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パラレル倭人伝(セトウチ編)

作者: メタボ大臣
掲載日:2026/05/21


『パラレル倭人伝(セトウチ編)』


登場人物


安高哲弘 30歳独身、中学社会科教師

 

教頭先生 教育委員会で地元の考古学発掘調査のまとめ役

     

謎の少女 ピミコ

クマヒコ ピミコの父 小さな倭国の王になる

 イノコ ピミコの祖母、クマヒコの母

 トミコ クマヒコの妻

 クニヒコ ピミコの弟 


クヌゴリ クマヒコの幼なじみ、豪農 


村長 地域の長


劉孔孟リュウ コウモウ 本名マンペー、クヤカン国人


モモサル キビ国の王


ヤマト国の使節


ローカル地名 

   瀬戸内市 岡山市の東側にある市、北に赤磐市、東に備前市と接する。

   吉井川よしいがわ岡山市東部と瀬戸内市あたりに流れる川

   熊山くまやま

   芥子山けしごやま

   龍ノ口山たつのくちやま

   



『パラレル倭人伝(セトウチ編)』


登場人物


安高哲弘 30歳独身、中学社会科教師

 

教頭先生 教育委員会で地元の考古学発掘調査のまとめ役

     

謎の少女 ピミコ

クマヒコ ピミコの父 小さな倭国の王になる

 イノコ ピミコの祖母、クマヒコの母

 トミコ クマヒコの妻

 クニヒコ ピミコの弟 


クヌゴリ クマヒコの幼なじみ、豪農 


村長 地域の長


劉孔孟リュウ コウモウ 本名マンペー、クヤカン国人

蜀漢の劉 劉備、三国時代の英雄、蜀の皇帝、


モモサル キビ国の王


ヤマト国の使節


ローカル地名 

   瀬戸内市 岡山市の東側にある市、北に赤磐市、東に備前市と接する。

   吉井川よしいがわ岡山市東部と瀬戸内市あたりに流れる川

   熊山くまやま

   芥子山けしごやま

   龍ノ口山たつのくちやま

   

——————————————-



1章【ファーストコンタクト】


私は安高哲弘(ヤスタカテツヒロ)30歳独身、瀬戸塚中学社会科教師だ。

一学期最後の授業で盟神探湯くがたちの説明をして生徒を驚かせた。

盟神探湯にかけられると有罪確定である。

沸騰したお湯の中の石を拾わせて、嘘をつくものの手は火傷する。

とはなんとも無茶苦茶な裁判だ。

生徒たちも『無理ゲー』と笑った。私もそう思う。


終業式の後、教頭に呼び出された。

夏休みにある古墳を調査をしてほしいと依頼された。

調査員として推薦されたのだ。

特に名前も伝承もない小さな円墳だ。

横穴の先に石室があり、石棺もあるらしい。


午前9時

夏休みの天気のいい朝

その古墳を見にいくことにした

他の調査員と初顔合わせだ。

今日は挨拶だけだ

少し早く現地に向かった

途中自販機でお茶を買おうとしたがスマホ決済は使えない、

現金だけだ。

財布には硬貨は150円しかなかった。

やーいお茶が140円で助かった。

しかしお釣りの10円が出てこなかった。

自販機の近くの地面に硬貨のようなものが半分覗いていた。

拾ってみると5円玉だった。

『これも何かのご縁だ』と駄洒落を言いながら、

その5円玉を拾ってポケットにしまった。

まだ誰も来ていないがひと足先に横穴に入った。


盗掘抗だろうか?かなり狭い、身を屈めてその中に入った。

そして慎重に進み、その先に石室があった。

弥生時代後期の有力者の墳墓ではと仮説を立てるが、手がかりはあまりない。

石棺も蓋が無造作に開けられ、横に外されている。

副葬品も見つかってはいないらしい。

狭い石室内で立ち上がった時、

天井で頭を打ちつけ倒れてしまった。

どさっと落ちた様な感覚がした。

当たりどころが悪かったのか気を失ってしまった。



<午前10時集合場所では>

 他の調査員が集まったが安高だけいなかった、なぜかやーいお茶が石室内にあった。

 誰かが安高の携帯へかけても「電波が無いか電源が入っていません」とアナウンスされるだけだ。

 結局、安高はその日現れなかった。



ある朝9時ごろ

私は目を覚ました、開けた草木のしげる小さな丘だった。

辺りには何も無い、道も無い、綺麗な自然以外は何も無い。

スマホは圏外だ、山で遭難したのか?

いや違う、遠くに見える山々から見てここはそんなに標高は高く無い、

というか、その山々は見慣れた郊外の山だ。

自分は瀬戸内市にいる。

近くに見える川は吉井川だろうか。

遠くに見えているのは熊山だろうか?


それにしても何も無い、

自然の草木しか見えない、

理解が追いつかない。

何がどうなったのかさっぱりわからない。

いや確か古墳の調査に来た筈だ、

リュックにはノートとペン、

ポケットには拾った5円玉もある。

記憶は確かだ。

古墳の中に入って石棺までは行った筈なのだ。


でもいまは古墳も見えないし人も何も見えない。


とりあえず移動しよう、川の方に行ってみよう。


でも道が無い。


獣道の様な草の隙間を歩いて川の方に向かった。

なんとか小さな小川にたどり着いた。

この川を降りていけば吉井川まで行けるだろう。

小川のほとりで少し休憩した。水を飲んでみた、

綺麗な流れだが、そのまま飲むのは抵抗があった。

でも我慢出来なかった。

それにしてもおかしい、

アスファルトもコンリートもない、

完全な自然の景色、電柱も電線も無い、

車も人も居ない、なぜだ?

でもここは瀬戸内市だ間違いない。

熊山も見えている、

芥子山もその先の龍ノ口山もみえる。

でもその山にあるはずの送電線やテレビ中継局はないのだ。


目が慣れてきたのでわかったが、

川の周辺には水田が広がっている。

現代の様に直線ではなく自然の地形を利用した不規則な形なのだ。

そして畔の縁取りも細く曖昧だ。


まさか過去にタイムスリップしたのか?


