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Children Of Sanuma  作者: momo
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 5,6のバンドが出場するライブにおいて、大抵オープニングアクトを飾るバンドは不人気であるので最初から観ようとする客はいつもなら少ないが、この日だけは違っていた。

 言うまでもなく、Needled 24/7の実弟のバンドが出るということで、客席は好奇心と少しばかりの冷やかし(年齢がずいぶん若いらしいという情報は出回っていた)、それから新たなメタルシーンを自らの手で育ててやりたいという老婆心との入り混じった複雑な感情で満ち満ちていた。

 昨今メタルライブでの集客は難しい。

 イダは少々のリスクは想定しつつも、それでもやはりこの若いバンドに注目を与えておきたかった。それだけの価値は十分にあると思われた。

 まずはその出自。

 言うまでもなくNeedled24/7は今国内の若手では最も勢いのある、集客力のあるバンドである。もちろんその最大の因はフロントマンのKAIRIにある。年齢は二十を越したばかりと若いが、声もスクリーム、グロウルからシャウトまで幅広く、ギターもとりわけ正確無比のリフには定評がある。和製アレキシ・ライホなどという呼び声も高い。このままいけば、海外での活躍も十分視野に入れられるであろう。実際に既に幾つかのフェスには声をかけられているとも聞いている。

 それはそれで喜ばしい事態であるが、やはり国内でライブハウス経営に携わる者としては、そこまで力のあるバンドが海外に流出してしまうことは惜しい限りでもある。であれば若手バンドを育てていかなければならないが、昨今メタル市場というものは想像以上に先細りで、海外の中堅メタルアーティストの来日公演なんぞやろうと思った日には、チケットを売りさばくのに身を切るほどの艱難辛苦を覚えることは必定。

 国内若手メタルバンドを育てることは、将来の国内メタルシーンを盛り上げるためには必須要件と言ってよかった。しかし若手がメタルに興味を持つ機会がもはや世間では喪失されているのも事実である。ダサい、熱い、見苦しい、の三揃いではないかと悪口いわれることもある。しかし人気が壊滅しているわけでもない。細々とではあるが、この茨城の地でもメタルバンドは存在するし、若手も思い出したように出てくることもある。そのような中、降って湧いた僥倖がNeedled24/7のKAIRIの弟のバンドであると言える。

 当初は正直、期待はなかった。何せまだ若すぎるし、バンドを始めてまだ数カ月ときたものだ。学校の学芸会ではあるまいし……。それが本音であった。それでもライブの機会を与えたのは、KAIRIに恩を売らんがため、というほぼ一点に尽きる。これでKAIRIが少しでも恩義を感じてくれ、茨城でライブをやってくれることが増えれば、Needled24/7であれば地元客ばかりではなく東京からの客も多く掴むことができるのだから、一回ぐらい下手な子供が出てきたとて申し分ない。

 しかしその思惑は予想外な形で裏切られた。子どもらが送ってきた音源を聴き、イダは衝撃を受けた。 

 音質なんぞ一切気にしていない、はっきり言って技量も然程とは思えないものではあったが、そこにはかつて耳にしたことのない衝動と歓喜と、それから闘争心とが滾っていた。彼らは十二分に自分たちが未熟なことを解っていた。しかしそれでいてなんと勝ち気で熱心でかつ楽しんでいることか。メールに記されていたバンド名を見て思わず吹き出した。ーーIn Your Faceざまあみろ

 KAIRIの弟が何を担当しているのかはわからなかったが、彼が大事にしているものははっきりと受け継がれている。そう確信されたのである。


 その彼らの初めてのライブは、イダにとっても待ち望んだものであった。普段とは違って開演までまだ30分もあるというのに、ぎゅうぎゅう詰めになった客席を後方から眺め下ろしながら、彼は隠しようのない笑みをこぼしていた。


 やがて、ステージに降りた幕がさざ波のように揺れる。幕の向こうで準備が始まったものと見える。

イダは前のめりになってその最初の一撃を待った。

 客席の照明が落ちる。歓声が上がった。

 爆発。

 まだみずみずしい完成しきっていない肉体から繰り出されるバスドラムの重さ、速さ。イダは瞠目する。

 そこにまとわりつくベースは決して表立ってはいないものの、何よりも重厚で安心感があった。それからギター。一分の狂いもないユニゾン。息のぴったり合ったそのメロディーは一人で弾いているのかと一瞬目を凝らさせた程である。でも、違った。二人は呼吸も運指も、全てを完璧なまでに合致した、巧みなメロディーを奏でた。そしてそこにさらに加わってくる重低音のグロウル。――KAIRIだ。イダはもう目が離せなかった。

 曲は次々に展開していく。よくこんな発想を得たものだ。このメロディーは? このリフは? 作曲は全てKAIRIの実弟と聞いているが、この中の誰なのだろう。フロントマンだろうか? 彼のいで立ちはKAIRIの影響をそのまんま受けていて、まるで我々の伺い知れない、彼の子供時代を見るよう。観客たちも笑顔で拳を突き上げ、客席にはサークルピットが生じていた。 

