黒狼少女と天邪鬼の息子のお買いもの 後編
サヤ=ライリーは、倉木ルカと共に市場を
歩いていた。
手にはラムネのコーンつきアイスを持って
上機嫌である。
ルカはちょっと苦笑していた。
「リーダー本当にこれでいいんですか?」
「あに?」
サヤは口にアイスを頬ぼったまま返事を
返す。
ルカは完全に呆れて眉をひそめた。
眼鏡をかけた銀色の瞳に、どことなく苛
だったような色が浮かぶ。
「物を口に入れてしゃべるなって言われ
ませんでしたか?」
少し意地悪してやるつもりでルカがそう
言った途端、サヤの顔から血の気が引いた。
アイスを落としかけ、慌ててコーンを強く
握る。
あまりに強い力で握ったので、コーンが
壊れてアイスが飛び散った。
顔や服に薄い水色のアイスがべったりと
ついてしまい、サヤは悲しそうに炎のような
赤い目を潤ませる。
「うわっ!! あああ……やっちまった……」
薬が効きすぎてあまりに情けない顔をしてる
ので、ついルカはくすくす笑ってしまい、サヤに
睨まれた。
「笑うんじゃねえよ、ばかっ!! ばかばか
ばかっ!!」
「うわっ、いたた!! やめてくださいよ、
リーダー!!」
「うっせえ!!」
サヤはすっかり機嫌を損ね、ルカの胸をぽか
ぽか殴り始めた。
子供が八つ当たりしているような様子だが、
獣人族であるサヤの力は強い。
ルカが悲鳴のような声が上げたが、構わずに
殴り続けていた。
相当失態を見られたのが恥ずかしかったのか、
彼女の顔は髪の色と同じくらい真っ赤だった。
アイスでべたべたな拳で殴られたので、ルカの
服にべったりとアイスが服についてしまい今度は
彼が情けないような顔になっていた。
それを見ると、サヤの機嫌は少し直る。
「手がべたべたしやがる。洗いに行こうぜ、ルカ」
「僕の服がべたべたなのは、リーダーのせいなん
ですけど?」
ルカは珍しく低い声で言った。
いつもは優しい彼の静かな怒りに、少し怖くなって
サヤは必死で謝る。
「ご、ごめんなさい……ゆ、許してくれよ。だって
さ、ルカが笑うから……」
「分かってくれたら、もういいですよ。さ、洗いに
行きましょうか。笑った僕も悪かったですしね」
ルカが笑顔で手を差し出してくる。少し迷うような
そぶりを見せたものの、結局サヤは彼の手を取った。
なんだか気恥ずかしいような、嬉しいような微妙な
気分のまま彼と並んで歩く。
幸い、水場はすぐに見つかったので、二人は服と手を
洗ってからまた市場に戻って来た。
服と手は当然濡れていたが、結構いい天気なので
すぐに乾くだろう。
「リーダー、行儀が悪いって怒られた事でもあったん
ですか?」
「うん……なぎが、な……」
なぎとは、ギルドメンバーの吾妻夙の事である。
礼儀や行儀には厳しい彼女は、サヤのもっとも恐れる人
なのだった。
「ああ、夙さんですか。あの方は厳しいですよね」
いつもサヤ達が怒られている事を思い出し、ルカは
苦笑したように言った。
サヤはこくこくと頷きながらため息をつく。
本人が聞いていたら、きっと「好きで怒っているんじゃ
ありません!」と怒られただろう。
夙は意地悪ではなくサヤ達のために言っているの
だから。
「――なあ、ルカ」
と、サヤがふいに悲しげな声になった。
紅い目を潤ませる彼女の様子に、なんだかルカまで
悲しくなって来て口をつぐむ。
「オレが落ち込んでるなんてらしくないよな? でも、
聞いてくれるんだろ? ルカ。お前と俺は同じなん
だから……」
立場も状況も違うけれど、ルカとサヤは同じハーフ
だった。人間と妖怪の狭間の者。
不安そうに震える彼女の手をさらに強く握りながら、
ルカはサヤの目を覗き込んだ。
「はい……話してくれますか?」
「オレ、前も同じことがあったんだよ。頭が真っ白に
なって、気が付いたら、いじめっ子殺してた……血が
駄目なんだよ俺」
サヤはなるべく何でもない事のように言おうとして
いたけれど、その目は涙で潤んでいた。
痛いくらい握りしめられた拳が、なんともいたたまれ
ない。
「俺、怖いよ……誰かを傷つけちゃうのが怖いよ……」
震えがまじった声は、ひどくか細くて、ルカはなんと
言っていいのか分からなくなった。
ルカは血を抑えきれないような事に陥った事なんて
ない。彼は両親が死ぬ前、妹と共に力を使い方や制御の
仕方をちゃんと教わっていた。
だから、本当にはサヤの気持ちを分かってやれない。
でも、想像する事は難しくなかった。
ルカだって初めて両親にハーフだと告げられた時は、
不安でどうしようもなかったのだ。
「仲間を、皆を傷つけちゃうのが怖いんだよ……」
ルー・シオン・夙・ゆきな・エリオット・ルミア・
ルーン・夕顔。そしてルカ……。
サヤにはたくさんの仲間がいる。その誰も、傷つけ
たくなんてない。それがサヤの心からの気持ちだった。
ルカは思わずサヤの震え体を抱きしめていた。
サヤは驚いたような顔をしていたが、抵抗はしない。
顔を赤くしてそっぽ向きながらも黙って抱きしめ
られていた。
ルカは優しくも凛々しさを感じる声で言った。
「僕がリーダーを……サヤを、守る。誰も傷つけない
ように、絶対に守って見せる」
「本当に、守ってくれるのか……?」
サヤは涙の混じった声で言った。背中に回された腕は、
かなり温かい。頼ってもいいのだろうか。
ルカの負担になりはしないかと、サヤはひどく
悩んでいた。
強くならなければいけなかった。
石を投げられ、悪口を言われ、いじめられ続けてきた。
だから、男言葉ばかり使ってわざと乱暴な物言いや
言動をしてきた。
でも、ルカがいればそんなことしなくてもいいの
だろうか。
もう、無理しなくてもいいのだろうか。
「命に変えても守ります……」
涙をこぼすと、サヤはルカにしっかりと抱き
ついた――。
サヤとルカの仲がちょっと
進展します。これからも、恋愛
シーンはちょこちょこ入れたい
ですね。子供っぽい二人なりに
いい感じになって来ました。