自分の認知力の問題だった。

現代人が古代の田園風景を見たところですぐにはわからなかっただけだ。

間違いなく人はいる、かなり開発がされている。


テレビドラマ『仁』を思い出した。

現代の医者が幕末にタイムスリップする話だ。

このドラマの影響で歴史教師になったようなものだ。

この状況はタイムスリップしたことを強く示唆している。



突然草木のすき間から子供が現れた。


汚れた布をまとっていて裸足の少年か少女の様だ。

というのは少女ぽいが、汚くて少年ぽくもあった。

歳は10歳ぐらいだろうか。

髪は伸ばしていてとても汚い。

服装も布をかぶって帯で腰を縛っているだけだ。

そしてかなり臭い。

ただ表情はとても穏やかで常に笑顔だ。

嬉しそうに何かを言っているが、全く分からない。

不用意にも腹がなった、かなり歩いたのに、

水しか飲んでないのだ。

その子供は腹の虫をきいてキャッキャと笑った。

そしてどこかに走り去って行った。


正午ごろ

状況を確認してみよう。芥子山とその背後の龍ノ口山、、北には大きな熊山が見える

ここは瀬戸内市だ間違いない。

でも現代の物は一切無い、明らかに古い時代だ。

子供の言葉はわからない、

そして服装はとても粗末だ、

しかも裸足で走り回っている。


スマホの電池はまだ充分あるが、電源はオフにしておこう。

カメラやライトは役立つかもしれない。貴重な電力だ。


リュックには大学ノートとボールペン1本、

初日の挨拶なので何も準備していなかったのだ。

財布には1000円札が2枚とあとは免許証とクレジットカードが3枚

ポケットには車の鍵とアパートの鍵、そして拾った5円玉。


子供が走って戻って来た、手には何かを持っている。

とにかく楽しそうで、子犬がまとわりついてくる様な感覚だ。

その手の中身を見てゾッとした。

白い幼虫の様なものが蠢いている、蜂の巣だった。

そして半分に分けて手渡された。

その子は嬉しそうにかぶりついた。

蜂の巣ごと食べているのだ。

そして早く食べる様にと促された。

生水を飲んだ後悔とは比べ物にならない恐怖だ。

幼虫が生きている。

おそらく腹が減っているのを気遣って食料をくれたのだろう。

困った。

この純粋な子供の好意を受け入れたいが、

生きた幼虫を生食するのは恐ろしい。

子供は優しく微笑んで私が食べるのを待っている。

自分も教育者の端くれ、

子供の好意に応え無ければと思いかぶりついた。

清水寺から飛び降りるという気持ちってこんな気持ちだろうか?

気持ち悪さから涙目になった、吐きそうだが、

嬉しそうな子供の笑顔が飲み込めと言っている様に感じた。

なんとか完食した。

生で幼虫を食べたのだ!

少し自分が誇らしかった。


満腹には程遠いが食事を取れたのはありがたい、

小川に水もある。

今日明日に餓死することはないだろう。


子供が何を言ってるかわからないが何かお礼をしたかった。

子供が喜ぶものはないか。

とりあえずペンを耳から入れて鼻から出す手品をやってみた。

喜んでくれたが精度の悪い手品なのですぐに真似をされた。

ノートを破って鶴を折ってみたりもした。紙飛行機を飛ばしたりもした。

5円玉の穴を通して遠くを見るとよく見えるから覗かせたりもした。

5円玉の穴で視力をアップさせるのはどうやら効果がない様だ。

元々視力が良いのかもしれない。


だが5円玉の模様にはすごく興味を示した。

稲穂が垂れる様な柄と水平線に上がる太陽だろうか、その様なデザインだった。

5円の模様なんて初めて見た気がする。

その5円玉をプレゼントしたら子供は目を輝かせて喜んだ。

そして何かを言いながらどこかに行った。


どうやら本当に過去にタイムスリップしたのだろう。

時代はかなり古い。

言葉は通じない。

それにしても何もない景色。

水田があるから弥生時代?

今わかることはかなり昔ということだけど、

その前にやるべきことを考えた。


元の時代に戻るにはどうすれば良い?

全く分からない。

どうしてタイムスリップしたかも分からない。


このままここにいるとしたら夜までに寝る場所を確保しないといけない。

小川のほとりは涼しいが夜になったら寒いかもしれない。

雨が降ったらどうすれば良い?

とにかく雨を凌げる場所はないか?

食料はどうする?

蜂の巣だってどうやって取ってくるかも分からない。

今のところ小川の水だけがサバイバルの糧だ。


気温からすると夏で間違いない。

不幸中の幸いだ、夜もさほど寒くはない。

しかし雨を凌ぐ方法は見あたらなかった。

洞窟もないし、屋根に使える様なものも見つからない。


何も持ってこなかったことが悔やまれる、腕時計もしていない、雨具もない、

役に立つ物は何もない。


サバイバルするにはどうすれば良いのか?

小川で魚を捕まえようとしてみたが無理だった、難し過ぎる。

魚が取れたとしても生食する勇気もない。

鱗も骨もある魚を食べるのは無理だ。

火を起こすこともできない。

乾いた木を探すこともできないし、

火を起こすのがどれほど難しいかは知っている。

体験学習で火おこししたことがあるが、素人が自然の中でおこなうのは不可能だ。


もし本当に古い時代なら人に殺される可能性もある。

あの時は子供で良かったが、

大人の男に会う時は殺されない様に対策しておかないといけない。

戦う勇気もないし逃げるのも難しい、

両手を地面につき土下座しよう。

無抵抗の人を殺したりはしないだろう。

対策はそれぐらいしか出来ない。


夕方、日暮前

人が現れた。大人の男だ。

手にはなにかを持っている。対策しておいて良かった。

迷わず土下座した。


昼の少女も一緒だ、父親だろうか?

手には木製の鍬の様な物を持っている。

何かを言っているが分からない、

あまり歓迎はされていないことは理解出来た。

少女には気に入ってもらえているが、父親は警戒しているのがわかる。

とにかく自分は安全であることを示さないといけない。

地べたに両手をつけて頭を下げ続けた。

自分を指差しヤスタカと連呼した

自己紹介だ、これしか出来なかった。

すると敵意がないことが通じたのか

彼らについてくる様に促された。

そして獣道を進んでかれらの家に着いた。

竪穴式住居だ。

住居の外には焚き火と尖底式土器がかまどに載せられて何か料理をしている。

魚と玄米の雑炊のようなものだった。

それを木の匙で葉っぱを敷いた皿によそってくれた。

薄い塩味で味付けされている、海水を調味料として使っているのか?

