21.祝杯をあげる
「――レベル100、達成おめでと~!」
ぱん、と軽い拍手が響く。
気づけば、ビルの会議室はちょっとした宴会場みたいになっていた。
テーブルの上には酒、つまみ、適当に並べられた料理。
(……いや、なんでこうなる)
昨日、ただ「レベル100になった」と報告しただけだ。
それが――この有様。
「俺、まだ82なんですけど……」
ヒカルがグラスを持ちながら、露骨に不満そうな顔をする。
「いや、それでも十分速いだろ」
「いやいやいや、速くないっすよ!おかしいっすって!」
何がおかしいのかは分かる。
俺も分かってる。
(……完全にバグってるよな、これ)
普通にやって到達する領域じゃない。
「え~?俺、もう90ですよ~?」
横から黒瀬がニヤニヤしながら口を挟む。
「は?」
「え?」
ヒカルと黒瀬、無言で睨み合う。
「お前それズルだろ」
「ズルじゃないですよ~、戦略です」
黒瀬の能力は特殊だ。
分身、あるいは使い魔。
それを“別枠の戦力”として扱える。
つまり――
(同時攻略が可能)
複数のダンジョンを並行して回せる。
経験値効率で言えば、他の追随を許さない。
「使い魔パーティーに入れて同時攻略とか、普通やらねぇだろ……」
「やれるならやりますよ~?」
ケロッとした顔。
……まあ、それはそうだ。
やれる奴がやればいい。
だが――
「それでも100には届いてないんだよな」
「そうなんですよねぇ」
黒瀬が肩をすくめる。
「あと10、遠いっす」
(……やっぱ異常だな)
改めて実感する。
この“差”。
「称号、か」
ぽつりと呟く。
俺の持っているそれ。
明らかに“普通じゃない補正”。
(チートってやつだな、完全に)
苦笑が漏れる。
ふと周りを見る。
……酷い。
「うぇ~い!」「だから俺がさぁ!」「いやそれ違うだろ!」
完全に出来上がっている。
(飲みすぎだろ……)
ダンジョン関連法の改正。
覚醒者は15歳から飲酒可能。
理由は単純――
耐性があるから。
毒にも強いし、アルコールにも強い。
だが。
(酔わないとは言ってない)
現にこの通りだ。
ふらふらしているやつ。
妙にテンションが高いやつ。
自慢話を延々と続けるやつ。
カオス。
「……これどうすんだよ」
思わず呟く。
横を見ると――
「……」
ヒカルだけが、なぜか無事だった。
「お前、飲んでないのか?」
「いや、飲んでますよ?」
「……は?」
普通に飲んでる。
だが、全く酔っていない。
「体質っすね」
「便利だな……」
こういう時に限って一番まともなのがこいつか。
(いや、助かるけど)
「こいつら運ぶのダルいな……」
「ですね……」
ため息が重なる。
その時だった。
――コンコン。
ドアをノックする音。
「ん?」
ヒカルと顔を見合わせる。
「どうぞ~」
とりあえず返事をする。
ガチャ、とドアが開く。
入ってきたのは――事務員の女性。
だが、その表情。
明らかに“普通じゃない”。
「失礼します」
一歩、部屋に入る。
周囲の騒がしさに一瞬だけ視線を向けて――
すぐに俺たちを見る。
「緊急です」
空気が変わった。
酔っている連中すら、わずかに反応する。
「新たなダンジョンが発生しました」
「――は?」
思考が止まる。
今、何て言った?
「……もう一回言ってください」
「新たなダンジョンが発生しました」
同じ言葉。
聞き間違いじゃない。
(……あり得ない)
これまでの常識。
ダンジョンは“増えない”。
存在しているものを攻略するだけ。
それが前提だった。
「なぜ……」
自然と声が漏れる。
事務員はすぐに答えた。
「研究員の報告によると――」
一度、言葉を区切る。
「空気中の魔力濃度の上昇により、人が覚醒」
「……」
「さらに、覚醒者が放出する魔力の影響で、新たなダンジョンが形成されたと考えられています」
理解が、追いつかない。
(つまり……)
人が増えるほど。
覚醒者が増えるほど。
ダンジョンも増える?
「政府も同様の見解です」
淡々と続ける。
「現在、記者会見が行われています」
最悪だ。
頭の中で、嫌な予感が形になる。
「……それだけじゃないですよね」
自然と口が動く。
事務員は、一瞬だけ目を伏せて。
「はい」
小さく頷いた。
「覚醒者の第4波が確認されました」
「――は?」
また、同じ反応。
だが今回は、さっきよりも重い。
(第4波……?)
ついこの間。
ダンジョンブレイクの時。
第3波が来たばかりだ。
それなのに――
「各県の支部から、応援要請が来ています」
つまり。
全国規模。
もう、一部の問題じゃない。
気づけば。
さっきまで騒いでいた連中が、静かになっていた。
完全に酔いが覚めているわけじゃない。
だが、それでも分かる。
“ただ事じゃない”と。
「……マジかよ」
誰かが呟く。
笑いは、もうない。
「休み……終わりっすね」
ヒカルが苦笑する。
その顔も、さっきまでの軽さはない。
黒瀬も、無言でスマホを見ている。
ニュース。
すでに情報は拡散している。
(……早いな)
世界が動くのは、一瞬だ。
ゆっくりと立ち上がる。
さっきまでの空気は、もうどこにもない。
(レベル100)
確かに、一つの区切りだ。
だが――
(だから何だ)
状況は変わらない。
むしろ、悪化している。
ダンジョンは増える。
覚醒者も増える。
制御しきれなくなれば――
(また、ああなる)
ダンジョンブレイク。
あの光景が、頭をよぎる。
「準備しろ」
短く言う。
誰も反論しない。
できるわけがない。
「……はい」
ヒカルが頷く。
黒瀬も、静かに立ち上がる。
他のメンバーも、次々と動き出す。
さっきまでの酔いが嘘みたいに、空気が引き締まる。
(試練、か)
心の中で呟く。
まるで――
休ませる気がないみたいだ。
いや、違うな。
(最初から、そんなつもりはないんだろう)
ダンジョンも。
この世界も。
俺たちに、止まることを許していない。
だから――
(やるしかない)
静かに、息を吐く。
次の戦いに向けて。
思考を切り替える。
レベル100だろうが、関係ない。
必要なのは――
生き残ること。
そして。
終わらせることだ。
試練は。
まだ、終わらない。
小説家になろうの読者ほど信頼できる評価は無いと思っています!評価とコメント、お願いします!
m(__)m




