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Children Of Sanuma  作者: momo
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タイトル「砂沼怪談」


おめら行くぞ

準備は万端さあどこさへ

本当に行きでえ場所

それはあんちゃんのライブ

おれらがごじゃっぺ(注:馬鹿者)になる理由それはあんただ

えらいくたびれて(注:疲れ果てて)おれがおっちぬ(注:死ぬ)どこはどこだ

ヘラブナの碑が(注:か)?

八幡さまが?

それともサンビーチが?

筑波颪に吹かれで

日が沈む

月が高く上る

さあ砂沼怪談が始まる

夜が更けるまで日が明けるまで

ごじゃっぺどもの夢の跡

飛翔像さ蹴とばしで

ヘラブナの血で手を洗う

おっちぬ(注:死ぬ)前に砂沼怪談

カウントダウン

ごじゃっぺ野郎はおらぢ(注:俺)が引き取る

どんなにせやけっぢまっでも(注:イライラしてしまっても)

賭けてもいいべ

ごじゃっぺどもの夢の跡

砂沼怪談

しょんべん垂れでも

砂沼が引き取る

砂沼怪談

ヘラブナどもの夢の跡


 「だいだ(注:ダメだ)!」大河が慌ててルーズリーフを引っ手繰った。

 「こんなん恥つかしいわ! 何考えてんだべ!」

 大地は不満げに唇を尖らせた。

 「なじして(注:なんで)? ……ヘラブナよりブラックバスのがいがったが? でも字数が合わねがんなー。」

 「そういうこったでねえよ。」大河はルーズリーフを手の中でぐちゃぐちゃに丸めだす。

 「あ、おめ、何すんで?」

 「こーんな茨城弁全開で恥つかしかっぺよ!」

 「何を今更。」大地が冷静に答える。

 「田舎丸出しだっぺよ!」

 「しゃんめよ(注:仕方ないだろうよ)。都会人ぶっだどころで、なんもいいごとねえべ。」

 何を言っても響かない大地にさすがに大河もいらだって、

 「あんちゃんは英語で歌ってだべよ! ほれ!」大河は机の上に置いてあった海里のCDを引っ手繰って、歌詞のページを開き大地の目の前にぐいと見せつける。

 大地は目を丸くする。「あ、たしかに。」

 「Metallicaだって英語だっぺよ。Megadethだって、Slayerだって、なんもかんも英語だっぺよ。せめて英語にすっぺよ。したっけ(注:そうしたら)、茨城弁出ねべよ。」

 ようやく大地は納得したようである。小さく二、三度頷いた。それを見てようやく安心した大河は、もう一度丸められたルーズのしわを伸ばし、再び机の上に広げた。

 「大地の言いてえごどはわがっだ。これを元に、おれが英訳してくっから。それでいいべ?」

 ルーカスが頷き、朱里もじっと大河を見つめる。

 大河はようやく安堵し、そして改めてルーズリーフに書かれた歌詞を眺め、噴き出した。


 こんな意味不明の歌詞をそのままの英訳で済ませられるわけがない。大河はかつてない集中力でもって翻訳という名のほぼ作詞を開始した。どうせ大地は英語なんてわかるはずがないのである。

 大地の学校の成績たるや、小学生の大河から見ても悲惨なものである。義務教育開始以来大地の宿題係として、常に二学年上の学習を先取りし、それだけは早収まらず、地元の塾に常に上の学年の授業に参加をしていた大河からすれば、そもそも大地に作詞をやらせること自体が無理難題であるということはわかりきっていた。でも大地が何かをやりたいと言い出したら聞かないということも、重々に承知していた。でも一方で、大地の失態(そう、これは完全なる失態である)をサポートするのは自分の役目であるとの深い自覚もある。

 しかし大河にとってはそれは決して迷惑千万なことではなく、心のどこかで期待している部分があったことも否めない。少々誇張すれば楽しみ、でさえあった。大地に振り回されることは、その時こそ怒りや恥ずかしさが先行するものの、結果として自身の可能性を広げてくれることが多いのだ。さすがに大河はそれに気づかざるを得なかった。勉強も、バイクも、釣りも、それからバンドも。大地に付いていくことは何が起きるのかわからない。でもそれが新たな扉を開いてくれる。自分だけでは決して開けることのない扉を。


 翌日、朱里の離れに集合した三人を前に、大河はそっと新しいルーズリーフを差し出した。そこには英文が何やら記されていた。

 「翻訳してきた。」

 「いいんじゃねえの。」大地がろくに見もせず言った。すっかり自分の歌詞が翻訳されているものと信じ込んでいる。

 「あんちゃんみてえながなり声でやりゃあ、発音違ってでもうまく馴染むべ。」そう言ってほくそ笑んだ。

 大河はさすがに目線を反らして深々と息をついた。

 朱里は自分の曲なのに歌詞には大して興味がなさそうである。さっさとギターに向き合い、ソロの練習に勤しんでいる。ルアンも勝手に寝室から朱里の枕を持ち出してスティックでばしんばしん叩いている。