あまり美味しいものではないが栄養としては充分満足出来た。


この日より私はこの家族と生活を共にすることになった。



【2章 少女の家族と生活】


どうやら弥生時代にタイムスリップしたらしい。

水田や竪穴住居、弥生土器などからの推察だ。

意外にも縄文土器が飾られている。

複雑な紋様が気に入っているのか、先祖の形見か。

使われてはいない、ただのかけらだ。

この住居が遺跡となったら考古学者は困惑するかもなと想像したりした。

この家では金属はない、石か土、木竹、骨でできたものだけだ。



この家族は父親クマヒコと妻トミコと娘ピミコとその弟クニヒコ、

父親か母親の親と見られる祖母イノコが一緒に暮らしていた。

弟はまだ乳飲み児だ。

父親と祖母は顔や腕に刺青がある。

母親と少女には刺青がない様だ。

祖母はおそらく父親の母かもしれない。刺青から同族感を感じた。


この娘ピミコは私に懐いており、

プレゼントした5円玉に紐を通して首にかけている。

好奇心が強く私の持ち物や服装に興味を示している。

また虫や小動物を捕まえて私にプレゼントしてくれる。

時にはそれを食べるように仕向けられることもあるが。


私はもっぱらピミコと話して過ごした、

ノートに絵を書いて

山、川、魚、鳥など通じるか試してみた

やま、かわ、は通じた、日本語なのだ。

さかな、とりは通じなかった。

とにかく物の名前を聞いて意味を理解することで、

少しづつ言葉を理解しようとした。


彼らの言葉は確かに日本語のようなのだが、発音は現代とはかなり違うようだ。

ピィーとかトゥーとか曖昧で発音しづらい言葉がかなりあった。


在るとか無いとか早いとか遅いとか概念の言葉を判別するのはとても困難であった。


とにかく物の名前はわかるが

動作や状態の伝え方がわからない。


ただ彼らは私に敵意がない事はわかったためか、

このようなモノの名前を聞くだけの会話を楽しんでいた。

彼らが何を言っているのかまるで分らないが純粋に楽しいと思った。


子供の言語習得能力は驚くべきものだ、

この少女は私の言葉を少しづつ理解してきた様で、

ついには現代語を話し出したのだ。

ここから彼らの言葉の理解は加速度的に進んだ。

そして後に彼女は私の通訳の様な存在になった。


この時代の生活でとくに困るのはトイレだ。

皆茂みで用を足すわけだがどういうルールがあるのか、

場所の指定はあるのか?

紙はどうしてるのか?ピミコに聞くこともできない。

慎重にまわりを観察した。

小の方は適当に茂みに走っていき、そこで用を足した。

問題は大の方だ。

とりあえず初めての時は靴下を使った。

この先どうすればいいか悩んだ、色々試してみた。

河原で滑らかな石を拾ってきたり

葉っぱを摘んできたりした、

トイレットペーパーの代用品確保がこれほど難しいとは。


食料確保について

少女ピミコと母トミコは貝を拾ってきたり

木の実、どんぐりや蜂の巣をよく集めてきていた。


父クマヒコが魚を捕まえたり鳥やイノシシを狩って来る時もあった。

私も狩りに同行したが邪魔になっている様で、その後は行っていない。


父親クマヒコは水田もみていた、水路の補修や水位の調節をしている様だ。

水田は近隣の竪穴住居の住民と共同作業している様だ。


私はピミコと一緒にどんぐり拾いや潮干狩りが日課になっていた。


食事では

どんぐりの雑炊をよく食べる。

現代では食用とはされないが

とても豊富に取れるのだ。


バッタなどの昆虫もよく食されている。

初めは吐きそうな味だったが

味気ない料理の中にあって、刺激的な風味は慣れると旨く感じ出したのだ。


魚、獣、鳥類は苦労して狩って来るのに、

簡単に取れそうなヘビ、トカゲ、カエルなどは食べることはないようだ。

サルモネラ菌を経験的に知っているのかもしれない。


なぜか昆虫も食べる種類は決まっている。バッタ類、蜂の幼虫は食用

だが、それ以外は食べていない。


この時代の風景は時が止まったのかと思うほど雄大だ。

どこまでも続く緑の景色、空気も澄み切っている。

現代では意識することが難しい鳥の鳴き声、虫の音なども鮮明に聞こえる。

また夜の星空は驚くほど綺麗だ。もちろん天の川もみえる。

満月の夜に視界が利くことも新鮮な驚きだ。

元の世界では意識したことのない月明かりの存在。

とは言え、本格的に活動できるのは昼間だけである。


この時代の人の朝は早い。夜明け前には起きて身支度をしている

外の視界がはっきりしてから、それぞれの仕事に向かう。

水田や狩りへ、また雨などで住居に居たとしても石を研いだり

木を削ったり。

夜も焚火の明かりがあるうちは何かの作業をしている。

この家の大人達は働き続けるのだ。


彼らには現代人よりも早く時間が流れているようだ。


祖母イノコは一日中家にいて外に出歩くことはない。

いつも糸を紡いだり布を織ったりしている。

イノコの手さばきは繊細でそして速い。

トミコは彼女に師事する弟子のようにいつも手伝っている。

この糸を紡ぐ作業とその糸を使って布を織ることは

とてつもなく気の遠くなるような作業だ。

木から繊維を作るところから布になるまでの工程を

彼らはどうやって編み出したのだろうか?

イノコの織り成す布はとても見事な出来栄えだ。

手作業でこのような緻密な織物を作り出す技術は

現代の最先端技術と比べても誇れるものである。


すでにスマホの電源はつかなくなっていた。

電源があったとて、ここでは役に立たない。

あまり現代の物を見せるのも良く無いことである。

持っていた財布や鍵、スマホも土に埋めてしまった。

ノートやペンもいずれ埋めるつもりだ。

この時代にない物をあまり見せない方が良いと思うのだ。


あとは私の服装だがあの日から変わっていない。

なんとかして自作の草履かサンダルを作ろうと思う。

彼らは裸足で歩けるが私には無理だ。

今履いている靴が壊れた時のために何かを準備する必要がある。


他の住民たちをみていると

奴隷階級の様な人たちを見ることがあった。

その逆に労働をほぼしないが、その奴隷民を使役している様な者もいるのだ。

特に目立っていていたのはクヌゴリという使役者だ。

彼は後に禍をもたらすのだ。


父親クマヒコは奴隷を持たない、自由市民の様な階級なのだろうか?

