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13.初めて腹の探り合いをする


食事を終えた後、俺は会議室でヒカルと向かい合っていた。

 テーブルの上には、スマホが二つ。

 画面にはリズムゲームの譜面が流れ、軽快な音が室内に響いている。

「そこ、ズレてるぞ」

「うるせぇ、今いいとこなんだよ!」

 言いながらも、ヒカルの指は迷いなく画面を叩いている。流石に慣れているだけあって上手い。

 ……まあ、俺も負けてはいないが。

(こういう時間が、いつまで続くんだろうな)

 ふと、そんな考えが頭をよぎる。

 ダンジョン、試練、そして挑戦者。

 知ってしまった以上、俺たちはもう“普通”の側には戻れない。

 それでも——

(……戻れる可能性があるなら)

 捨てるつもりはなかった。

 その時だった。

 廊下から、複数の足音が近づいてくる。

 軽いものではない。一定のリズムを刻む、目的を持った足音だ。

「……来たな」

「みたいだな」

 ヒカルも気付いたらしく、スマホから視線を外した。

 次の瞬間。

 ガチャリ、とドアが開いた。

 入ってきたのは三人。

 先頭の男が一歩前に出る。

 落ち着いた雰囲気。無駄のない立ち姿。年齢は三十代後半といったところか。

「ダンジョン対策室の室長を務めております、佐伯雅人です。本日はよろしくお願いします」

 丁寧な所作で、深く頭を下げる。

 後ろの二人も一応は頭を下げたが、どこか不満げな気配があった。

 ……まあ、無理もないか。

 俺たちは“学生上がりのギルド”だ。

 しかも、そのトップが俺みたいな年齢となれば、納得できない奴もいるだろう。

「どうぞ、こちらへ」

 正利さんが穏やかに促し、三人を席へ案内する。

 全員が座ったのを確認してから、正利さんが口を開いた。

「では、紹介させていただきます。ご存知の通り、継承機関の副ギルドマスターを務めています、正利です」

 軽く頭を下げる。

「隣にいるのがギルドマスターの仁さん。そしてその隣が……仁さんの付き人みたいなものですかね、ヒカルです」

「“みたいな”は余計だろ」

「事実だろ?」

 小声で返すと、ヒカルは不満そうに顔を歪めた。

 そのやり取りを見て、佐伯はわずかに口元を緩める。

 緊張を解くための観察か、それとも単なる人柄か。

 どちらにせよ——

(ただの官僚、って感じじゃないな)

 そう判断した。

「紹介も済みましたので、本題に入らせていただきます」

 正利さんが場を締める。

「今回は、どのようなご用件でしょうか?」

「はい。大事ではありません。ただ、先んじてお伝えしていた通り——」

 佐伯は一度言葉を区切り、視線をこちらへ向けた。

「ダンジョンの異常について。そして、一般へのダンジョンおよび“試練”の公開について、助言をいただければと考えております」

 静かな口調だった。

 だが、その奥には明確な焦りがある。

(……そりゃそうか)

 世界中でダンジョンが発生している。

 それなのに、体系だった情報はほとんどない。

 そして——試練。

 あれを知らないまま人が踏み込めば、どうなるか。

 考えるまでもない。

「ご存知の通り、この分野は世界的に見ても情報が少なく、我々も手探りの状況です」

 佐伯は続ける。

「その中で、継承機関はすでに大きな実績を持っている。特に源藤さんは、この分野における第一人者と言っても過言ではありません」

 真正面から、俺を見る。

「お話を伺えればと思い、本日お時間をいただきました」

 ……持ち上げすぎだな。

(まあ、間違ってもいないが)

 実際、俺は“知りすぎている”。

 普通の覚醒者とは比べ物にならないほどに。

 それがどれだけ危険なことかも、理解している。

「ふむ」

 一拍置いてから、口を開く。

「ダンジョンの異常については、まだ調査中です。断定できることはありません」

 事実だけを並べる。

「ただ、一般への情報公開については——早めにやるべきだと思っています」

 空気が僅かに張り詰めた。

「無駄な混乱を避けたいなら、なおさらですね。知らないことが一番危険ですから」

 視線を外さずに続ける。

「とはいえ、どこまで知りたいか次第です。俺も全てを知っているわけではないので」

 言葉を終えると、佐伯はすぐに頷いた。

「ありがとうございます。我々が知りたいのは主に二点です」

 指を立てる。

「ダンジョンの管理方法。そして、攻略の目安です」

 来たか。

「源藤さんは先日、ソロで四級ダンジョンを攻略されたと聞いております」

 後ろの二人がわずかに動揺した気配を見せた。

「また、このギルドは世界中の探索者が認め、利用している組織です」

 淡々と事実を並べる。

「犠牲者を減らすためにも、基準の整備にご協力いただければと」

 その時、正利さんがわずかに視線を送ってきた。

 ——任せる、という合図。

(……まあ、そうなるよな)