 可憐に見えるギターの女の子もクールな表情で、しかもタッピングやらハーモニクスやらを随所随所でバッチリと決めてくる。しかも逐一しっかりとベースラインに乗っていて狂いがない。とても年齢にはそぐわないなかなかの技術だ。おそらくはこの四人の中で一番技量は高い。面白い。これからどうなっていくのか。イダはますますのめりこんで四人のステージングに没頭した。

 5曲はあっという間に終わったものの、観客は心からの満足を得、早々とこのライブに馳せ参じたことを誇りにさえ思った。四人は深々と頭を下げ、手を振って笑顔でステージを去った。


 「いやー、いがったいがった(注:良かった良かった)。」大地が楽屋で顔をタオルに埋めながら満足げに言った。「みんなえれえ暴れてくれてよお、マジで最高!」

 「いんや、間違っちまったよ何か所。ああああ、どうすっぺどうすっぺ。」そう言って大河が頭をかきむしる。

 「そっだのわがんねーよ。」ルアンが大河の背を叩く。「いんや、最高だったな! マジで! うわー、またやりてえ!」

 朱里は黙ってタオルを額に当て、頬に当てて、汗を拭く。

 そこにイダが入ってきた。「お疲れ様。」

 「うわー! イダさんお疲れ様!」ルアンがそう言った瞬間、

 「さて、ミーティングだ。」イダはどっかりとソファに胡坐を汲んで、四人を悪戯っぽい笑みで見上げた。

 「ミーティング?」ルアンが頓狂な声を上げる。

 「そうだ。ライブが終わったら反省点を洗い出す。ほら、これは今回のライブの音源。」差し出されたCDを恐る恐る大地が受け取った。「まずは、どこでミスしたのか洗い出す。パフォーマンスもまだまだ甘い。客を暴れさせておくだけでは駄目だ。君らはNeedled24/7のライブを観たろう? 自分らに何が足りないかわかるか?」

 大地はしばし考え込む。そして言った。

 「……あんちゃんはルアンこと取っ捕めえて、ステージに上げてよお、蹴っ飛ばして、客席沸かしてよお。脚もこーんな感じだっだ。」と言って大股に足元のギターケースに脚を乗せて凄んだ。

 「わかってんじゃないか。」

 「こっちのギターのお姉ちゃんも」と言って朱里を見る。「もっとパフォーマンスしないと。君ぐらいの年でここまでギターが弾けるのはたしかに凄いけれど、もっと客を沸かせるようなステージングを……。」

 朱里は黙ってイダを見つめている。

 返答及び反応がないことにイダは目を丸くする。

「朱里は、喋れねえんです。」慌てて大地が言った。

「ああ、リハん時もそうだったけど、……何で?」

「何でって言われても、なあ。……朱里は喋んねえんです。幼稚園の頃から一緒だけど、朱里はずっと誰とも喋んないの。」

「え?」

「しかもお姉ちゃんでねえで。お兄ちゃんだべ。」ルアンが言った。

「え!」

「だから朱里はどうにもこうにもこれ以上はできねえです。曲山程作ってんだから、これでいんです。」

「え!」

イダはもはや絶叫するだけのマシンである。「も、……もしかして、KAIRIの弟って?」

「朱里だべ。」平然と大地が答える。

イダはぶん殴られたような衝撃を覚えた。

あの師子王の如きフロントマンの実弟が、こんな女の子同然の喋れもしない子だとは思いもしなかった。特別シャイなのか、それともはたまた障害なのか病気なのかはわからないが、一体何がどうしたらKAIRIの下にこんな弟が産まれるだろう。

「ま、でもソロんなったら前に出ることぐれえはできるよな、朱里?」

朱里はまっすぐ前を見据えている。

「だいじ(注:大丈夫)です。次からはもっと煽れますから。」大地が代弁する。

「次も出さしてもらえますか?」ルアンが悪戯っぽい笑みを浮かべ、前のめりになって聞く。その姿にイダは思わず噴き出した。

「もちろんだ。もしパフォーマンスの勉強をしたかったらチケット代はいらないから、うちでやってるライブにいつでも来たらいい。歓迎するよ。」

 大地がわっと歓声を上げた。


 これはあまりよくない。これは真似をしたい。あれは曲調によってはよいが、使い方によっては失敗する。

 イダの申し出に甘え、四人は主に週末の夜にライブハウスに通い詰めるようになったので、そんな基準も次第に四人の中には出来上がってきた。もちろん自分たちの曲もどんどんできて来る。蔵の中はいつでも熱気に満ちていた。

 ライブも早速翌月に決まり、そこから毎月コンスタントにライブをやっていく形となった。告知もイダやKAIRIが担ってくれ、ライブに来てくれる面々も決まってきた。

 大地たちは年上の彼等に可愛がられ、特にルアンなんぞは度々飯を奢ってもらったり、時には機材を買って貰ったりと、ずいぶん面倒を見てもらったようである。見たくれがいいので、年上の女たちが放っておかない、そんな様子も垣間見られた。性質も誰とでもすぐに打ち解けるし、いつも明るい。だからどこに行っても好かれた。そんな環境の中でライブを繰り返すことによって、いつしか大地たちは技術面においてもパフォーマンス面においても、観客を惹きつけてやまない力をつけて行った。

 ーーいつかあんちゃんに自分たちのライブを観てもらう。そしてあんちゃんが言ってくれたように東京で活動する、その日を目標に日々練習に励んだ。

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