使役者クヌゴリとは対等のように振る舞っているが、奴隷民と共同作業もするのである。


ある時水田への水路が壊されており、隣村の水田に水が引かれている事件が起きた。

父親クマヒコも武装して隣村との戦争に参加した。

多くの奴隷民も駆り出された。クマヒコは村の戦士のリーダー各として奮戦した。

そして勝利したがその代償も大きかった。

かなりの村人が死亡したり負傷したりした。

クマヒコは1番多くの戦果をあげた。

しかし、その体には深い傷を多数受けていた。

クマヒコは彼らの先頭に立って激戦を勝ち抜いたのだ。

この戦いでクマヒコは村人や奴隷民たちからの信頼がとても厚くなった。


一方で使役者達は自らは戦闘に参加せず奴隷民を差し出しただけである。


そして戦勝後、多くの捕虜奴隷民が村に来た。

クマヒコの家族にも敵の負傷兵とその家族だろうか女性と子供も加わった。

一番の戦果を挙げたクマヒコだが割り当てられた報酬は他の村人たちと変わらなかった。

例の使役者クヌゴリはかなりの人数の捕虜とその家族を奴隷民として得た様だ。

1番の報酬を得たのはクヌゴリだった。1番多く奴隷民を派遣したからだ。


クマヒコは捕虜奴隷民を家族として受け入れた。

私がそう扱われた様に人を隷属させたりする事はないのだ。

この家族は奴隷民とも敵味方という意識はなかった。


自分もこの父親クマヒコに家族として受け入れられているのだ。

この幸運に感謝しないといけない。

彼に役に立てる何かがないか考えた。


一番に思いつくのは衛生面の向上である。

現代人にとってはこれが一番不便に思っている事なのだ。


溝を掘りトイレを作ることにした。

場所は雨で染み出して水田や住居や飲み水を汚染しない様な場所を選んだ。

溝に跨がって用を足すのだ。

30メートルほどの直線溝を2メートルほどだけトイレとして使い、

15日ほどかけてスライド移動するのだ。

使用中の2メートルは移動式の衝立を置き人目を避けれるようにした。

またトイレットペーパーの代わりの葉っぱを沢山集めた。


使用済みの場所は埋め直す。

埋め直すときにかまどののこり灰を使う。

食事のゴミも全て燃やして灰にしてトイレの埋め戻しに使う。

この30メートル溝を横に並べて行くのだ。

この溝は後に掘り直してその土は堆肥として使う予定である。


次に歯ブラシを作った。

稲藁で作った縄の端をほぐして長さを揃えてブラシというか、筆の様なものを作った。

食後に歯を磨き、うがいをすることを教えた。


食事用に箸とスプーンを使うことを教えた。


水道のない時代だ。

手洗いは無理。

せめて食器の衛生管理で安全を確保しようと考えたのだ。


鶏の飼育も提案した。

冷蔵庫のない時代、

大型の哺乳類を解体しても余った分を保存できない。

小型の鳥類を必要なだけ屠殺して

普段は卵を得ることを考えたのだ。

また鳥のフンはトイレに投棄して堆肥の元としたい。

鳥の羽は布団作成に役立てたい。

クマヒコもこの提案に乗ってくれた。


またクマヒコは奴隷民への扱いも家族的であり、

それに応えるように彼らも良く働いてくれた。

水田の収穫も肥料のおかげで大豊作。

また家禽のおかげで栄養も収入も格別に向上したのだ。

トイレや食事の衛生向上で住民も皆健康であった。


クマヒコは水田こそ広くは無いが、

使役者クヌゴリに引けを取らない有力者となっていたのだ。



【3章 盟神探湯くがたち


クヌゴリは多くの奴隷を所有している。

そして多くの水田を所有している豪農である。

また奴隷を非常に酷使して収穫をあげて、また再び土地と奴隷を買い勢力を伸ばしている。

村への納税も多くしているので兵役にはつかない、戦地に赴くこともない。

戦時には奴隷を派遣するのだ。そして戦勝後は見返りにさらに多くの奴隷を得る。


この時代の人達は総じて質素な服装をしている。

クマヒコは典型的だが、麻の貫頭衣のような物を着ていて、裸足である。

入れ墨があるぐらいで特に飾り気はない。

他の村民達も似たような物だ。奴隷かそうで無いかは、それぞれの対話の雰囲気でしかわからない。

年季の入った奴隷はそれなりの汚れ方をしているので判別しやすいが、

先の戦で得た奴隷は元々普通民だと思われ、見た目では奴隷かどうかは判別できない。

特にクマヒコの奴隷民は普通民と変わらない。


そのなかにあってクヌゴリは異質である。

この村では誰も持っていない金属製の剣を腰に携えており、

明らかに良い素材の縫製された服を纏い、

勾玉の首飾りをしている。

また奴隷妻を複数所有しておりいつも同伴している。

彼女達もまた上質な服を着ていた。


クマヒコは元々は小さな水田の耕作者で奴隷は持たない。

近隣家族と共同経営のようであった。


クヌゴリとクマヒコはときおりトラブルになっている。

元々は幼なじみらしいがどちらも気が強く、よく喧嘩をして成長したらしい。


水田の水路の引き方や水の配分などで度々トラブルになっているようだ。


最近では私を奴隷と思ったのか売って欲しいと持ちかけてきたらしい。

クマヒコはピミコの友ヤスタカは奴隷ではないと断ったようだ。


ある時クヌゴリとクマヒコが言い争っていた、

どうやらまた私のことを話している様だ。

そしてクヌゴリの仲間たちに父親と私は縄をかけられて連行される事件が起きた。

どう見ても異質な自分を囲っているのが気に入らないということだろう。

もしくは急に豊作をもたらして何か呪術でも使っているのではと疑っているのかもしれない。


