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Children Of Sanuma  作者: momo
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2

 朱里の部屋は庭の離れにあって、そこに行けば大抵悪童どもが集まっている。今日も案の定離れの六畳二間の内、寝室をルアンが占拠し、一体いつからなのかタンクトップ一枚でぐうぐう昼寝としけこんでいて、もう一方の居間には大地の三つ下の弟大河が、清楚なブルーの花柄のワンピースを着た朱里と共に熱心にパソコンに見入っていた。

 「なんだ、おめ(注:お前)、来でだんか。」障子を開けるなり、大地は言った。

 大河は面倒くさそうに大地を見上げ、「おめごそ(注:お前こそ)、まだばあちゃんの原チャかっぱらってきで。」

 「今日はちげど(注:違うぞ)。ばあちゃんも気ぃつげで行ってこーよつっだかんな(注:と言ったからな)。」

 「チグ(注:嘘)だっぺ」

 「ほんとだ。ばあちゃん、この間の学校の中間テストで俺100点取っでから、畑行がね時は使っでいいっつでくれたんだ。」

 「テストっつっだっで全教科でだっぺ? 5教科で100点つっだらしとづ(注:一つ)20点だっぺよ!」

 「つっまんねえごど言うんでね。……ほっだごだ(注:そんなこと)ばあちゃんに言うんでねど。(注:言うのではないよ)」

 大河は口元を歪めて心底軽蔑したかのように大地を見上げた。 

「ほっだらごと(注:そんなこと)でなくで、何やってんだよおめら。」

 そう言って大地は、白眼視を避けるべく大河と朱里が見ている最新式のパソコンを覗き込む。長髪の男たちが四人も雄々し気に並んだ、ヘヴィメタルバンドのホームページである。

 「ああ、あんちゃんのバンドかあ。あんちゃん元気でやってべえか。」

 あんちゃん、こと朱里の兄は五年ほど前に大学進学と共に上京し、バンド活動を行っているのである。下妻に住んでいた頃は大地や大河も含め、毎日のように遊んでもらっていた。ほとんど朱里と一緒に兄弟として育ったといっても過言ではない。

 「ほれ、見でみろ。あんちゃん今度ツアーさやんだちけ(注:ツアーをやるんだって)。水戸にも来んだちけど(注:来るんだってよ)。今、朱里と行っでみでなあっつって言ってたんだ。ほれー、ずっと帰ってきてねし、会いでえなって。」

 「おいおい、朱里ほっだこが(注:そういうことは)早よ言えよ!」そう言って大地は朱里の背を思い切り叩いたが、朱里は答えることはない。

 朱里は一応見た目は少女のそれであるが、紛れもなく男児である。なぜ女の子の恰好をしているのかはわからないが、朱里はそういう存在なのだと大地も大河も解している。

 そしてその朱里は、学校でも、友達とも、親とも言葉を交わさない。なぜかわからないが、物心ついた頃からどんなことがあっても喋らない。

 人並みに幼稚園児の頃から字を覚え、一応書けるようになったので知能に問題があるわけではない。幼少時はいくつもの大きな病院やら由緒ある寺院を母親と一緒に回った。しかし、どんなに偉いお医者が診ても、どんなに偉いお坊さんが経文を上げても、朱里は今日までついに言葉を口にすることはなかった。栄養のあるものを方々から取り寄せて食べさせ、ヨガだのピラティスなども(これは母親の趣味であろう)もやらせてみた。でも喋らない。


 朱里と大地は同級で、下妻一を誇る古いお寺さんが経営している幼稚園からの付き合いである。だからこそ朱里が始終黙していたとしてもコミュニケーションにおいて何も不都合はない。大体は目の動きやわずかに動く(こともある)表情でわかるし、指さしぐらいはするのである。

 「おめも(注:お前も)あんちゃんと会ってねのが?」

 朱里は瞬きしてから大地の目を見つめた。イエスのサインである。

 「ほが(注:そうか)。……あんちゃん大学辞めでがらからきし(注:全然)帰ってこねえな。父ちゃんさ怒ってんのが?」

 朱里はぼうっと大地を見つめる。

 それで全てを解したように、「……父ちゃんも、しゃあねえな。本当はあんちゃんごど可愛いくせによ。」大地はそう言って肩をすくめる。

 「ほっだごと(注:そんなこと)よりもよお、俺もあんちゃんのライブ行けねえべか。水戸だったらよ、電車乗っで行けべよ。俺もあんちゃんに会っでみでなー、なあ、何とかなんねげ?」

 朱里は無言でスマホを手に兄にメッセージを送る。

 ーーあんちゃんの水戸のライブに俺と大地、大河、ーーそこまで打ち込んだ時に眠たげな目を擦り擦り、寝癖でぐちゃぐちゃになった金髪そのままに部屋にやってきたのは、隣室で寝ていたルアンである。

 「俺もあんちゃんのライブ行ぐ。」

 「おめ、いづから寝でだんだ?」

 「朝配達終わってからだべ。」

 「もう夕方だっぺよ!」

 ルアンは大地らと同じ中学一年生ながら、毎朝牛乳配達を生業としている。それで学校へは行ったり行かなかったりしている。父親は不在で母親と弟妹が三人がいるが、母親はベトナム人で日本語を話せず、地元の工場やらベトナム料理店で働いているもののあまり給与も良くないらしい。ルアンは飯も食ったり食わなかったりしているせいで、ずいぶん体躯はひょろっこいが最近一気に身長が伸びてきた。髪の色もなぜだか金髪である。母親は黒髪だが、もしかすると父親似ということなのかもしれない。だから一見すると外国人モデルのようだ、と純日本人の大地なぞは思う。

 ーーあと、ルアンの四人のチケットちょうだい。ーー

 朱里は残りのメッセージを完成させると送信した。これでいいか? とでも言うように、三人の顔を見まわした。

 ルアンはそれを見て安心したように両腕を伸ばし、大あくびをした。

 朱里が黙って立ち上がり、母屋へと向かう。握り飯でも母親に頼んでくるつもりなのだろう。

 朱里は喋らないがその分周りのことはよく見ている。朱里は言葉がなくとも友達になれるのだ、ということを大地たちに教えてくれた。

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