科学者ギルドを探せ
その日はいつものように始まった。
ギルドリーダーであるサヤ=ライリーは、
欠伸を噛み殺しながら食卓についた。
夕顔が白い三本の尻尾を揺らしながら、
笑顔でその前に少し冷ましておいたスープを
置く。
「ねむ……」
「あらあら、ご飯ここに置きますね~」
まあ通常ならばアツアツのスープの方が好ま
れるのだろうが、サヤは猫舌なのである。
チキンときのこのコンソメスープは、サヤの
以外は湯気が立っていて美味しそうだ。
ゆきなは今日から家の用事でしばらくいない
ようだった。
よく煮込まれた柔らかい鳥肉と、入れる前に
少し炒めたらしく、焦げ目のついた大きな茶色の
きのこが美味しくてサヤは木のスプーンを持つ
手を休まずに動かしていた。
寝起きでもちょうどいいくらいのお腹に優しい
味である。こくのあるスープの味が舌に心地
良かった。
「おはようございます、リーダー!!」
ふぅ、と満足したような息をついていると、
倉木ルカが笑顔でやって来た。
少しだけやや日焼けした顔を赤く染め、サヤは
小声でおはようと返す。
エリオット=アディソンがそれをからかい、さらに
紅くなった彼女に頬を殴られていた。
吾妻夙が呆れたような顔をしながら、ふんわりと
焼き上げられた白いパンを切り分けてお皿に出す。
いてて、と呻きながらエリオットが、すねたような
顔をしながらサヤが、にこにこしながら夕顔が、まあ
まあとサヤを宥めながらルカがそれぞれ取っていた。
夙も一切れ取って食べ、まあまあ上手く焼けた
かしら、と味を確かめている。
「おはよう……」
お風呂に入って来たばかりなのか、花の匂いをそこ
ここに散らばらせながらルイーズ=ドラクールこと
ルーが食堂へと入って来た。
同じような匂いのルーンとルミアも続く。
どうやら三人一緒に仲良くお風呂に入ったようだ。
オレも誘えよ!とさらにむくれたサヤを無視し、
夕顔と夙が彼女達の前にもパンとスープの皿を
置いていた。
シオン=エレットはまだ起きて来ていない。
彼がそろえば全員なのだが――。
「ルー、シオン知らないか?」
サヤが食べ終わった皿を重ねながらルーに聞いて
みたが、彼女は首をかしげるだけだった。
栗鼠のように頬を膨らませながらもぐもぐと白い
パンを頬ぼっている。
ご飯が覚めちゃうわ、と夕顔が珍しく頬を膨ら
ませながら苛々していた。
と、扉が乱暴に開けられ、入って来たのは当の
シオンだった。
服が血に染まっている事に気付き、ルーが
当惑しながら立ち上がる。金色の瞳が微かに
潤んでいた。
しかし、シオンは手を振って自分の血ではないと
示した。彼は怪我をしている訳ではなく、この血は
別の者の血のようだ。
「大変だ!! また、『科学者ギルド』の被害者が
出たんだよ!!」
良く見ると、シオンは二人の少年と少女を
抱えていた。血はどちらかのものなのだろう。
夙が慌ててシオンに近寄ると、服が血で染まるのも
構わず二人を彼から抱き取った。
かなり真剣な顔が、しだいに和らいでいく。
血の量はかなりあったが、命に別条はないらしい。
「血の量の割りに、そんなに大きな怪我ではない
みたいだわ、両方」
「よかった……」
心配だったのかシオンは安堵したように緑の
瞳を潤ませた。今日は仮面をつけてはいない
ようだ。
少年と少女は夕顔と夙が協力して客間へと運び
込んだ。エリオットが少年を、ルーが少女の方を
お湯で濡らしたタオルで服を脱がせた後血を
拭っていく。
血でまみれた二人の服と、さらにシオンと夙の
服は夕顔が洗濯に出すために持って行った。
少年はサヤの服を、少女はルーの服を借りて
とりあえず着替えさせられ、ベッドに寝かされる。
夙と共に着替え終わったシオンは、サヤに問わ
れて口を開いた。
「シオン、何があったのか、話してくれよ」
「僕は朝早く起きたから散歩に行ってたんだよ。そう
したら、この子達が森に倒れてて、『科学者ギルド』の
名前を口にしてた。だから連れ帰ったんだよ。それ
以上の事は分かんないよ、僕にも」
シオンは自分の知っている事全てを話した。
怪我をしていた事も、そのギルドの連中と何が遭った
かも全く分からないらしい。
「また、何かやらかしてくれたのね、あいつら……」
ルミアが砂色の髪を振り乱しながら、憎々しげにそう
言った。怒りを示したのは、ルミアだけではない。