そして大きな集落の大きな建物の前に座らされた。

この村の長老か王かわからないが

圧倒的に権力を持っている事はわかった。

多くの兵士が取り囲み周辺を警備している。


クヌゴリが何が告げ口した様なのだ。

そしてクマヒコと私が何が罪を問われているという感じなのだ。


すると兵士たちが青銅のかなえを運んできて

下から焚き火でお湯を沸かし出した。

そして、ぐつぐつと煮えたぎるお湯の前で

長老は何かを叫びながら石を鼎の中に入れた。

『イナヤーカ!』


盟神探湯だ、あまりにも皮肉だ。

学生たちを驚かせようと説明した古代の裁判だ。

熱湯の中の石を拾い、嘘つきの手は火傷するという理屈だ。

恐怖で体が震えて腰を抜かしてしまった。

長老が何を言っているか全くわからない。

本当に最悪だ。絶対無理だ。

確実に大ヤケドだ。石を拾う事もできるはずがない。

そして嘘つきとして殺される。


そしてさらに大きな声で長老は叫んだ。

何かどなりつけられているのだ。


恐怖で地べたで硬直していると、クマヒコがすくっと立ち上がり、

『アイケヤ!』と大きな声で叫びながらが熱湯の鼎に右手を突っ込んだのだ。


私は事態が飲み込めなかった。


父親は表情を変えなかった。

声も上げなかった。

そして石を拾いこぶしを突き出して

ただまっすぐ長老を見ていた。


その横顔を見た瞬間、全てを理解した。


裁かれていたのは

クマヒコだったのだ。


見知らぬ異人を無断で匿った罪とでもいうのか

集落の掟に背いた罪なのか。


その責任をクマヒコが一人で負っていた。


ピミコとトミコ、イノコの泣き叫ぶ声と

そのほかの群衆のどよめきが上がった。


『イザヤカーナ』

そして村長は奇声を発しながら

クマヒコの無罪を宣告した様なのだ。


群衆の歓声が上がった。


盟神探湯は完全に機能していた。

火傷するのは当然だった。

正直なら火傷しないわけではなかった。

正直さへの誇りを示す儀式なのだ。

クマヒコは無実を証明したのだ。


そして私は地面に手をつき号泣してしまった。


後にピミコとの会話が高度になってから聞いたところ

彼らは盟神探湯をイザヤカーナと呼んでいた。

この盟神探湯で無実を証明したのは数百年ぶりのことらしく、

クマヒコ以外では誰もこの儀式で自ら石を拾った者はいないらしい。

多くは逃げ出そうとするか、無理やり手を湯に入れられて泣き叫ぶだけらしい。

当然の事だと思う。


私の知識では、日本書紀によると、

古墳時代、允恭天皇期に氏姓制度の乱れを正したとされるのだが、

この弥生時代にすでに存在していたのだ。



クマヒコは元々人望が厚く勇敢だと評判だが

この日からは村人から生き神の様に尊ばれた。


クヌゴリとクマヒコはこの日を境に言葉を交わすとはなくなった。

おそらくクヌゴリが盟神探湯へ導いたのだろうし、

クマヒコもそれを理解している。


二人には幼なじみとはいえ強いライバル心がある。

ある意味認め合っているが、

今回の事件は修復不可能な心の溝を生んでしまった。



そして月日は流れ


クヌゴリは彼のやり方で水田を広げていった。

貪欲に、そして冷酷に自身の土地と奴隷を増やし続けたのだ。


盟神探湯の騒動からわずか3年で

クヌゴリは村国随一の大地主となった。


そして

クマヒコもクヌゴリほどではないがそれに次ぐ勢力となっていた。


そして2人の切磋琢磨の結果、

大事件が起きた。


クヌゴリは奴隷たちの反乱にあい、

家族もろとも殺されてしまったのだ。


クヌゴリの悪魔的に厳しい使役と

神格化されたクマヒコの人望と水田の繁栄が隣同士なのだ。

隣の芝が青いどころではない。

所有する奴隷から恨みをかうほどクヌゴリの使役は厳しかったのである。


そしてクヌゴリの水田から奴隷民たちはどこかに消えたのだ。

残された水田の大部分はクマヒコが経営を引き継いだのだ。

クマヒコが経営を引き継いだ後に逃散した奴隷民達は戻ってきた。


そしてクマヒコはその村国の水田の大部分を所有することとなったのだ。


私は使役者とか地主、村長、国王と色々な言葉で権力者を呼ぶが、

村も国も概念がない時代で

およその規模から使い分けているだけだ。


しかし


クヌゴリの土地を引き継いでからのクマヒコは王と呼んで差し支えなかった。

盟神探湯のため右手を負傷してから狩りも農作業もできなかったが、

神格化された善政を行う王の様であり、

瀬戸内丘陵一帯を治める君主となっていたのだ。


そして私はクマヒコのおかげでピミコと共に

トイレ事業や鶏の羽毛を使った布団や防寒着の作成を行っていた。


そして隣国のキビ国や遠方のヤマト国などと交易にも関わる様になった。


他国からクマヒコの国はクマ国と呼ばれ、

小国ながら一目置かれていると噂されていた様だ。


ある時隣接する大国、キビ国から商人を紹介された。

名は劉孔孟リュウコウモウという。帯方郡の御用商人ということだ。

魏の皇帝にも商品を納めたことがあるとのことだ。

地域の特産品を集めているとのことでヒスイや辰砂は特に高価に買ってくれるらしい。

また奴隷も扱っているらしく、代金として奴隷を渡したり、

また奴隷を買ったりもしているらしい。

何やら胡散臭い感じである。


キビ国においては病の治るとされる孔子の教えの書いた木簡を売り、

代金として大量の奴隷を仕入れてきたそうだ。

クマ国でも何か特産品はないか?と尋ねてきた。

名前も怪しいが彼の話す言葉は倭人語である。

本当に魏の皇帝と取引があるのだろうか?

