じゃじゃ馬姫の初仕事 前編
サヤ=ライリーは、倉木ルカやルイーズ=
ドラクールことルー、シオン=エレット、
ルーン姫と共に仕事に向かっていた。
初仕事を前に、ルーンは薄桃色の瞳をきら
きらさせて大はしゃぎである。
サヤ達は呆れたように笑っていたけれど、
目は優しかった。実は彼女達も初めてギルドを
作った時はあんな風にはしゃいでいたからだ。
ルカやシオンは初仕事でも結構落ち着いて
いたようだったが。
「ルーン姫、かなりはしゃいでますね……」
「まあお姫様だし、あんなの初めてだろうから
ね。僕らはもうちょっと初めて入った時落ち
着いてたけど……」
「それはお前らが落ち着きすぎなだけだ」
苦笑しつつ語り合うルカとシオンに、サヤの
突っ込みが飛んだ。ルーもむぅっとしたような
顔で頷いている。
お互いの想い人に呆れるような対応をされ、
ルカは眼鏡をかけた銀の瞳を困ったように伏せ、
シオンはぷぃっとそっぽ向いていた。
仮面をしているのでその表情は分かりにくいが、
唇は少しショックを受けたように震えている。
まあそれは置いておいて、今日の仕事は薬草
探索だった。
ギルドとはいっても仕事は千差万別で、戦闘
以外にも探索任務など様々なのだ。
病気や怪我によく効くが、かなり珍しい物の
ようで、なかなか見つからないのだという。
薬草があるという森にやって来ると、サヤは
班を二通りに分けた。
「ルーとシオンとルーンが一班、オレとルカが一
班でいいよな?」
「今のところの実力だと、それが妥当だと思うよ」
「ルーン姫は何か力を使えるんですか?」
サヤが悩みながら今いるメンバーを振り分ける。
シオンが賛同するように小さく頷いていると、ルカが
気になったのかルーンの力について聞いていた。
力がないのならば、必然的に二人がルーンの守護を
するしかないし、負担が増えると人数も増やす必要が
あるので聞いておくべきだった。
入ったばかりなのでルーンの実力は未知数なのだ。
「私は魔女見習だ。あまり強くは
ないが、少しなら術も使えるぞ」
「う~。魔導師と魔女か。
戦力にバラつきが出るな」
サヤが迷うように炎のような赤い髪をかきむしった。
次第に同色の目が潤んでいくので、シオンも悩みながら
腕を組む。と、助け舟を出したのはルカだった。
「リーダー、ルーン姫はこっちの班にしたらどう
です?」
「そうだな……」
一瞬、自分がサヤの班に行けるのかもしれない、と
期待に金色の瞳を輝かせていた、ルーは不機嫌になって
唇を尖らせていた。
ルーはいつもサヤと一緒だった。ギルドに入った時から
依頼でもお休みでもいつも二人セットで動いていた。
それが、理由もなしに別々になるなんて、納得出来ない。
「じゃあ、あたしがサヤの班に行く!! シオンはルーンと
一緒でいいでしょっ!! あ、そうだ、ルカがそっちの班に
行けばつり合い取れるじゃない!」
苛立ったようにルーが喚いた。ルカが困ったような顔に
なり、今度はシオンの方がむっとなる。
「別に、誰と一緒でもいいだろ? 僕はルーでも構わない
けど……」
「あたしが構うの! シオンとなんて嫌っ!」
「……っ」
シオンが仮面の奥で泣きそうになった事に、ルーは気づ
いていなかった。
サヤとルカは、彼の体が震えて拳を握り込んでいるので、
気づいている。シオンだってルーが本心から自分の事を嫌
がっているのではないと知っていた。
きっとただサヤと一緒にいたかっただけなのだろう。
でも、ここまで嫌がられるとやっぱり悲しかった。
「私は、シオンでも誰でもいいが……」
「駄目」
ルーンは困惑しながらも了承しようとしたが、ぴしゃりと
サヤが遮った。
今度はルーが泣きそうになり、キッと金色に輝く目で彼女を
睨み、ルーンがおろおろと兎の耳のような薄桃色の二つ結びを
揺らす。
「いつまでもワガママ言うなよ。いつでも、オレと一緒にいら
れる訳じゃない。オレがたまたまいない日に、仕事は受けない