 そうして遂に曲も歌詞も完成したのである。


 あとは曲の完成度を高めるのみ。一人一人が朱里の原曲を再現できるよう、習得に励んだ。 

 

 もはや大地は田んぼのあぜ道を無暗に原付で乗り回してシラサギを驚かせることはなくなったし、ルアンも人の寝室で朝から晩までいぎたなく鼾をかくこともなくなった。大河もいつの間にか塾からは足が遠のき、ベースの技術向上に励んでいる。朱里は朱里で夜な夜なさらなる楽曲でも作っているのか、バンドの練習が終わるとやたらあくびばかりしていた。

 夏休みの到来がその勢いにさらに拍車をかけた。

 毎日朝から晩まで蔵に篭り延々と曲を合わせ続けたおかげで、曲はあっという間に人様に披露するにも足るレベルへと達していた。


 「そろそろ、……ライブハウス出れねえべかな。早くあんちゃんみてえになりてえ。」

 休憩中に本日五本目の水の500mlペットボトルを空にして大地はそう言った。

 「あんちゃんに聴かせたらさ、絶対びびるべ。」ルアンが悪戯っぽい笑みをこぼしながら言った。

 それを聞いて朱里はしばし何か考え込んだように立ち尽くし、ふと何か思いついたようにスマホを取り出して、カタンと床に置いた。

 「何でぇ?」ルアンが不審げにスマホを見下ろす。

 「ああ、あんちゃんに動画送って観てもらうんだべ!」大河が叫んだ。

 「ほらいいべ! やんべやんべ!」大地が飛び上がる。


 四人はさっそく最も自信のある曲を演奏した。しかし誰かが楽器のミスを犯し、誰かがパフォーマンスを忘れる。それで二度も三度も、満足のいく演奏になるまで繰り返した。

 あんちゃんはこうしてたべ、と大地はしばしばフロアモニターに片足を乗せ、いつもよりもマイクを低くセットし、喉も砕けろとばかりにがなり立てる。ルアンも気合を入れすぎてスティックを折ること三本。それでもめげずに最後まで叩き切った。

 これでいいだろう、とばかりに朱里がスマホを撤収した。そして海里に動画を送る。


「こんでライブさできんだべか。」大地が一縷の不安をにじませながら言った。

「大丈夫だっぺ。あんちゃんならわがっでくれっぺ。」ルアンは相変わらず前向きである。「朱里、おめ、褒められっぺ。いい曲作ったなっつって。」スティックで朱里を指す。

「あんちゃんに曲作ったっつっだのが?」大地が尋ね、朱里は目線を反らす。

「じゃあ、あんちゃん何も知んねでいるんが?」

 すまし顔で大地を見る。

「ほんじゃ余計魂消っちまうな。おめの曲、マジでかっけーかんな。お世辞でねえど? 俺、こんな朱里がかっけー曲作れるなんて思っでもみながっだかんな。なぁ?」

 大河もルアンも顔を見合わせながら大きくうなずく。

「何でできんだっぺか? やっぱあんちゃんの血だっぺか。父ちゃんやじいちゃんはそんな感じでねけんどな。」大地は首をひねる。

「でもわかんねど? 本当はじいちゃんもバンドやりたかったかもしんね。声でけえし。」ルアンは言った。

「あー、下妻駅前で選挙ん時でけえ声でしゃべくってんもんなあ。いっづもあんなのが?」

 朱里はまさか、というような非難がましい目で二人を見た。

 その時、朱里のスマホが鳴った。

 画面に映し出されたのは「海里」の文字。

 有無を言わさずむんずと引っ手繰って大地が出た。

「あんちゃんかー?」

 すかさずスピーカーをオンにする。

「曲、誰作ったんだべ?」

「朱里だ。」

 電話の向こうで息を呑む声が聞こえた。大地は前のめりになりながら叫んだ。

「全部朱里だ! ほんで今もな、新しいの作ってんだよ!な? 朱里。」

「……マジか。」低い声が漏れる。

「朱里は天才だべ! どんどんかっけー曲作ってくっかんな! あんちゃんこんな天才下妻さ置いでって残念だったなー! へっへーん!」

「朱里―!」海里が電話越しに叫ぶ。「おめ、よぐやったな!」朱里は体を硬直させた。「これからも一生懸命やれよ。おめなら東京さ来てもやれっど! 自信さ持で!」

「東京?」四人は目を見開いた。

「東京さ行げんのが?」大地が信じられないとでも言ったように呟く。

「まあ、いつかな。」

「じゃあ、あんちゃん、ライブハウスさ出さしてくれんのが?」と問うた。

「だいじだっぺ(注:大丈夫だろう)。今つくばのライブハウスさ連絡しどいでやっかんな。詳細決まったらまだ連絡すっから。練習さして待っどげ。」

大地は飛び上がった。

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