帯方郡まで商品取引ならあり得ると思うが皇帝となると嘘にしか聞こえない。

何よりその名前は怪し過ぎる。

商人が劉を名乗るだろうか、孔孟っていうのもやりすぎだろと思った。

いまクマ国では羽毛布団と防寒着が特産品だが、

高度な縫製技術がいるため売るほど多くは生産できていない。

今は特に売りたいものもないというところだ。

劉孔孟は病に効く木簡を欲しくはないかと持ちかけてきた。

キビ国でもヤマト国でも先を争って求めてきたと言っている。

その木簡をかまどの焚き木とすると食事に薬効が出るらしい。

デタラメ過ぎるがどの様な木簡かは気になった。

孔子の秘術らしい。

そして見せてもらった。


鶏肉一匁

酒一升

とか

米一升とか銭三とか


ほとんど意味をなさない事が書いてあった。

値札か納品目録か、

使用済みの木簡の様だった。


劉に読んでもらった、蓬莱の秘薬と読むらしい、完全にデタラメだ。


私は

クマ国では売りたい物もないし

買いたい物もない、と伝えた。


蜀漢の劉備さんは親戚かと尋ねたら

そんな国は知らない、帯方郡に親戚は多いという。


もしかするとこの商人は木簡の字が読めないのかもしれない。

もしくはこちらが読めないはずと思っているからこんなデタラメをいうのかもしれない。


ピミコは多少の漢字を読める

なんで鶏肉や酒が孔子の秘術なのか?と問いただしてしまった。


余計なことをしてしまった。

悪人に悪事をあばいてしまったのだ。


私はピミコに控えるように言った。

これは秘術なのだから文字の意味だけでは効能を表しません。

と商人を擁護した。


劉は、

また良い商品が有ればご紹介します。

今日はこれにて失礼します。

と言って立ち去った。


劉は困惑した。

近隣諸国で売った木簡は全てゴミだ。

数年来、倭国の諸国から物品を買い付けて帯方郡の郡司の元へ行き、

倭国の特産品であるとして高値で取引していた。

また倭国の諸事情を聞かれ、それにも答えると褒美をもらえた。

繰り返し倭国の物産を求められるので何度も倭国へ赴いた。

廃棄された木簡を利用して支払いにあて、商品を買い付けて帯方郡に売りつけて荒稼ぎしていた。

倭国に文字の読める者がいたらもう使えない。

既に売りつけた木簡もデタラメとバレるかもしれない。この仕事が絶えるかもしれない。

そもそも劉孔孟の名前も適当に作った。数少ない知っている文字の寄せ集めだ。意味は知らない。

帯方郡郡司には本名マンペーを名乗っている。

クヤカン国の漁師の息子だ。


あのヤスタカとピミコは危険だ。

何やらあの2人で交わす言葉はわからない、ヤスタカは風貌からして異人で間違いない、倭人にしては大き過ぎる。

歯の白さや肌の白さからして洛陽の絹商人に違いない。

そうなると厄介だ、ヤスタカは倭人語が不自由だがピミコは倭人でヤスタカの言葉も話す。


ピミコがいなければヤスタカは無力だ。

ピミコをなんとかすれば良い。

小国とはいえクマ国の王女だ。

簡単には事が運ばない。


劉は考えた

キビ国を利用してクマ国を攻めさせるのが得策だろう。

クマ国の近くで木簡を売ったのはキビ国だけだ。

キビ国が攻めればクマ国はすぐ滅ぶだろう。


早速キビ国国王モモサルの元に行った。

モモサルにクマ国がキビ国に攻める準備をしているかもしれないと伝えた。


モモサルは考えた。

我がキビ国はクマ国と隣接する。

クマヒコのクマ国により国境が定まってからは平穏だが、

元々クマ国辺りはキビ国の一部であった。

何よりクマヒコは盟神探湯の勇者として諸国には知れ渡っている、

小国のうちに打ち滅ぼさないといけないとは思っていた。


娘を盟神探湯にかければ、娘は盟神探湯を実行出来るだろうか?

何かの嫌疑をかけて盟神探湯にかけよう。

そうすれば戦争になるかもしれないが、そうなればそれで良い、今のうちに戦っておくのが良いだろう。

もしくは戦さを避けてキビ国に下るかもしれない。娘を盟神探湯にかけるわけがない。そうなれば一番良い。

モモサルは劉に再度クマ国へ行きピミコのことを調査するよう命じた。


劉は再度クマ国へ行ってヤスタカとピミコに会った。

羽毛の防寒具を製造している様だが、売って欲しいと伝えた。

ヤスタカたちはまだ十分な数の生産ができておらず、売るほどは作れていないと言うのだ。

クマ国中の奴隷民にまで羽毛服を作る気なのか?と疑問に思って聞いてみた。

すると、そのつもりだと言うではないか。驚いた。

これは戦争の準備に違いないと確信した。この冬がその時だと確信した。

そしてピミコの首にかかった穴の空いた青銅器は精巧な紋様が刻まれており、

この世のものとは思えない美しさだ。

相当な熟練工を抱えているに違いない。

彼らは武器の製造もかなり進んでいる。財力もかなりあるということを理解した。

いやもしかしたら

特にこの青銅器、稲穂の紋様と日の出が描かれた精巧さからすると

魏の皇帝の下賜品かもしれない。

魏と通じている可能性があるかもしれない。

このことをキビ国国王モモサルに伝えた。


モモサルは完全に理解した。こちらからしかけなければ、いずれクマ国は攻めて来ると。

元々は小さな村国の集まりだったのがわずか3年でクマヒコが束ねてクマ国となった。

小国とはいえ侮れない。しかも盟神探湯の勇者でもある。

近隣の諸国王も一目おくクマヒコだ。

側近のヤスタカと娘ピミコも何か秘密があるに違いない。

どこの国もこの3年は凶作で疫病にも苦しんでいた。クマ国を除いては。

クマ国では稀に見る豊作、疫病もクマ国を避けて蔓延したのだ。

何か魔術を使っているに違いない。

もし魏と通じているとしたらキビ国などひとたまりもない。

急いで潰さねば。


モモサルはクマ国国王クマヒコに使者を送った。


使者は告げた。

王女ピミコが呪詛を行ってキビ国を呪っている。

キビ国が厳しい凶作と疫病の蔓延で苦しんでいるとき、隣国のクマ国は豊作で疫病もなかった。

またこの冬にキビ国への戦支度をすすめていると噂がある

大量の羽毛服を作っているがキビ国には売らないというではないか。

また諸国王に断りなく魏と通じていること。ピミコの首にかかった青銅器がその証拠だ。

明日の正午までにキビ国の社にきて弁明をする様に。

弁明出来ない時、弁明に来ない時はその日のうちに兵を差し向ける。


クマヒコは憤った。

とんでもない言いがかりだ。

弁明とは盟神探湯だろう、娘を盟神探湯に差し向けることは出来ない。

クマヒコは不自由な右手を見ながら、

そして言った、戦争いくさの準備を!