 軽く息を吐く。

「じゃあ、まず管理方法から」

 背もたれに軽く体を預けながら話し始めた。

「結論から言えば、ダンジョンそのものを管理するのは無理です」

 即答。

 後ろの二人が露骨に眉をひそめた。

 だが、気にしない。

「ただし、人の出入りなら管理できる」

 視線を佐伯に向ける。

「法律を整備してください。許可のない立ち入りを制限する形で」

「……続けてください」

「素材の売買は、現状ほぼうちに集中してますよね」

「ええ」

「なら、名簿と申請。それにダンジョンシステムを紐付ける」

 淡々と続ける。

「それだけで、誰がどこに入ったかは把握できます」

 佐伯のペンが止まらない。

「二つ目。攻略の目安」

 一呼吸置く。

「これは簡単です。今ギルドでやってるランク制度を正式に採用すればいい」

 ヒカルが横で軽く頷いた。

「ただし条件がある」

 そこで一度言葉を切る。

「ダンジョン関連の税制。それと無許可侵入への罰則」

 真っ直ぐに言い切る。

「それがないと機能しません」

 数秒の沈黙。

 そして——

「……なるほど」

 佐伯が静かに頷いた。

「理解しました。これらの内容は上層部に伝えます」

 メモを閉じる。

 その瞬間だった。

「いやぁ、すごいですね」

 空気が一気に変わった。

 後ろの一人が、思わずといった様子で口を開いたのだ。

「正利さんから聞いてはいましたけど……ここまで先を見ているとは思いませんでした」

 もう一人も小さく頷く。

 さっきまでの不満げな空気は消えていた。

(……分かりやすいな)

 悪い気はしないが。

 横で正利さんが少し嬉しそうに「ありがとうございます」と返している。

「では、本日はこの辺りで失礼します」

 佐伯が立ち上がる。

「お忙しい中、ありがとうございました」

 自然な動きで一礼。

 やっぱり、この人はちゃんとしている。

「いえ、こちらこそ」

 軽く会釈を返す。

 そのまま三人は退室し、正利さんが見送りに出ていった。

 ドアが閉まる。

 数秒の静寂。

 ——そして。

「ぷはっ!!」

 ヒカルが吹き出した。

「はははは! なんだよあれ! お前、急に“できる大人”みたいな顔してたぞ!」

「……うるさい」

「いやマジで! いつものお前と別人だったって!」

 机を叩きながら笑っている。

 ……イラッとした。

 とりあえず——

 ゴンッ。

「痛っ!?」

 拳骨を落とす。

「調子に乗るな」

「いてぇって! 何すんだよ!」

「うるさい」

 頭を押さえて悶えるヒカルを見下ろす。

 ……やれやれ。

(これでいいのかね、俺は)

 政府と話し、組織を動かし、ダンジョンの基準を作る。

 やっていることは、完全に“普通じゃない”。

 それでも——

(守るためには、必要なことか)

 家族も。仲間も。そして——

 この世界も。

 全部守ると決めた以上、立ち止まるわけにはいかない。

「……次の準備、しとくか」

 小さく呟く。

 その言葉に、ヒカルが顔を上げた。

「もう次かよ……」

「当たり前だろ」

 迷いは、まだある。

 だが、それでも進む。

 それが——俺の選んだやり方だ。




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【ダンジョン関連法…仮草案】


本草案は、世界各地に発生しているダンジョンに対する管理体制の確立、および探索者の安全確保、並びに社会秩序の維持を目的として策定されるものである。


第1条(目的)

本法は、ダンジョンへの立ち入り及び資源利用に関する基本的事項を定め、無秩序な探索による被害の抑制と、適切な管理体制の構築を目的とする。


第2条(ダンジョンの定義)

本法におけるダンジョンとは、突発的または恒常的に発生し、内部に未知の生物、資源、または特殊環境を有する空間を指す。


第3条(立ち入り許可制度)

1. ダンジョンへの立ち入りは、国または認可された機関の許可を必要とする。

2. 許可を得るには、探索者登録を行い、個人識別情報および能力情報を提出しなければならない。

3. 無許可での立ち入りは禁止とする。


第4条(探索者登録および管理)

1. 探索者は認可機関に登録され、識別番号を付与される。

2. ダンジョン内での行動履歴は、ダンジョンシステムと連動して記録される。

3. 登録情報は安全管理および緊急対応のために利用される。


第5条(ダンジョン資源の管理)

1. ダンジョン内で取得された素材および物品は、認可機関を通じてのみ売買可能とする。

2. 無許可での流通は違法とする。


第6条(ランク制度)

1. 探索者およびダンジョンには危険度に応じたランクを設定する。

2. 探索者は自身のランクを超えるダンジョンへの立ち入りを原則禁止とする。

3. ランクは認可機関(例:継承機関)により評価・更新される。


第7条(罰則)

1. 無許可でのダンジョン侵入には罰金、または一定期間の探索禁止措置を科す。

2. 悪質な違反行為については刑事責任を問う場合がある。


第8条(税制)

1. ダンジョン資源による収益には、一定の税を課す。

2. 税収はダンジョン対策、被害補償、および研究開発に充てる。


第9条(緊急時対応)

1. ダンジョン内での異常発生時、政府および認可機関は強制的に立ち入り制限を行うことができる。

2. 必要に応じて、登録探索者に対し出動要請を行う場合がある。


第10条(特記事項)

ダンジョンの性質上、未解明の要素が多く、本法は暫定的なものである。状況に応じて随時改訂を行う。


附則

本法は試験的に運用されるものであり、正式施行に向けた検証期間を設ける。




小説家になろうの読者ほど信頼できる評価は無いと思っています!評価とコメント、お願いします!

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