24.七夕
久しぶりに、パーティー全員が揃った。
(……全員揃うの、いつぶりだ?)
思い返してみるが、すぐには出てこない。
ダンジョンブレイク、新ダンジョン、研究所、大学――
ここ最近は、ずっとバラバラに動いていた。
だからこそ。
「……なんか久しぶりだな」
自然とそんな言葉が出た。
「ですね~」
ヒカルがだらっとソファに寝転がりながら返す。
「全員集合とか、いつ以来っすかね」
「この前の総力戦ぶりじゃないか?」
正利さんがコーヒーを片手に答える。
「いや、あれは集合っていうか“強制召集”っすよ」
「それな」
黒瀬が即座に乗る。
……確かに。
あれは集まったというより、集められた、だ。
場所はギルドの一室。
特に何かあるわけじゃない。
ただ、なんとなく集まった。
それだけだ。
(こういうのも、悪くないな)
戦いの合間の、ほんの少しの休息。
それがどれだけ貴重か、最近よく分かる。
「そういえば」
詩乃さんがふと思い出したように言う。
「今日って七夕ですよね」
「……ああ」
言われて気づく。
7月7日。
七夕。
「短冊とか書きます?」
「いや、急にどうした」
「なんとなくです」
にこっと笑う。
……まあ、たまにはいいか。
「願い事かぁ」
ヒカルが天井を見上げる。
「レベル100になりたい、とかっすかね」
「現実的だな」
「いや現実的じゃないでしょ」
黒瀬がツッコむ。
「俺は……そうですね」
少し考える仕草。
「もっと効率よく稼げる方法が欲しいっす」
「お前はブレないな」
思わず苦笑する。
こいつは本当に一貫している。
「透は?」
振ると、少し驚いた顔をする。
「え、俺っすか」
「他にいないだろ」
「うーん……」
少し考えてから。
「普通に、強くなりたいっす」
短い言葉。
だが、芯がある。
(……いいな)
前よりも、迷いが少ない。
確実に前に進んでいる。
「仁さんは?」
逆に振られる。
「俺か?」
少し考える。
願い事。
そう言われると――
(……なんだろうな)
色々ある。
だが。
「平和に過ごせるなら、それでいい」
口に出たのは、それだった。
一瞬、沈黙。
そして――
「いや無理でしょ」
「無理っすね」
「無理だな」
「無理ですね」
全員一致。
「お前らな……」
さすがに苦笑する。
だが、否定できない自分もいる。
(……まあ、無理か)
現状を考えれば、どう考えても。
「じゃあ、短冊っぽいの書きますか」
詩乃さんが紙とペンを配る。
「本当にやるんですか」
「やりましょうよ」
楽しそうだ。
こういうの、好きなんだろうな。
仕方なく、受け取る。
ペンを持つ。
(……何書くかな)
少しだけ考えて。
さっき言った通りのことを書く。
“平穏”
それだけ。
(シンプルでいいだろ)
「見せ合います?」
「いやいいだろ別に」
「いいじゃないですか~」
ヒカルが勝手に覗こうとしてくる。
「やめろ」
「うわ、平和とか書いてる」
「お前見たな?」
「見ました」
こいつ。
「理想高すぎません?」
「現実見ろ」
黒瀬まで乗っかってくる。
「お前らな……」
ため息。
だが、どこか笑える。
その後も、どうでもいい話が続く。
最近のダンジョンの傾向。
装備の話。
食べ物の話。
本当に、くだらないことばかり。
(……いいな)
こういう時間。
守りたいと思う。
自然と、そう思った。
ふと、窓の外を見る。
夕方。
空は少しずつ暗くなり始めている。
七夕。
本来なら、もっと穏やかな日常の中にある行事だ。
だが今は――
(そんな余裕、ないよな)
世界は変わっている。
確実に。
「最近さ」
黒瀬がぽつりと言う。
「ダンジョン、多くないですか?」
「……ああ」
誰もが感じていること。
「前より明らかに増えてる」
「だな」
正利さんも頷く。
「しかも質も上がってる気がする」
「それな」
ヒカルが珍しく真面目な顔をする。
「普通にキツいっす」
軽く言っているが、本音だろう。
「ニュースでもやってましたよ」
詩乃さんが言う。
「覚醒者の数、増えてるって」
「……だろうな」
体感でも分かる。
街でも、ちらほら見かけるようになった。
“それっぽい人間”。
(第4波、か)
研究所で聞いた話が頭をよぎる。
これは――
始まりに過ぎない。
窓の外。
夜空に、小さな光が見える。
星だ。
本来なら、願いを託す日。
だが。
(願ってどうにかなる状況じゃない)
現実は、もっとシビアだ。
それでも。
こうして笑っていられる時間があるなら。
まだ、大丈夫だと思いたい。
静かに、息を吐く。
そして、もう一度空を見る。
遠く、淡く光る星。
その下で――
世界は、確実に変わり続けている。
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