ピミコは言った。

キビ国と戦争すれば勝ち目はありません。

キビ国の兵力はクマ国の10倍はあるでしょう。

とりあえず弁明に行くしかありません。

ただの言いがかりなので弁明すれば判ってくれるはずです。


ヤスタカも続けた

羽毛服があれば冬の寒さで凍えることもなくなります。

もっと生産が増えればキビ国へも売りたい物です。

豊作は肥料のおかげです。

また鶏を買うことは栄養面での健康が安定します。

疫病はトイレの設置、箸と匙の利用

歯磨きの奨励が効果的だったのです。

あの青銅器は私があげた物です。

私の国では価値のある物ではありませんでした。

全て私が説明します。

戦争は避けてください。

この国は滅んでは行けません。

せっかくのクマヒコ王の善政を終わらせてはいけません。

キビ国へも他の国へも伝えて拡げるべきことなのです。


クマヒコは黙って考えた。

そして言った。


2人を行かせたらそのまま殺されるかもしれない。

まずは使者を遣わそう。

そして公正な弁明を約束させてからピミコとヤスタカを向かわせよう。

その時は兵を国境まで準備しておく。


クマヒコの号令の元に国中の民も 奴隷民も集まるだろう。

とても危険な任務だ、その場で殺される可能性もある。

それでも使者を募ればずぐに候補は見つかるだろう。


ピミコが言った

私の身代わりに死ぬ必要はありません。

使者は要りません。私が行きます。

女の私を騙し討ちにしたとしたら

モモサル王は未来永劫卑怯者として罵られるでしょう。

またこちらには一点の濁りもなく、

全てが言いがかりであることは明白なのですから。

恐れることはありません。


ヤスタカは思った

ピミコは私の教え子たちの年代だが、

もうすでにクマ国を背負って立つリーダーの資質、

リスマ性を備えていた。


そしてヤスタカは言った。

私もお供します。そして必ず潔白を説明して来ます。


翌朝

ピミコとヤスタカは数名の警護をつけてキビ国の社に向かった。

キビ国の厳重な監視の中

社の中にはいった。

その中には多くのキビ国の重鎮や

諸国の常駐使節、そして末席に劉もいた。

奥から国王モモサルが出て来て2人は平伏した。


モモサルは言った。

クマ国の王女ピミコで間違いないか?

共の者は異国の者の様だが何者だ?


ピミコは答えた

クマヒコの娘ピミコです。

共の者はヤスタカ。

クマヒコと私の友です。

異人ではありません。


ヤスタカも答えた。

私はヤスタカ

異人ではありません。同じ倭人です。遠い国から来ました。


モモサルは言った

遠い国とは何と言う国だ?


ヤスタカは言った

ニホン国です。遠すぎて言葉も通じません。

ピミコ王女よりこの国の言葉を習いました。


モモサルは言った

大量の羽毛服を作っているが

キビ国には売らないのはなぜだ?

奴隷民の分まで作っているのか?


ピミコは答えた。

まだ十分な数が出来ていないのです。

今はキビ国へ売る事は出来ません。

クマ国の全ての民に羽毛服が行き渡れば、

真っ先にキビ国にも買ってもらうつもりです。


モモサルは言った

奴隷民の分まで作るとはおかしな事を言う、

奴隷民がどうして高価な羽毛服を買うのだ。


ピミコは答えた

冬の寒さに貴賤の区別はありません。

奴隷民からは代物は取りません。

クマヒコが払います

地主や使役者からは相応の支払いを求めます。


モモサルは沈黙した。


しばらくして言った、

この数年キビ国だけでなくヤマト国もイズモ国も皆凶作で苦しんでいる中

どうしてクマ国だけは大豊作を続けているのだ?

そして疫病もクマ国を避けて流行っているのはなぜだ?

何か呪術で他国を苦しめているのか?


ピミコは答えた

豊作は田畑に肥料を使ったからです。

土は作物に養分を取られるので土に養分を返せば良いのです。

土から生まれた作物を人が食べて、

人から出た養分を土に返せば良いのです。

作物の食べれる実は一部分です。

米も鞘を剥いてからしか食べれません。

イネのうち根も茎も鞘も実も土から出来ていますが食べれるのは実だけ、

すなわち米だけなのです。

水の世話、土の世話をした返礼が実、すなわち米なのです。

水だけ与えて、土を世話しないのであれば実が痩せるのは必然。

キビ国でもクマ国に習い肥料を使ってみれば良いでしょう。

肥料は厠なる物から作ります。

人が糞を出す場所です。

動物や魚の粗や脱穀したイネの鞘なども燃やして灰にして入れます。

ここを釜戸の灰で埋め立てて、1年ほどすると肥料になります。

肥料を使った田畑は実りが戻るでしょう。

キビ国でも試してみると良いでしょう。

またクマ国では食事は箸と匙を使います。

箸や匙を使わず手で食事をすると知らぬ間に

土などの食べれない物も口に入れてしまっているのです。

キビ国でも箸や匙を使いましょう。


ヤスタカは関心した。

ピミコは意味のあることとして肥料や衛生を理解していたのだ。

決して呪いなどではなく相応の理由を理解していたのだ。


モモサルが言った。

その首の青銅器はどういう事だ、

間違いなく魏の下賜品であろう。

そのような逸品は倭国では見たこともない。

クマ国が独自に魏と通じている証拠ではないか。


ヤスタカが言った。

それは私が献上した物です。私は魏から来た者ではありません。

遠い倭国から来ました。その国ではさほど価値のある物ではありません。


ヤマト国の使節が口を挟んできた、

そのような国があるとは信じられないが何と言う国ですか?


ヤスタカは答えた

ニホン国です。とても遠いので言葉も通じません。

でも同じ倭国なのです。


モモサルが部下に命じて鼎を運ばせた。そして火を焚いた。

激しく燃える炎にてらされて、

勾玉や装飾品を纏ったモモサルは閻魔のような威厳を放った。


ヤスタカは恐怖した、また盟神探湯だ。


モモサルが威圧的で低く唸るようにピミコに言った。

ヤスタカの話は本当か否か?

『イナヤーカ!』

石を煮えたぎる鼎に投入した。


ピミコを盟神探湯にかけるつもりなのだ。まだ15歳ぐらいの少女にだ。


ピミコはスクっと立ち上がり鼎に近づいた。そして手を入れようとした。

高く透き通った声がその場を切り裂いた。

『アイケヤ!』


ヤスタカはは咄嗟に彼女を抱き抱え、鼎から引き離した。


そして大声で叫んだ。

もうやめてください。

この裁判は意味がありません。

元々が言いがかり、隣の国と戦うための口実なのです。


モモサル王も諸国の使節の方々も

よく考えてください!


隣国同士が戦争をして片方が片方を飲み込み、

また別の国と戦い、いつまで経っても、戦は終わりません。

強国は弱国を攻め、そして国力を失い、また他から攻められの繰り返しです。

こんなことを繰り返していたらどうなりますか?

戦争の後の悲惨な国を見た事はありますか?