シオンは痛いほどに自身の拳を握りしめ、ルーは金色の
瞳に怒りをにじませ、夙は明るい茶色の瞳を伏せ、エリ
オットはだん!と苛立たしげに食卓を叩いていた。
夕顔はいつもの優しさをどこかへ置いて来たかのように、
栗色の瞳を獣のようにぎらつかせていた。
直接は関係ないはずのルーンも、薄桃色の瞳を今にも
泣きそうに歪めている。
サヤは自分が痛めつけられた事を思い出して恐怖に
震え、倒れそうになったがルカが手を握ってやると
落ち着きを取り戻した。
「ちくしょう……こんな小さい子まで被害者に仕立てるの
かよ」
エリオットの舌打ちがその場に響く。いつもならそれを
咎める夙も、今日だけはそれを叱ったりしなかった――。
「あの……」
と、か細い声が聞こえて来たので全員はぎょっとなった。
なんと、気絶していたはずの少女ががよろよろとしながら
立ちあがっていた。
隣には少年もいて、同じくふらふらな様子である。
少女は珍しい黒髪を二つ結びに結った、なんとも愛らしい
子供だった。ルーの貸した、ピンク色の小花模様のドレスが
よく似合っている。
小さな頭からぴょこん、と三毛猫に似た三角の耳が生えて
いたので、人間ではないのだろう。
長い灰色の髪を後ろで一つに結わえていて、少女同様
可愛らしい顔立ちだ。夕顔の物によく似た、銀の耳と一本の
尻尾が特徴的だった。
「おい、まだ寝ていろよ」
サヤは眉をひそめると、心配のあまり少女達に幾分乱暴に
言った。
しかし少女は首を振り、体を支える杖のような武器をさらに
強く握りながらサヤを見つめた。
その切羽詰ったような顔色に、サヤは気圧されたように
黙る。
「ここ、ギルドなんですよね!? お願いです!!
私の友人を助けてください!! お願いです!!」
「お願い、アニタの依頼を受けてください!! ……お金は
あまり、ないけど、働いて返します!! どうか、助けて
僕達の友人を!!」
少女と少年は交互に叫んでいた。どうやら少女の名前は
アニタ、というらしい。何が遭ったかは分からないけれど
かなり焦っているようだった。
無理をしていた二人は、行った後倒れ込みそうになって
ルーとサヤに抱き留められる。
サヤはアニタと呼ばれた少女と、少年を見つめた。
「何があったのか、話してくれるか?」
「依頼を受けてくれるんですね!!」
アニタと呼ばれた少女の顔が輝いた。
サヤが黙って顎を引き、少女と少年を椅子に座らせる。
洗濯を終えて戻ってきた夕顔と、彼女を手伝ったシオンが
お菓子とお茶を出したけれど、二人は口をつけなかった。
「私達は、奴隷です。妖怪と人間の間の子として生を受け
ました。あ、でも、その友人は、純血です」
アニタはためらいがちに話し始めた。サヤの顔から血の気が
引き、ルカが慌てて彼女の手を握る。
「僕達は実の親からギルドに引き渡されたんだ。だけど、その
ギルドは酷い物だった……。僕達は殺されそうになって逃げて
来たんだ」
その後は少年が引き継いだ。名前を聞いたところ、少女が
アニタ=リスキール、少年がイルク=タルデアというらしい。
ちなみに、アニタは魔女と猫魔の子供、イルクが
人間と妖狐との間の子だった。
そして、純血の子は珍しい天使族だという。
天使族ははるか昔に滅びた文明の生き残りだ。
ハーフはともかく、まだ純血がいたとは、とサヤ達は思わず
目を見張っていた。
「その子は売られたらしいの。私達が来た時にはすでにいたわ。
その子、純血だけど私達に優しかった。差別なんて、しな
かった。私達を逃がしてくれたのはその子よ」
差別されて当然だと思って生きてきたのだろう。
サヤは自分の過去とアニタたちの姿がかぶり、ひどく同情的な
気持ちになった。
「あんないい子があんな酷い所にいるなんて、駄目だよ。
彼女は僕達を助けてくれた。だから、今度は僕達が彼女を
助けたい!!」
サヤは全員を振り向いた。決意に満ちた瞳が見つめてくる。
まだ正直怖い。だけど、仲間がいる。
いつまでも逃げていては駄目だ。
絶対にあんな記憶、乗り越えて見せる。
「『ホラーギルド』はその依頼、しっかり受け取ったぜ!!」
サヤの言った事を聞くなり、安心したのか少年達は気を失う
ように眠ってしまった――。
やっと新章突入です。これから
ホラーギルドVS科学者ギルド
という展開に突入して行き
ますよ~。




