表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

欠けた記憶の先に

 先の見えないものほど、恐ろしいものはない。

 そう思う。

 果てしなく続く、戦い。

 それを終わらせるために、俺は最終手段を取った。

 取らざるを得なかった。

 ひとつは、最愛の娘を失ったから。

 もうひとつは、この戦いを早く終わらせたかった。

 もう、戦いは沢山だった。

 それくらい、この地は血と涙と悲しさと苦しさに塗れていたから。


「いかがですか?」

 研究員が資料を眺める俺に声をかけた。

「こんなものか」

「え?」

 しばしの沈黙。それを打ち消すように研究員は続ける。

「いえ、よく見てください! あらゆる数値全てが彼の有り余る能力を示しています。彼さえいれば、この戦いは終止符を打つことができましょう」

 彼の言い分はわかる。身体能力だけでなく、その的確さ。全てにおいて、俺を上回っていた。

 ただ……それだけなのが、納得行かなかった。

 何年も何年も研究を重ね、神と同格と思われる最高の遺伝子を発見し、それを移植した。

 その子供の能力が、これだけなのかが、納得いかなかったのだ。

 けれど、これが現実というのなら、そうなのかもしれない。

「そうだな。俺よりも全てが上だ」

 もう下がっていいと手で合図すると、研究員はほっとした様子で持ち場に帰っていった。

「どうだった?」

 奥から妻のリィナがやってくる。

「能力だけは、当時の俺を上回ってる」

 どれどれと、リィナは俺の手元にある資料を覗き込む。

「あらあら、私の能力も受け継いでるのね」

 しかもソレ全て、上回ってるじゃないと、リィナは続けた。

「そうだな……」

「浮かない顔ね」

 ぽんと机に資料を乗せると、ため息混じりに呟く。

「それだけだ」

「まあ、そうともいえるかもしれないけど……」

 リィナが何か言おうとして、やめた。

「望みすぎたな」

「私も同じよ」

 寄り添うようにリィナが、後ろから肩を抱きしめてきた。

 その手を握り締めながら。

「でもまあ、それが俺達の切りエースだ」

 後ろで静かにリィナの頷きを感じる。

「俺達は、その切りエースに全てを教えるだけ……なんだな」

 目をやる窓の外。

 暗雲が立ち込め、その雲から大粒の雨を降らせていた。

 まるで、これから先を指し示すかのように……。


 酷な事をしたと思っている。

 彼には幸せな未来を与えたかった。

 最高の幸せと愛を注ぎたかった。

 けれど、今はそれを許してはくれなかった。

 愛くるしい笑顔を見るたび。

 辛そうな涙を見るたび。

 抱きしめたくなる衝動を抑えるのに精一杯だった。


「こんなことも出来ないのか?」

 モニター越しに見える、テスト結果。

 すべては8歳児にしては、好成績。けれど、成人のそれと合わせれば、それに及ばず。

「……もう一度、やります」

「いい心積もりだな、じゃあ、やってみろ」

 様々なコードが体につながれている。

 唯一見える口元からは、荒々しい息遣いが漏れていた。

 沢山の汗も見える。

 いや、これは涙か?

 前回よりもランクを上げてテストを試行する。

「くっ……」

 声が漏れた。たぶん、ランクが上がったことを知ったのだろう。

 けれど、その手は止まず。

 執拗な攻撃を避けて、攻撃を仕掛ける。

 けれど、やはり撃墜されてしまった。

「あ、あのっ……」

「もういい、充分だ」

 吐き捨てるようにそう告げて、俺はその場を立ち去る。

 あの子は、昔の俺に、そっくりだった……。


「で、あの子を置いて出て行っちゃった、と~」

「茶化すな」

 くしゃくしゃと頭を掻きながら、俺はむしゃくしゃした気持ちだった。

「だって、そうでしょ? まあ、あの子もあなたと同じ、負けず嫌いだしね」

 振り返り、俺はリィナを見る。

「でもまあ、あの子、かなりやるわよ。だって、あのランクで好成績取ったっていうじゃない」

 リィナの言うとおり、彼は……ラナは優秀だった。

 けれど、それだけなのが、腑に落ちない。

 いや、悔しいのは、この戦いを終わらせる切り札にはならないだろうということ。

「俺は間違ったんだろうか」

 思わず零れる本音。

「あんたのせいじゃない」

 リィナはふうっとため息を零しながら、続けた。

「私だって同罪よ。だって、半分は私の遺伝子なんだもの」

 ラナは俺とリィナの遺伝子、それにもう一つ、神の遺伝子を組みこんで生まれた試験管ベビーであった。

没短編もこちらにこそっと。

この続きはありませんので、ご了承くださいませー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