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ホラーギルド  作者: 時雨瑠奈
清らかなる少女の犠牲
22/35

科学者ギルドの潜入者達 その2

 吾妻夙は、不安な面持ちで堅い

ベッドに腰かけていた。

 今、彼女は留守番である。

他の二人は今出ていて、帰っては

来ない。

 寒々しい部屋に彼女の表情は

強張っていた。誰かがいれば、

そしてベッドのシーツがもう少し

厚い物だったらこの恐怖も少しは

薄れただろうが、どちらも今の

状況では敵わない。

 一人は嫌いだ。まだ巫女だった

時の、女官達が死んだ時の事の

恐怖を思い出す。

 夕顔もルミアもそこそこ強いし、

そんな事にはならないかと思うが、

不安は拭えなかった。

 ここは、なんといっても『科学者

ギルド』だ。

 普通の神経の者など、いない。知識欲に

狂った者か、人を殺したい殺戮狂か、人を

傷つけたいいかれた趣味の者達だけだ。

 夙は堅く拳を握りしめると、二人の無事を

祈って黙って目を閉じていた。

 部屋の料理には手をつけない方がいい、と

言われているので鞄を開け、夕顔の作った

料理が入ったタッパーを取り出す。

 作り立ての、卵とトマトの炒め物が入った

透明なタッパーはまだ温かくて少し夙は気分が

落ち着いた――。


 その頃、ルミアと夕顔は。

途中で参加したゆきなと共に歩いていた。

 ルミアはキレた時の対策に、度の入って

いない縁なし眼鏡をつけていた。

 やっぱり最悪な人間であっても石に変えて

しまうのはためらわれる。

 メンバーが男装していると聞いたので、

ゆきなも男性用の抹茶色の格子紋様の服を

着て男装していた。

「全く、何で誰もあたしを呼び戻したり、

あたしにこの事を知らせたりしなかった

のよ……」

 ゆきなはやや青みがかった頬を、拗ねた

ように膨らませながら歩いていた。

 彼女は家の都合でかなりの間休んでいたの

だが、忙しいのではないかと思ったメンバーは

誰も彼女に連絡を取ったりしていなかったの

だった。

 知らずに一度ホラーギルドへと戻ったゆきなは、

ルーンとエリオット=アディソンしかいない事に

驚き、そして事情を聞いてすぐに飛んで来たのだ。

「仕方ないでしょう? あなただって、しばらく

来られないという事しか言わず、今まで連絡さえ

しなかったんだから」

「それは、悪かったわよ」

 夕顔が珍しく厳しい栗色の瞳で言い返し、うっと

詰まったゆきなは素直に謝罪の言葉を口にした。

 と、ルミアがしっ、と口に指を当てていた。

「何か聞こえない?」

「えっ!? ……そういえば、聞こえる!」

「隠れるわよ!!」

 三人はひっそりと身を隠した。

夜に出歩くことは危険だと、ここで過ごした時間が

多い彼女達は知っている。

 ルミアは力を利用され、ゆきなはここで隔離されて

一族の力を知るための拷問を受けさせられ、夕顔は

被害者の世話係をさせられていたのだった。

 ゆきなは秘密を割る事はなかったけれど、未だに

心の傷は消えず、体にも消えない傷があった。

 夕顔は一見何の被害にもあっていないようにも見え

るが、死んだような目をした者達を何度も見せられ、

力不足で見殺しにしてきたのだった。

 だから彼女は逃げ出し、ギルドに入ったのだ。

「やっぱりやめた方がよかったんじゃ……?」

「今更言ったってしょうがない!! とにかく、すぐに

あいつらを探さなくては!!」

 三人の顔が安堵の色になった。聞き知った声は、エリ

オットとルーンの物だった。

 何故ここにいるのかは気になるが、とりあえずは安心

してもいいだろう。

 一番先にゆきながそこを抜け出すと、二人の元へと

急いだ。

 二人は一瞬ぎょっとなったものの、相手がゆきな達

である事に気付いてホッと胸をなでおろした。

 ルーンは被害者ではないが、エリオットにここの事を

いろいろ聞いたのだろう。

「何であんた達がここにいるの?」

 ルミアがつっけんどんな口調で聞いた。

二人は、予定では居残り組みとなっていたのに、何で来た

のかと幾分きつい聞き方だった。

 ルーンは鼻じろんで黙ったが、エリオットは困った

ような顔をしながら告白した。

「実は、イルクとアニタの二人が脱走したんだ。どうして