農地は荒れ果て、盗賊や野盗が蔓延り、誰もが苦しみます。

こんなことを続けたらこの倭国は

嘘や暴力の蔓延る地獄になるのです。

あなたたちの子や孫がその地で生まれると思ったらどうですか?


ヤスタカは泣き叫ぶように

あ゛ーと絶叫して

鼎に手を突っ込み石を取ろうとした。


、、、、、


。。。。。



石を拾えたかどうかはわからない。

気がついたらクマ国のいつもの床に寝ていた。

右手には激痛が走り、全く動かない。

酷い火傷を負った様だ。

そして高熱で意識は朦朧としていた。

ピミコ達が懸命に看護してくれたのだろう。

とにかくクマ国へ帰れたのはわかった。

そしてピミコは無事であることも。

そしてどれくらい時間が過ぎただろうか、

ついに気を失った。


ヤスタカは死んだのだ。




3’章『イザヤカーナ』


ピミコは気を失っているヤスタカを鼎から引き離した。

そして毅然とモモサルに視線をむけ鋭く放った

『アイケヤ!』


ヤスタカの盟神探湯を見て

諸国の使節たちはモモサルを睨みつけた。


『イザヤカーナ』

モモサルはピミコとヤスタカの潔白を宣告した。


劉はその場で泣き崩れてしまった。


何の躊躇もなく手を入れようとしたピミコと

実際に実行したヤスタカは

諸国の使節の承認のもと潔白を勝ち取ったのだ。



ヤスタカはクマ国で墳墓が作られ、そこに埋葬された。

そしてピミコは首にかけた5円玉を副葬したのだ。


ピミコは15歳の若さで女でありながら盟神探湯の勇者となった。

実際には手を入れる直前にヤスタカが止めたのだが、

その振る舞いは手を入れたに等しいと見なされたのだ。

そして諸国から連合王として共立され、

弟クニヒコを従えてその都へ移住した。




劉は帯方郡と倭国の間で商人を続けた。

のちに邪馬台国の魏への朝貢を手引きをした。




4章【名もなき古墳で】


8月25日

救急車とパトカーのサイレンが鳴り響く、

メディアの取材や野次馬で警察は規制線を張った。

レポーターは繰り返しカメラに向かって言った。

『身元不明の男性が救急搬送されています、

警察によりますと身元特定につながるものは所持していないとのことです。

先月の行方不明事件との関連があるものとみて現場を捜査しています。』



先月末の安高の行方不明事件から、公開捜索されたが彼の行方は分からなかった。

不思議なことに一番最初に捜索されたはずの古墳の石棺の中で安高は発見されたのだ。

右手は酷い火傷を負い、奇妙な服装をしていた、

靴は履いておらず、

貫頭衣のような布を纏っていた。

髪も髭もかなり伸びており仙人のような風貌であった。

救急搬送され何とか一命は取り留めた。

4週間も行方不明で、最後の消息の場所で、しかも瀕死の状態で発見されたのだ。

カルト宗教の誘拐だとか、宇宙人の実験だとか噂され、

とても奇妙な事件として世間をざわつかせた。


容体が安定しても安高は何も語らなかった。




10月1日

私は職場復帰した。

右手には包帯で痛々しいが生徒の前に戻れて嬉しかった。

生徒に『右手どうしたの?』と聞かれると、

『熱いお湯に入れてしまって』と答えた。

生徒は『盟神探湯じゃん』と笑った。

私も笑った。


放課後教頭に呼び出された。

そして言われた。

『古墳の調査の件だけど、初日で打ち切られて石棺周辺しか調査出来てないので続きをやらない?』


私は教頭に、

『初日の報告書を見せてください』と言った。


教頭は言った。

『どうぞ、これだけだけどね』


石棺とやーいお茶が写っている写真。

副葬品なしと書かれたメモ。

これだけだった。


安高は首にかけた5円玉を握りしめた。


小さく呟いた


『副葬品なし』



fin

執筆後記『パラレル倭人伝(セトウチ編)』


元々は自分が弥生時代にタイムスリップしたらどうなるか?

現代の知識で王になれるだろうか?

という空想の遊びで始まりました。

流れはいつも現代の知識で無双する話になってしまい

面白みに欠けるのです。


唯一ハラハラするところはファーストコンタクト。

そこで殺される可能性が高く、

言葉の通じない過去では無力なのではという想像が着想の出発点でした。


話の大筋は最初にできていました。


その1つは古墳の調査に行ってタイムスリップして

自分用の古墳に葬られて現代に帰還すること。

そのことをに気が付く場面をラストシーンとすること。


もう一つは

盟神探湯くがたちを正直さを示す儀式と再定義すること。



ファーストコンタクトを生き延びれるとしたら子供との遭遇しかないと思いました。

当初は少年の設定でした。

少年との絆、また過去と現在のリンクの証明として10円玉を副葬品として考えたのです。

途中で5円玉が都合がよくなり改変しました。


弥生時代の時代感覚を想像して、

当時の世界観を考えて

色々な生活の考察、価値観の考察をして

前半は書いてみました。


クヌゴリとのクマヒコの対比は、

王道ですが、

冷酷な支配者対人道的な王ということにしました。

実際の古代の支配者はクヌゴリのような人が多かったのではないでしょうか。


この辺りから少年を少女に変更して、ピミコという名で書き進めました。

魏志倭人伝に伝わる卑弥呼のバックストーリーを想像してみたのです。


魏志倭人伝によると

倭人は盗みをしないとか、一夫多妻ではあるが夫人は嫉妬しないとか紹介されています。

盗みをしない→正直さへの誇りが強い価値観

夫人は嫉妬しない→奴隷妻だったのでは

とこの物語に盛り込めたのではと思います。


劉孔孟の詐欺を思いついたときは自分でも笑ってしまいました。

彼がヤスタカとピミコの誇り高い行為に心を折られて泣き崩れるシーンはお気に入りです。


倭国大乱で大国が小国を飲み込みのちの大和王権へ続く歴史を想像すると、

戦乱の世を一旦女王共立という解決策を見出し、

のちに大和王権は連合、政略結婚を通じて日本を統一していくわけですが、

そこに日本人気質の原点があるのではと考えたました。


聖徳太子の『和をもって尊しとなす』につながる日本人気質です。


このミニ小説を執筆しながら歴史ロマンに浸ることが出来ました。

自分自身がタイムスリップしたような気持ちになれました。


是非皆さんも古代へタイムスリップ体験しましょう!


続編もアイデアができました。次はコメディーです。





















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