15.増えたり減ったり
熱い。もう夏だ。
ギルドの会議室。
モニターに映し出された情報の羅列を、俺はそう思いながらも無言で眺めていた。
数が、合わない。
(……増えすぎだ)
「これ、全部今日の報告?」
俺が聞くと、ヒカルが頷いた。
「今日だけじゃない。ここ数ヶ月で一気に増えた分もまとめてる」
画面には、各地からの報告。
襲撃、変異、行方不明。 そして——
“異常覚醒者”。
その文字が、やけに目についた。
「……原因はわかりました?」
正利さんが腕を組みながら呟く。
誰もが同じ疑問を抱いていた。
だが、それに答えたのはヒカルだった。
「覚醒者が増えてる」
短い一言。
だが、それだけで十分だった。
(……第2期か)
それに、覚醒者であっても探索者になっていなかった者が一気に探索者になった。
頭の中で、繋がる。
最初に覚醒した俺たち——第1覚醒者。
そして、今。
その後に続く者たちが現れ始めている。
「確認できてるだけでも、かなりの数だ」
ヒカルが画面を切り替える。
新規登録者のリスト。
見慣れない名前が並ぶ。
「……一気に来たな」
「タイミング的には自然よ」
詩乃が口を挟む。
「情報が出回った。ダンジョン、覚醒、力に宝——」
「それを見て、“なりたい”と思う人間が出てくるのは当然」
淡々とした言い方。
だが、否定できない。力は魅力だ。
そして、この世界はそれを許している。
(……いや、違うな)
許しているんじゃない。
“選んでいる”。 そんな感覚があった。
「で、その結果がこれか」
ヒカルが指で画面を叩く。
異常覚醒者の報告数。 増加率が、明らかにおかしい。
「母数が増えれば、当然こうなる」
俺は静かに言う。
「覚醒者が増える。なら、汚染される奴も増える」
「……そして」
「異常覚醒者も増える」
言葉にすると、シンプルだった。 だが、現実は重い。
恵が不安そうに口を開く。
「でも……それだけで、ここまで増えるかな?」
いいところに気づく。
俺も同じ違和感を持っていた。
「……もう一つある」
そう言うと、全員の視線が集まる。
「ダンジョンが増えていない。」
一瞬、空気が止まった。
ヒカルが小さく息を吐く。
「……やっぱりそこか」
「ああ」
近場のダンジョンはほぼ枯渇。
春に新潟に入ったのでわかる通りダンジョンがどんどん減っている。
「異常覚醒者は魔力を求める」
整理するように言葉を並べる。
「本来なら、ダンジョンに入る」
「だが——」
「そのダンジョンが無い」
なら、どうするか。答えは簡単だ。
「……人を狙うか」
正利さんが低く呟いた。
「覚醒者をな」
頷く。
一般人は対象にならない。
理由は単純。
「異常覚醒者は、魔力しか見てない」
詩乃が言う。
「だから、一般人は“見えない”」
「認識できない、と言った方が正確かもね」
つまり。
この問題は——
(覚醒者だけの問題)
閉じた世界の中で、増殖している。
外からは見えない。
だが、確実に広がっている。
「最悪だな」
ヒカルが顔をしかめた。
「一般人には被害が見えない。だから騒ぎにならない」
「でも中では崩壊してる」
「気づいた時には手遅れ、ってやつか」
その通りだ。 静かに、だが確実に。
侵食している。
「……もう一つある」
俺は続ける。
「異常覚醒者は、増やしてる」
恵が息を呑んだ。
「……仲間を?」
「たぶんな」
断定はしない。だが、状況証拠は揃っている。
「魔力を奪うだけじゃない」
「流し込んでる可能性もある」
「汚染を、拡げてる」
それが事実なら。
これはもう——
(止まらない)
放置すれば、雪だるま式に増える。
時間が経つほど、手に負えなくなる。
「……どうする?」
正利さんの問い。答えは決まっている。
「止める」
短く言う。
「そのために動く」
ヒカルがニヤッと笑った。
「ようやくか」
「元からそのつもりだろ」
「まあな」
軽口。
だが、空気は軽くならない。
「まずは情報だ」
俺は整理する。
「発生条件、汚染の進行、変異までの時間」
「正利さんやプーの例もある。もしかしたらがあるからな。」
一瞬、言葉を止める。
だが、迷わない。
「対処法」
救えるのか。戻せるのか。
それとも——
(切るしかないのか)
その答えも、いずれ出る。
だが今は。
「拡散を止めるのが先だ」
全員が頷いた。
覚悟は、できている。 ここから先は。
もう、引き返せない。
ふと、モニターの端に視線をやる。
新規覚醒者のリスト。
そこに並ぶ名前の一つが、わずかに目に引っかかった。
(……増えてるな)
まだ顔も知らない。
どんな人間かも知らない。
だが——
(巻き込まれる)
確実に。この流れの中に。その中に付いてこれる者は幾ら入るのか...
「……やるしかないだろ」
小さく呟く。誰に聞かせるでもなく。
ただ、自分に言い聞かせるように。
世界は、もう次の段階に進んでいる。
なら——
こっちも、止まってはいられない。
世界は、もう次の段階に進んでいる。
誰かが望んだわけでもなく。
止めることもできず。
ただ、一方的に、理不尽に。
押し付けられるように。
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第2世代
・ダンジョンが攻略されるごとに空気中の魔力濃度が上がり、少しずつ覚醒が促されたことにより。この度、覚醒した者達。
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