幽閉生活を送る事になったのである。

 兵士達は暗殺者達も叔父も殺すべきだと

怒りを見せていたが、ルーン姫も王様も

命を取る事をよしとはしなかった。

 ルーンの傷もサヤの傷もルーによって

癒されたし、誰も怪我人は出なかったと

いう事で仕舞には兵士達も納得した。

 これで依頼も暗殺騒ぎも完結となったが、

これでサヤ達と別れると思うとルーンは

悲しかった。

 しかし、王が言った一言によって彼女の

顔には笑みが広がる。

 依頼と、暗殺者から娘を助けた事に礼を

言った後、王はしばらく娘を預かってはくれ

ないか、と告げたのである。

 サヤ達もせっかく友達になったルーンと

別れるのはつらかったし、またいつ暗殺者に

狙われるか分からない、という身の上は

不安だったのでルーンを受け入れる事に

した。

 こうして、ホラーギルドに新たな

メンバーが加入したのだった――。

 ルーン姫が暗殺者に狙われます。

それをかばい、怪我をしてしまうサヤ。

 彼女を傷つけられたメンバーは怒り

狂って――!? ついにルーン姫が加入

しました。本来ならギルドの被害者以外は

駄目なのですが、以来という事で特例として

メンバー入りしています。

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