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遠い記憶

 懐かしい丘の上。そこにある大きな木の麓に、僕らはいた。

 僕と彼女の二人。

 僕はもう成人を迎えたばかりで。

 彼女は、成人間近だった。

 僕らは、こうして木漏れ日の下で座って、丘からの風景を眺めるのが好きだった。

 心地よい風に、心地よい日の明かり。

 そして、彼女が隣にいる。それだけで、幸せだった。

 なのに……なぜ、この胸に切なさも感じるのだろうか?


「ねえ、ちょっと聞いてもいいかな?」

「いいよ」

 僕はすぐに応える。

「私が困っていたら……その、助けに来てくれる?」

「もちろんだよ」

 即答だった。というか、愚問だといわんばかりに。

「誰かに攫われたり、殺されそうになったり、地震とか津波とかきたりとか……戦争になったりとか!」

 その突拍子のない展開に思わず笑ってしまいそうになる。

「うん、すぐ駆けつけるよ」

「すぐよ? 名前を呼んだら、すぐよ?」

「もちろん、そのつもりだけど?」

「………」

「どうかした?」

 不服そうな顔で彼女は口を開いた。

「だって、そんなこと、できるわけないじゃない」

 そう願ったのは、君だって言うのに。

 とうとう、堪えきれずに笑ってしまった。

「ちょ、ちょっと!! やっぱり冗談なんでしょ!」

「違うよ。ただ、君の言い分が……」

「冗談言うなら、私、帰るっ!」

 すっくと立ち上がり、彼女がその場を駆け出そうとするのを。

 彼女の腕を掴んで止めると、すぐさま、顔を僕の方へと向けさせた。

「ちょっ……」

 僕と彼女の唇が重なる。

 それと同時に、彼女の体の力が抜けていく。

「ず……ずるいよ……」

「だって、逃げようとするから」

「……でも……」

「僕が冗談なんて言う?」

 言葉を失い、彼女はふくれっ面で首を横に振った。

「ラナ君……ずるい」

「どんなことがあっても駆けつけるよ」

 囁くように彼女の耳元でそう答える。

「たとえ、それが時を越えたものだとしても、僕は必ず君の元へ駆けつける。そして、君を助けるよ」

「でも……やっぱりそれって……」

「無理じゃないよ」

 ばさりと、背中から二枚の白い翼が広がる。広がると共に白い羽根が二人の周りに舞った。

「ラナ、君……?」

「君が求めるのなら、僕は答えられるよ。その力はあるから……ね?」

 彼女は泣きそうな、嬉しそうな顔を浮かべて。

「私の……私だけの、ヒーローになってくれる?」

 僕はとびきりの笑みで答えた。

「もちろん。この僕、ラナシード・ユエル・ニューエントは、永遠に君のヒーローとして君だけを守ります」

 命に代えても……。

 その言葉だけは、心の中だけで。

 彼女を安心させるように強く抱きしめて。

 腕の中にある、壊れそうな、けれど柔らかくて暖かいその、愛する存在を守りたい。

 そう僕は、このとき誓った。

 遠くで、カモメの鳴き声を聞きながら……。


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