元仮面少年は両親から見限られる
シオン=エレットは、今も幼いけれど、
生まれつき内向的で赤面症で、幼い頃から
仮面をつけて生活していた。
容姿は優れているけれど、彼は決して
人前で仮面を外さなかった。
両親はもちろんそんな彼をいさめた
けれど、シオンは聞き入れなかった。
しかし、彼は両親を嫌っていた訳では
ない。
好きだけれど、実の両親といえど何故か
気恥ずかしくて仮面を外す事が出来なかった
のだ。
今でこそサヤ=ライリーやルイーズ=
ドラクールことルーと言い合ったり出来る
けれど、当時のシオンは言葉少なで、自分の
気持ちを上手く伝えられなかったのだった。
だから、両親は彼を手放すその時まで、
自分達が嫌われていたと思い込んでいた。
シオンが分かってもらえる、と思ったのは
ただの甘えでしかない。
最初はシオンを可愛がっていた両親は、
次第に彼に嫌われているのではないかという
考えから彼を疎ましく思うようになり、二番目の
子供が生まれるや否や、彼は一切構われなく
なった。
シオンはそれを悲しく思いながらも、やはり
上手く両親にそれを伝えられず、そして当時は
気弱だった性格から両親に甘えたり弟に嫉妬
したりする事も出来なかったのだった――。
もちろん食べ物や服はきちんと与えられ、
家から追い出される事もなかったが、明らかに
弟と比べシオンは冷遇されていた。
元々、シオンが勇気を出さずに彼らと親しく
接しなかった自業自得もあったのかもしれない。
しかし、シオンはあまりに幼すぎたのだった。
今ならば、シオンは両親に自分の考えをきちんと
話し、彼らと関係を作り直す事だって出来た
だろう。
その事を、シオンは両親も弟も亡くなった今
でも悔やんでいる。
そんな彼が両親から手放される事になったのは、
シオンのいた地域で大規模な地震が起こって家々が
倒壊し、食べ物や物資が少なくなってきたある日の
事だった。
「シオン、今日は私達とお出かけしましょうか」
「今まで、構ってやれなくてすまなかったな」
「え……でも、リーは……?」
両親の温かい笑顔を、当時の裏切られた絶望と
悲しみを、今でもシオンは克明に思い出せる。
その日、シオンの両親は、彼の弟のリーを
置いてシオンだけを家から連れ出した。
シオンはためらいつつも、二人がようやく
自分の方を見てくれた事が嬉しかった。
だから、疑いもせずに彼らと共に歩いた
のだ――。
しかし、ついた先は奴隷商人の元だった。
困ったように説明を求めようとするシオンを突き
放すように、両親は手を離すと二度とは振り返ら
なかった。
シオンは絶望のあまり、かなり長い間食事が喉を
通らなかった。
壊れた人形のように、表情もない顔でしばらく
過ごしていた。
だが、本来は生きている証のように、その緑色の
両目からは涙だけが流れていた。
シオンは仮面を取り上げられ、自分の容姿を奴隷を
買う者達にさらけ出さなければならなかった。
シオンの買い手はなかなかつかなかった。
それは、彼にとって幸いだったか、不幸だったかは
分からない。
優れた容姿をしたシオンならば買い手はすぐつくと
奴隷商人は見ていたのだが、顔立ちは綺麗でも、当時
傷ついていたシオンはどこか陰気で買い手達には好まれ
なかったのだった。
そんな彼に買い手がついたのは、奴隷商人にさんざん
連れ回され幼かった当時よりもシオンが強気になって
いって、性格が多少ひねくれ始めたある日の事だった。
シオンを買いたいと言ったのは、件の科学者
ギルドである。
科学者ギルドの事を全く知らなかったシオンは、ろくに
食べ物をもらえずに、殴られたり蹴られたりしなくなる
幸せな生活が待っていると思っていたのだが、それは間違い
だった。
シオンを待ち受けていたのは、地獄のような日々
だった――。
シオンは妖怪ではないため、他のハーフや珍しい種族
達よりは幾分扱いとしてはマシだったのかもしれない。
しかし、彼にとってはそれはなんの慰めにもなりは
しなかった。
強制的に受けさせられる実験の数々。
どこまで毒などに耐えられるか試すために部屋に置かれた
毒の混じった食べ物に、死にかけた経験。
逆らえば痛めつけられた日々。
そんな生活は、以前より彼をひねくれさせ、笑顔を奪った。
彼は両親を憎んだ。両親に愛された弟のリーも、科学者
ギルドの連中も、こんな生活を強いる世界の仕組みも、神
さえも憎んで日々を送っていた。
このままここで永遠に過ごしていれば、シオンは誰も信じ
られずにずっと生き、そして最後には発狂して死ぬか、自殺
して自ら命を絶つか、していただろう。
実際、ここにはそういう者達がたくさんいた。
そんな彼が誰かを信じていいと思ったのは、ルーやサヤに
助けられたからだった。
元々自分と同じ科学者ギルドに放り込まれた境遇だった
二人は、勇気を振り絞って科学者ギルドに潜入し、ギルドを
叩き潰してシオンを救ってくれた。
しかし、科学者ギルドは一つではない。
本部は一つであろうが、いくつかの支店のような物があるので
居場所を特定しにくいのだ。
しかも、本部は決まった場所にはなく、場所を転々としている
ため手が出しにくいのも事実だ。
「オレ達と、一緒に来いよ!」
「私達も、あなたと同じ境遇なの……。あなたと、同じように
苦しんでいる人達を救うために、私達と一緒に来ない?」
当時のシオンは誰も信じるものか、とすっかりすさんで
しまっていたけれど、何故かサヤとルーの事は信じられる
気がした。
一緒に、行きたいと思った。
だから、シオンは仮面の奥に隠された顔に笑みを浮かべると、
うん!と叫びながらルーのやや青白い手を取ったのだった――。
今回は、本編じゃなくて
以前は仮面をつけていた
ホラーギルドのメンバー、
シオンの過去話になり
ました。
これはストックでは
ないので、完全な書き
下しになります。