も、友人とやらが気になってしょうがなかったらしくて、

俺達の食事に眠り薬まで仕込んでさ……」

「ね、眠り薬……!?」

 夕顔がぎょっとして叫んだ。あの子供事がそこまでする

とは思えなかったのだろう。

 それにしても、まだ怪我が治りきっていないのに凄い

行動力だった。

「それで、仕方なく俺達も潜入することになったんだよ」

「夙は、どこにおるのじゃ?」

「部屋にいるわよ。留守番として残し――」

「一人で残したのか、夙様を!!」

 エリオットが絶叫するかのような声を上げたので、四人は

耳を両手で押さえなくてはならなくなった。

 それから、おろおろとなだめにかかる。

こんな所で大声を出して見つかりでもしたら大変である。

「ちょっと、エリオット!! 見つかったらどうするのよ」

「夙の事は心配いらないわ。むしろ、外にいる私達が危険

なのよ。あまり大きな声を出さないで」

 そして、ルミアが続けて言った言葉に、彼の眉がひそめ

られた。

 しかし、ルミアは怯んだ様子もなく、睨むようにエリ

オットを見つめながら言う。

「エリオット、あんた、夙に過保護すぎるよ。彼女は

あんたが思ってるより弱くはないし、赤ん坊でも子供でも

ないんだから」

「夙様は俺の主だ。守らなきゃいけないんだ!!」

「もう、やめなさいよ!! とりあえず、一度部屋に

戻るわ!!」

 いなくなったという子供達も心配だったが、ここにぞろ

ぞろといても見つかるだけだ。

 全員は部屋に戻る事にした。直前まで言いあいをしていた

ルミアとエリオットがむくれていたが他の三人は放っておく

事にする。

「そういえば~何でゆきなはずっと帰って来なかったの~?」

「……お見合い、してたのよ。といっても、あたしはお見合い

だって知らなかったんだけどね」

 ゆきなが実は帰って来なかった理由とは、お見合いだった。

いつまでも相手を決めようとしない彼女に、業を煮やして親戚が

お見合いを仕組んでいたらしい。

「いい人だった~?」

「まあね……でも、あたしはまだ結婚するつもりはない

けどね」

「私も、いずれは誰かを選ばなければならないのか……」

 夕顔に問われたゆきなはふん、と鼻を鳴らしたけれど

その頬は珍しく赤みが差しており満更でもないようだった。

 ルーンはいずれ、自分が伴侶を選ばなければらない、と

いう事に不安を覚えていた。

 話している内に彼らは夕顔達に与えられた部屋へと辿り

着こうとしていた。おかえりなさい、と出迎えた夙は驚いた

ように明るい茶色の瞳を見開く。

「エリオット、ルーン!?」

「夙!! 子供達を見なかったか!?」

「夙様、ご無事でよかった!!」

 二人の声がかぶってしまったため、夙はため息をつくと

別々に話させ、ようやく要領を得た。

 それから、どこか棘のある口調で彼に言い放つ。

「前々から言おうと思っていたけど、私の事、もう様

づけで呼ぶのやめてくれないかしら、エリオット」

「何故……ですか?」

「私はもう巫女じゃないの!! うんざりなのよ、夙様夙

様って!! 思い出させないで!! 私はあの時の事は忘れ

たいのよ!!」

 エリオットには悪気があった訳ではなかったのだろう。

でも、夙はいつも彼に様づけされる事があまり好きでは

なかった。

 楽しかった過去を、あの思い出しても胸が痛くなる惨劇を

思い出してしまう。

 エリオットははっとなったように青ざめると、何を言って

いいか分からなかったのか口を開けたまま黙った。

 叩きつけるかのような響きの声が、彼女の悲しみが彼の

胸を深く抉るように突き刺さる。

 そんなつもりではなかった。彼女を傷つけるつもりでは。

でも、彼女は自分の言葉に傷ついていたのだ。

 夙は自分が言ってしまった事と、彼の傷ついたような表情を

見ていられなくなり、泣きそうな気分でそのまま部屋を飛び

出した。

 エリオットが追おうとするが、その前にルーンが部屋を出て

彼女を追いかけていた――。


 今日はサヤ達ではなく、ゆきな・

ルミア・夕顔・夙と、エリオットと

ルーンのお話になりました。

 過去が明かされた夙以外にも科学者

ギルドでは辛い目にあっていた、という

事になっています。

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