って言うの? そんなの許されるのか? 大仕事だったら
どうする?」
いつもの〝親友〝としての顔ではなく、サヤは〝ギルド
リーダー〝としての顔になっていた。
厳しい目で睨み返され、ルーはたじろぐ。
もう聞き入れられないと分かり、ぎゅっと小さな唇を噛み
しめるとシオンの腕を掴むとぐいぐいと引っ張って森の
中へ入って行った。
シオンが耳を真っ赤にしながらもどことなく嬉しそう
だったのは気のせいではないだろう。
「い、いいんですか、リーダー?」
「たまにはいいよ。サヤサヤってしょっちゅう言われん
のも、たまにイラつく事だってあるし。すぐに機嫌は
直るからな」
「だといいですけど……」
「うるっさいな。ほら、オレ達も出発するぜ」
ルカはその言い草にムッとなったが、何も言い返さずに
歩き出した。
不穏な空気を感じ、ルーンが眉をひそめる。
仕事に向かう当初はあんなり明るかった空気は、すっかり
重苦しくなってしまっていた――。
ううぅ、と泣き声が森の中に響いている。
ルーはずっと泣いていた。泣きながらも、シオンの腕は
放さない。
シオンは仮面の奥に隠されて見えない顔を赤く染めた
けれど、その理由が彼の事を好きだからではなく、単に
心細いからだと知っているので、すぐに顔を引き締めた。
どんな顔をしようと、仮面をかぶっているから、ルー
には気づかれたりしないのだが。
確かに、シオンはずっとルーの事が好きで、彼女と
二人っきりになりたいと思っていた。でも、こんなに
わんわん泣いている彼女と一緒にいたかった訳
ではない。
いつもの明るくて元気な様子が嘘のように、泣き
続けるルーをシオンは完全に持て余していた。
多少、サヤが気を使ってくれたとは分かるけれど、
今のシオンは彼女に感謝出来そうにもなかった。
「――いい加減泣きやんだら?」
そんなに、僕と一緒が嫌なのか、と思ったら苛立って
来てシオンは棘のある口調で言った。
ルーはそれを無視し、白い顔を両手で覆って泣き
続ける。
せっかく好きな子と一緒になれたのに、と小声で呟き
ながらシオンはため息をつくのだった――。
一方、サヤ達は――。黙ったまま歩いていた。
ルカもサヤも拗ねていて一切口を利かないし、ルーンは
気まずくて口を開けない。
サヤはルカが自分のルーへの対応にいささかムッと
なっているのを知っていたし、ルカはサヤがルーを
突き放した事をずっと怒っていたのだ。
と、その時、魔物の咆哮が響き渡った。
何匹かの魔物が飛び出して来たので、三人は慌てて
身構える。
「よっしゃあ、いくぜ!!」
先手攻撃を放ったのは、サヤ。
少女にしては重い拳が魔物を殴りつけ、悲鳴を上げ
させた。ルーンはすぐに詠唱を始めている。
ルカもキッと顔を上げるなり、魔を祓う巫女の力を
使って魔物を浄化した。
天邪鬼の力も使って、小さな石を
巨石に変えて押しつぶしたりもしている。
ルカが魔物達の視線をそらしたので、邪魔される事
なく発動したルーンの炎の術が、魔物を何匹か消し炭に
変える。
サヤ達は勝利を確信していたが、彼らに危機が訪れた
のは、あらかた倒し終えた、その時だった。
ひときわ大きな声が響くなり、巨大な魔物が現れ
たのだ!!
咆哮がびりびりと地面を震わせる。黒い狼の耳が
じんじん痛くなるのを我慢し、サヤはルーンを抱えて
その場を飛びのいた。
ルカも慌てて飛びのく。が――。
不幸な事にタイミングが悪かったのか、ガツンと二人の
頭が激突した。
彼らは普段陣形を取ることはなく、直前ケンカしていた
せいで、何の確認もせずに同じ方向に飛んだのである。
倒れ込んで痛みに顔をゆがめる二人の前に、鋭い爪を
つけた巨大な手がせまった――。
今回はルーン姫の初仕事のお話です。
薬草探索に出向くサヤ達ですが、サヤは
いつもは一緒に働くルーを突き放します。
結果、ルカともケンカみたいになって
ピンチに陥ってしまった、というお話です。
次回はちょっとグロいかもしれません。




