清らかなる少女のために
ホラーギルドの、ギルドメンバーは
ようやく外に出る事ができた。
今まで閉じ込められていたので、外の
新鮮な空気が心地よい。
サヤ=ライリーは自由になれたのが嬉し
くてそこらじゅうを走り回って皆に呆れ
られていた。
その様子は、狼というよりはまるで
犬である。
「やっぱいい空気だよなあ、外は!! 外
バンザイ!! 外バンザイ!! やった
ああぁ!!」
「り、リーダーテンションがおかしい
です!!」
炎のように赤い髪を乱しながら騒ぐ
サヤに、思わず突っ込んだのは倉木ルカ
である。
サヤはちょっと紅くなって大人しく
なった。
よっぽどあの『科学者ギルド』に滞在
する事が嫌だったのだろう。
まあこの中の全員があそこを嫌いだが。
「サヤ、ちょっと落ち着けよ……」
「うるさいよ、サヤ。もうちょっと静かに
してよ」
続いてエリオット=アディソンとシオン
=エレットも呆れたように突っ込んでいた。
うるせえとサヤは怒鳴ったが、やっぱり
やや日に焼けたその顔は真っ赤である。
紅い目が潤んでおり、黒い狼の耳がぺたん、
となっているのは気のせいではないだろう。
ふさふさした狼の尻尾もどこかくたっ、と
なってしまっていた。
他にここにいるのは、夕顔、ゆきな、吾妻
夙、ルーン、イルク=タルデア、アニタ=
リスキール、ルミア=ラキオンである。
イルクとアニタは元気がなくうつむいた
まま一言も口を利かない。
ギルドメンバーと子供二人は無事に逃げ
出す事が出来た。
だが、出口を教えてくれた功績者はこの中
にはいない。
……彼女はまだ中にいるのだ。
そして、ロッカ=ロッタとルイア=ラク
レンサも。
「とりあえず一旦引き返さないか? 一旦立て
直して戻って来よう」
「やだ!! あの子を置いていきたくない!!」
「そう簡単にここに来れる訳ではないんで
しょう!?」
エリオットの言葉に異を唱えたのはイルクと
アニタだった。
親友でもある少女、自分達のために出口を教
えてくれた彼女の事を見捨てたくないのだろう。
「おい、わがまま言うなよ。オレだってあの子を
見捨てたくなんかない。だけど、一度帰らないと
戦えっこないって」
「「だって!!」」
ぐっ、と二人は唇を噛みしめた。
自分達は助けてもらうばかりだ。
ここから逃げ出す時も協力してもらったのに、
自分達が何も彼女にしてやれない事が悔し
かった。
「……あ、あの、さ」
次第に、黒い瞳と灰色の目を潤ませる二人を、
遮るようにサヤが手を挙げた。
咎められるとでも思ったのか、アニタが三毛
猫に似た三角の耳をびくっと震わせる。
しかしサヤは二人を責めるつもりはなかった。
褐色の顔を怪訝そうにエリオットをしかめる。
緊張で口がからからになったサヤの手を、
ルカが慰めるように取った。
サヤは一瞬だけルカを嬉しそうに見た後、
真剣な顔でエリオットに目を向ける。
「オレも、このまま帰りたくない。いや、帰っちゃ
いけないんだ。リーダーとして命令する。オレ達は
ここであの子を探して連れ帰るんだ」
「サヤ!!」
エリオットが一喝するような声を投げた。
しかし、今回に限ってはサヤは退く気はない。
悲しそうなガラス玉のような青い瞳が、どう
してもサヤは忘れられなかった。
彼女だって好き好んであそこにいる訳では
ないのだろう。
「エリオット。今日は反論は許さないぜ。危険かも
しれない、だけど本当にこのままでいいのか!?
あの子を、見捨てちゃってもいいってのかよ!?」
「それは……!!」
サヤに睨みつけられたエリオットが言葉に詰まる。
イルクとアニタの表情がぱあっと明るくなった。
しかし、サヤは子供二人をも睨みつける。
「お前らは帰れ」
「な、なんでですか!!」
「納得がいきません!!」
当然アニタ達は文句を言ったが、サヤは優しい顔に
なると二人の黒い二つ結びの髪と、後ろで一つに結わ
えた灰色の髪を幾分乱暴に撫でた。
目を白黒させる二人を目をしっかりと見つめて言う。
「お前ら傷つけたりしたら、あの子に合わせる顔ない
だろ。ルーンも残れ」
イルク達は不満そうだったけれど渋々帰る事を決めた。
ルーンはさんざん嫌だと駄々をこねたものの、サヤの
反応は変わらず帰る羽目になった。
薄桃色の瞳を潤ませながらも、ぐっと唇を噛みしめて
アニタの差し出した手を取る。
「大丈夫、絶対にあの子は連れて帰るから」
サヤは最後に三人に笑顔で語りかけると、ギルド
メンバーを従えてまた中へと戻って行った――。
その頃、『守護姫』と呼ばれる少女はふわふわと
化学者ギルドの内を漂っていた。
ここでの生活は暇だった。実験体の協力に携わる
以外を彼女はする事は出来ない。
夜な夜なさ迷いだす癖が出来たおかげで、『幽霊』と
勘違いされる事もあるくらいだ。
赤みが差さない肌の色もそれに輪をかけている。
あの子達――イルクとアニタ、そして彼らの協力者達は
無事に脱出出来たのだろうかと守護姫は考えた。
たいして美味しくもない食事を取り、実験体に協力し、
そして何もする事がなくなってあたりを彷徨う。
それが彼女の生活だった。幽霊ではない。
しかし、彼女は魂が体から抜け出た存在だった。
そうしなければ訳あって外に出る事が出来ないのだ。
自力では歩けないから、いつも魂を体から引きがして外に
出ている。
もっとも、魂はきちんと体につながっているが。
そうでなければ体に戻れたりしない。
ここから出たいという想いは等に諦めた。
守護姫はもういつからここにいるのか覚えていない。
かなり長いこといるのは確かだ。
守護姫はどこにどの施設があるのかよく知っている。
けれど、自分の部屋がどこにあるのかは知らない。
あの部屋は気持ちが悪くて平静ではいられない。
だから自分の部屋を知らない。だからここから出て
行くことができない。
それに何より、体は自分の部屋から出る事が出来ない
からだ。
サヤ達が自分を助けようとしている事など露知らない
彼女は、サヤ達の平安を心から祈るのだった――。
もうすぐストック切れの予感です。
結構ストーリーが進んで来ました。
終わりが近づいて来ていますが、
最後まで付き合っていただけると
嬉しいです。




