表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Children Of Sanuma  作者: momo
4/18

4

 朱里と大地は幼稚園で同級生として出会った。

 最初の印象は、当然女の子である。

 大地は昔から外で遊ぶことが大好きな、極めて活発な子供であったが、それをいつも教室の端から目で追い続けている女の子があることに、ある時気がついた。いつも髪の毛にリボンを付けて、ふわふわに巻いている朱里だった。


 土を掘ってブルドーザーごっことをやって遊んでいたものの、いよいよ雨が本ぶりとなり、仕方なしに教室に閉じ込められた大地が、教室の隅できちんと背を伸ばして座っている朱里に近づいて言った。

 「おめ(注:お前)、一緒に遊びてえのが?」大地が先ほど花壇で見つけたばかりのミミズ3本を片手に握りしめ、そう話しかけたが、何も返事はない。

 「おめ、なんだ? 人形様かなんがが?」リボンなんぞ付けてじっと座っている様は、ばあちゃんの部屋に置いてあるガラス張りのフランス人形のように思えた。

 女の子は少し首を傾げた。

 「わーがっだ。人形様なんだべ。そんなの付けてよぉ。」と言ってレースのリボンを触る。リボンに泥が付いた。

 「あれ!」大地は慌ててミミズを投げ捨てる。後方でミミズが頭上から降ってきた気の毒な女の子たちの悲鳴が上がった。

 「汚れぢまったわ! こっちゃ来!(注:こっちに来い)」

 大地は朱里の手をむんずと引いて、慌てて便所前の水場に連れ出し、頭を付けさせた。水でそっと流す。

 「こおいにしちまっちゃ(注:こんな風にしてしまったら)、おめ、おっ母に怒られっぺ。だいじ(注:大丈夫)だかんな。おれがちゃーんと、ごめんなさいしでやっがら(注:してやるから)。な。だから泣くでねど?(注:泣くんじゃないぞ) おれはな、結構ごめんなさい得意なんだっぺ。まいんぢな、おっ父おっ母に言ってんだ。朝も、大河んごどぶっくらしで(注:ぶっ飛ばして)泣かしてごめんなさいしちきたがんな。でもよお、大河、あいづおれのセミ逃がしちまったんだど? じいちゃんの梨畑で飛んでたでっけーかっけーやづだったのに! おればっかりが悪いんじゃねえんだよ。」

 女の子は相変わらず人形同然に水場に頭を下げて大地にリボンを濯がせていたが、なんだか喉の奥あたりから、楽し気な声が小さく、聞こえてきたような気がしたのである。

 「おめ、やっぱ人形様じゃねな?」再び、喉の奥からくつくつ、というような音が聞こえたような気がした。「じゃ、俺らと遊ぶが? ジャングルジムどこまで登れっけ?」

 朱里は顔を上げた。濡れたリボンが頬にほどけて張り付く。指を二本、見せた。

 「二段か。じゃあ、いまちっと頑張んだど。おれは五段だかんな!」

 そこから二人は友達になり、それを知った朱里の母は大層喜んだ。もともと近所で親同士はよく知った者同士である。ただし、やはり喋らないことで友達らしい友達はおらず、いつも幼稚園に迎えに行くたびに、朱里の母親はひとりぼっちでいる朱里を見て内心辛くて仕方がなかった。

 しかしその日、雨上がりに迎えに行くと、なんと朱里が大地と一緒にジャングルジムに登り、手まで引かれているではないか。すぐにいつでも遊びにおいで、ということになり、自宅にいた朱里の兄とも親しくなった。朱里の兄も朱里に同年の友達ができたことを感謝し、いつしか大地も弟大河を連れて田んぼ道を通って朱里の家に通うようになり、小学生になった時、そこにさらにルアンが加わった。

 ルアンがやってきたのは小学校一年の夏である。

 転校生、として初めて大地たちの教室に入ってきた時には驚いた。なにせ顔つきが違う。彫が深い。おまけに髪は秋に田をそよぐ稲のような金色である。背もすらりとして、高い。

 しかもルアンは日本語を話せなかった。しかし子供たちにとって言葉を話せないことはさほど問題にはならない。特に既に朱里と無二の親友となっている大地にとっては。

 「おめ、どっから来だが?」大地は早速話しかけてみたが、ルアンは不審げに見返すばかり。

 「わがんねが。……下妻さ、どっから来だ?」

 相変わらず返答がないので大地はしばし考え込む。あ、そうだ、とルアンの手を引いて図書室へと連れて行った。

 そこにはでかでかと日本地図に加え世界地図が貼ってある。

 「どっから来た? ほれ、ここが日本。でな、この辺が下妻だべ。」教えてやるとルアンは初めてなんだかわからない言葉を紡いだ。

 「おめんちはどこだったんで? ここが? それどもこっちが?」大地はアフリカの地を指し、そしてアメリカを指した。ルアンはしばし世界地図を凝視して考え込む。そして、地図の一点を指した。

 「こごが! ……ええっと、ベ・ト・マ・ムって書いてあんな。おめ、べ・ト・マ・ムっつうどごから来たんか! 先生そういや言ってたな。」大地は喜びのあまりパチンと手をたたく。そこに朱里もやってきた。

 「ルアン、これはな、朱里だ。俺は大地。言えっげ?(注:言えるか?) だーいーち。言ってみろ。」

 ルアンは真剣なまなざしで大地を見返し、同じように繰り返した。「ダーイチ」

 「ほだ!(注:そうだ)」

 「こっちがシュリ。シューリー。」

 「シューリー」それはとてもオシャレな発音だった。朱里の母親が言う「シェリー」に近いものでもあった。

 「おめ、うめえでねか!」そう言われ、ルアンは笑った。「そんでおめは、ルアンだったな。」

 にっこりと頷く。

 大地はにっと力いっぱい笑った。「んじゃよ、今から朱里んち行ってんべぇよ。朱里にはな、あんちゃんがいんだよ。あんちゃん、わがっげ?(注:わかるか?)今日は砂沼でバス釣りやるっつうからよ。ああ、釣り竿はあんちゃんいっぺえ持ってんだ。それ貸してもらってよお、一緒に行くべよ。な?」

 その時からみんな朱里の兄に種々の遊びを教えてもらいながら、砂沼を遊び場にして育った。筑波山を見上げて育った。春には砂沼の桜の下を競走し、地元のじいちゃんらに交じって釣りをした。小魚の餌場を作る小舟にも乗った(そして二、三度溺れた)。夏は花火大会に出かけ、千人踊りにも混じった。神輿も担いだ。秋には梨畑で蝉取りに全身全霊かけ、梨を腹壊すまで食べた。冬は筑波颪に頬を赤らめながら、雪だるま、雪合戦。

 そうして大地、朱里、ルアン、大河は朱里の兄に導かれながら育ったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