清らかなる少女の想い
サヤ=ライリーは倉木ルカと共に
まだ出口の捜索をしていた。
だが、どこを探しても見つかり
そうにない。
他の仲間たちにも連絡を取っては
見たが、結果ははかばかしくないとの
事だった。
サヤは支給されているカチコチの
パンに齧りつきながら獣のような唸り
声を上げていた。
彼女と同じようにパンを食べようと
したルカが、あまりの硬さに驚いてそれを
投げだす。鈍い音がその場に響いたので、
相当に堅いのだろう。
ちなみに、ここの施設で支給される食料
にはかなりの確率で危険があるが、これ
ならば何も仕込めないだろう、とサヤは
判断したようだ。
「よくそんなパン食べれますね」
「オレの牙はそんなにやわじゃないん
だよ!!」
サヤは見せびらかすように牙を剥き
出しにした。
人狼と人間のハーフ
である彼女の歯、否牙はとても鋭いの
である。
こんなに硬い物を噛み切れるのだから、
もし本気でがぶりと噛まれたら人間はひと
たまりもないだろう。
ルカが少し怯えたのを見て取り、瞬時に
サヤの頬は風船のようにぷ~っと膨らんだ。
「なんだよ!! ルカ、オレに怯えてんの!?」
「いや怯えてるってわけじゃ、噛まれたら痛そう
だな~って……」
「怯えてんじゃん!!」
真っ赤になって怒るサヤにルカは思わずじり
じり後ろに下がった。
と、小さな悲鳴のような声が響き渡ったので
サヤはびくんと反応してうずくまる。
「……ぅ。うあうううぅ……!!」
「リーダー!! サヤ!! どうしたん
ですか!?」
ルカがそっとサヤに触れると、彼女の体が小刻みに
震えている事が分かった。
きっとかつてここで過ごした事を思い出しているの
だろう。
「はじ、まった……ルーとシオン、が……」
ルカはサヤの言葉を聞いてハッとなった。
あの声はルイーズ=ドラクールとシオン=エレットの
声なのである。
始まった、とは実験の事なのだろうか。
この『科学者ギルド』では毎日のように実験が繰り返
される、というのは妹からよく聞いていた。
「……っく。嫌だよう、もう嫌だよう……!!」
「落ち着いてサヤ!! 大丈夫だから」
ルカがなぐさめてもうずくまったままのサヤは、炎の
ような紅い目から涙を流しながらただ震えるばかり
だった――。
ルーとシオンは、ベッドに手足を固定され今まさに
『実験体』として無理やりに実験を受けさせ
られていた。
バチバチと光を放つ雷の力の宿った棒を、剥き出しの
手足に当てられ、耐えがたい痛みにずっと耐えていなく
てはならない。
彼らは『実験』と言ったが、こんなのは『拷問』と同じ
だと二人は思った。
しかし、次第に痛みで何も考えられなくなる。
「ううぅ、いやああああっ!!」
「ぐううううっ!!」
実験部屋にいるのはルーとシオンの他に、感情をなくした
ガラス玉のような瞳した少女と、ニタニタ笑いを浮かべた怪
しげな男の二名がいた。
少女はちらともルー達に視線を向けない。
ただうつむきながら手にした棒に力を与え続けるだけだ。
少女は以前渚達とサヤ達が出会った『守護姫』だった。
銀とも白ともつかない髪を長く垂らしていてその顔は見えない
が、ルーとシオンには少女を気遣う余裕はなかった。
守護姫はきつい目つきで男を見つめる。
「これでいい? 私は出ていく……」
「どうぞ守護姫様」
守護姫は鼻を鳴らすと、ふわりふわりと宙に浮きながら
ルーとシオンの近くに漂ってきた。
一瞬痛みを忘れた二人の前に一枚の紙をこっそり落とすと、
彼女は音もなく部屋から消えていた。
シオンは落とされた紙をとっさにポケットに押し込む。
実験が終わったのはもう少し経ってからだった。
部屋から出る事を許され、拘束を解かれた二人はすぐさま
紙を開いた。
「こ、これって……!!」
「地図!?」
それはこの『科学者ギルド』の地図であった。
出口の場所さえも記載してあり、実験室や被験者達の部屋
まで全て書かれている完全品だ。
どうしてそんなものをあの少女が持っているのかという
疑問はあったが、ルーとシオンは走ってその場所に向かった。
……鍵はかかっていなかった。『科学者ギルド』の連中は
絶対に見つからないと言う自負があったのだろう。
扉は鏡の形をしていて、ルーとシオンも地図に書かれていな
ければ見逃していたハズだった。
いや、実際に見逃していたのだ。ただの鏡だとしか思って
いなかった。
二人はどちらからともなく頷きあうと、そっと扉を押し
開けた。
清浄な空気が二人を包み込む。久しぶりの外にルー達は
思わず感動した。
どちらかともなく抱き合い、そして我に返って少し赤く
なって離れる。
「サヤ達にも知らせなくちゃ!!」
「ちょっと待って。これまだ何か書いてある」
はしゃいだ声をあげるルーを制し、シオンは地図の下に
書かれている文章を見つめた。
そこには血で書かれたらしい文字が踊っている。
『我、アニタ達、友。依頼を受けたギルドの、者達、今すぐ、
帰れ。我、今訳あり身動きできぬ身。アニタ達と、共に、帰れ
守護姫』
書かれていた文面はそれで以上である。
自らの血を使ったからか文章は途切れ途切れだったけれど
なんとかルー達は読み事が出来た。
二人は顔を見合わせると、地図をくれた少女の姿を想い
浮かべ心配そうな顔になるのだった――。
ストーリー少しずつ進んで
来ました~。ラストに向けて
まだまだ頑張ります。




