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8.試練の時は近い


 戦闘が終わったあとの静けさは、いつも少しだけ現実味が薄い。

 ついさっきまで命のやり取りをしていたはずなのに、今はただ、荒い呼吸と残った疲労だけがそこにある。

「……はぁ」

 自然と息が漏れる。

 体は重いが、意識は妙に冴えていた。

 それだけ集中していた、ということだろう。

 ダンジョンの壁にもたれかかりながら、ゆっくりと視線を巡らせる。

 仲間たちもそれぞれ、その場に座り込んだり、壁に寄りかかったりしていた。

 大きな怪我はない。

 それだけで十分だ。

「はー、つっかれたぁ」

ヒカルがその場に大の字になる。

いつも通りの軽い調子。

だが、その声には確かな疲労が混じっていた。

「やっぱ仁、すぐバテるよな」

「うるせえ……」

短く返す。否定はしない。というか、できない。

「その分、強いスキル多いじゃないですか」

正利が静かに言う。

落ち着いた声色。

戦闘中と変わらない安定感だ。

「私たちの中では、レベルも一番高いですし」

「まあ、称号は伊達じゃないってことね」

恵が軽く笑う。

どこか余裕のある表情。

戦闘直後とは思えない落ち着きだ。

「……かもな」

小さく呟く。

自覚はある。

強いのは間違いない。

でも――

(……一人だったら、無理だったな)

それもまた、はっきり分かっていた。

ここにいる全員が揃って、ようやく勝てた。

そういう戦いだった。

少しの沈黙。疲労を抜く時間。呼吸が整い、思考が戻ってくる。

すると自然と――次のことが頭に浮かんだ。

「で、次どうする?」

ヒカルが体を起こしながら言う。

軽い一言。

だが、その意味は重い。

「……」

少しだけ考える。

いや、正確には――もう答えは出ていた。

「次は、他のメンバーも呼ぶべきだな」

俺は言う。

その言葉に、空気がわずかに引き締まった。

「第二の試練が来る前に――」

一度、区切る。

頭の中で、状況を整理する。

時間は多くない。

そして、状況は確実に悪化していく。

「4級ダンジョンを攻略できるくらいにはなりたい」

静かに言い切る。

今のままじゃ足りない。

はっきりと、そう思った。

「……ちなみにここ?」

ヒカルが周囲を見ながら言う。

「10級」

「……無理じゃね?」

即答だった。

「やらないと死ぬだけだろ」

間を置かずに返す。

現実はシンプルだ。

強くならなければ、終わる。

それだけの話。

「それもそうか……」

ヒカルが苦笑する。

軽く言っているようで、その実ちゃんと理解している。

だからこそ、この場にいる。

「とりあえず」

詩乃が口を開いた。

静かな声。

だが、不思議と全員の意識がそちらに向く。

「ここからは各自でレベル50目指しましょうか」

淡々とした提案。

だが、その中身は重い。

「ギルドの運営もあるし」

続けてそう言う。

戦うだけじゃない。

もう、そういう段階に来ている。

「QUEENは上げないのか?」

ヒカルが軽く聞く。

「私は生産職だから」

詩乃はあっさり答えた。

迷いはない。

「物を作った方が経験値が溜まるのよ」

「それに、前線向きのスキルもないしね」

その言葉に、誰も否定しない。

むしろ――納得するしかない。

「……なるほどな」

役割。

自然と、それが形になっていく。

前に出る者。支える者。補助する者。

それぞれが、それぞれのやり方で強くなる。

(……悪くないな)

バラバラじゃない。

ちゃんと、まとまっている。

「はー……忙しくなるな」

俺は天井を見上げる。

ダンジョンの無機質な天井。

だが、そこに浮かぶのは別の景色だった。

「ギルドも整えないといけないし」

戦うだけじゃ終わらない。

人が増えれば、管理が必要になる。

ルールも、仕組みも。

全部だ。

「第二の試練が来る頃には、企業登録も必要ですね」

正利が淡々と言う。

まるで当たり前のことのように。

「今はまだ、ダンジョンドロップを富裕層が買い漁ってくれてるので資金はありますが」

「いずれ、管理が必要になるでしょう」

現実的な話。

金の流れ。組織の形。全部が絡んでくる。

「給料とかもあるしな」

ぽつりと呟く。

「ええ」

正利は頷く。

「ドロップは自動回収で、分配もシステム管理ですから」

「当面は問題ありません」

「問題はその先だよね」

恵が言う。

その声は、少しだけ低かった。

「世界中にダンジョンがバレた後」

その一言で、空気が変わる。

誰もすぐには答えない。

想像はできる。

でも――

(考えたくはないな)

「まあ」

そんな空気を壊すように、ヒカルが言う。

いつもの軽い調子で。

「その時は――武力で解決でしょ」

「……シンプルだな」

思わず返す。

だが。あまり使いたくは無い。でも間違ってはいない。最終的には、そうなる可能性が高い。

だからこそ――

(今、強くなる必要がある)

「じゃあ、決まりだな」

俺は立ち上がる。

体の重さはまだ残っている。

だが、それ以上に――意識ははっきりしていた。

「まずはレベル50」

その言葉に、全員が小さく頷く。

具体的な目標。

それだけで、進む方向は定まる。

「そこから先は――」

少しだけ、笑う。

まだ見えない未来。

だけど、止まる理由にはならない。

「その時考える」

それでいい。

今は、前に進むだけだ。

こうして。

俺たちは次の段階へ進む。

準備でもなく、様子見でもない。

明確な“前進”。

レベル50。

それが、今の俺たちの指標。

そして――

その先にあるものに、身近な人を守るために、人類を守るために、辿り着くための通過点。

試練は、まだ始まったばかりだ。



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