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ホラーギルド  作者: 時雨瑠奈
笑顔の終局のために
34/35

それぞれの想いと力 その4

 掴まれた腕に力がこもっているのを感じ、吾妻夙あずまなぎさはエリオット=アディ

ソンもまた恐怖している事を知ってうつむいたまま走っていた。

 守られるだけでは駄目ダメだ。自分も強くならなきゃ、と思う。

「……エリオット」

「……」

「エリオット!」

 夙が声を張るとエリオットはびくっとなった。

再び手に力が入ったので、夙は少し顔をしかめる。

「そんなに握ったら痛いわ……それに、もう追っ手を振り切っている

みたいよ」

「ご、ごめん……」

 エリオットはぱっ、と夙の手を離してあわてたように謝った。

そのあまりの慌て様にこんな時だというのに、つい夙は笑ってしま

った。

「別に怒っていないからそんなに慌てなくてもいいのよ」

「……ぅ、わ、笑うな……」

 まだ敬語や様づけを使用しないエリオットの言葉は、どこかぎこ

ちなかった。

 でも、それでもいいと思う。

彼が守るべきあるじではなく、夙個人を見てくれようとしている証拠

だからだ。

 ちょっとずつでも構わない。そう思ってくれる事がもううれしい。

「ちょっと休憩しない? ずっと走ってたから疲れたでしょう?」

「ああ……そうだな」

 もちろん椅子などという気の利いた物は存在しないが、二人は

その場で腰を下ろして休憩する事にした。

 敵はまだ追いついて来ないらしいし、休息は必要だ。

ずっと走っている訳にもいかないのだから。

「ねえ……エリオット」

「な、何だよ……?」

「こんな時に言うのもなんなのだけれど……」

「だから、何だって……」

「私――あなたの事好きよ」

 甘くささやくような声に、エリオットは目を見開いたまましばし凍り

ついたのだった――。


「い、いいいいきなり何言うんだよぉっ!!」

 珍しく情けない声を上げるエリオットに、ついまたくすりと夙は

笑ってしまった。

 彼がこんなに動揺するとは思わなかったのだ。

「言っておきたかったの。逃げ切れるか分からないし」

「逃げ切れるさ……それに、俺達には仲間がいる」

 夙の手を取ってエリオットは言い切った。

彼女の頬が赤くなり、嬉しそうに微笑ほほえむ。

「そうよね……それにエリオットもいてくれるものね」

「そ、そう……俺もいる」

「もっと力強く言って欲しいわ」

「ま、まだタメ口に慣れてないんだよ」

 まあいいわ、と夙は言った。エリオットは苦笑しながら立ち上がる。

ご主人様扱いされるの嫌な癖にえらそう、と思ったのかもしれない。

 でも、まあ口に出していないのだから夙は気にしない事にした。

「何か食べましょうか……?」

「勝手に食べればいいだろ」

「一人で食べても美味しくないじゃない……」

 頬をふくらませてみると、渋々といった感じで分かったよ、俺も食べ

ると返事が返って来た。

 夙は荷物を探り、クッキーの小袋を取り出す。

袋を破ってから、悪戯心を出して彼の口にクッキーを近づけてみた。

「エリオット、はい、あーん」

「な、ななななにやってんだよぉおっ!」

 再び真っ赤になる様子が可愛くて、夙はまた笑った――。


「……ねえ、エリオット。私が悪かったからこっち向いてよ」

 すっかりすねたエリオットは夙の方を見ないようにしながら

ぼりぼりとクッキーをかじっていた。

 本当はあーん、てしたかったのに、と思うとすねたいのは

こっちよ、と思ったりもするけれど。

 ちなみに、今日のおやつはチョコチップクッキーだ。

「からかうの止めろよな……こんな時なのに」

 でも、以前の彼だったらこんな事はしなかった。

夙は従うべき主だったのだから、当然かもしれないが。

 以前はしなかったようなぞんざいな態度を取るエリオット

に、夙は少し嬉しさを感じていた。

 自分も袋からクッキーを取り出し、小さく齧る。

「こんな事だから……そうしていないと押しつぶされてしまい

そうなんじゃない」

 夙は怖かった。今こうしていても、いつ敵が来るか分から

ない。

 捕まったら、どうなってしまうか考えただけでも震え上が

りそうだ。

「だから、聞いておきたいの。あなたは私の事が好き? 主

だから好きに決まっている、なんてあなたはもう言わない

わよね?」

 まさにその言葉を言おうとしていたエリオットはぎくっと

なって言葉を引っ込めた。

 彼女の機嫌を損ねたくないので、仕方なく恥ずかしいが本

心を口にする事にする。

「好きだよ、夙。主とかそういうの関係ない、俺は君が好き

なんだ」

「嬉しい……」

 仲間の事は気になる。こんな時なのに、告白なんてして

しまっているという罪悪感はある。

 でも、こんな時だからこそエリオットも言っておきたかっ

た。

 ここで死ぬと思っている訳ではない。

でも、敵はまだ見えないけれどどうなるかなんて分からない

のだ。

 未来なんて誰にも見えないのだから。

「よかった……やっぱり主にしか見えないなんて言われたら

どうしようかと思ったわよ」

「そう思ってるなら、わざわざ口調とか呼び方変える訳ない

だろ? なかなか癖がついちゃってて直すのに時間かかっ

ちゃったけどな」

「ごめんなさい……それは、あなたに用事を命じていた私にも

問題があったのよね。なのに、あなたを理不尽に怒ってしま

った」

「いいんだ……俺は頼られる事に慣れてしまって、それが嬉し

いと思ってた」

 お互いにお互いを許し合い、新たな関係を作って二人の恋

愛は続いて行くのだった――。

 今回は夙とエリオットの話になりました。

最初はエリオットは夙を好きではあったけれ

ど主と思っており、夙はそんな関係を甘んじ

て変えようとしていませんでした。

 ですが、夙が主と呼ばれる事を嫌がり、そ

こから二人の関係は進展した感じです。

 次はゆきなの話にしようと思います。

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