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4両目第3ドアから始まる物語  作者: 二城 望


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4/4

劇場に行こう

「鈴木里佳さん、覚えてますよ。この学校から音大に進学する人は少ないからね。」


聖歌隊指導の先生はチラシを手にして、お化粧すると変わるわねえ、と呑気な感想を漏らした。

「新人公演、学生は招待券をくださるということです。」

いいんでしょうか、と問う目を向ける青木優花。

「多分集客に苦労していると思いますよ。研究生研修の発表みたいですから。

本公演より安いと言っても、高校生からお金は貰えないと彼女も気を遣っているのでしょうね。

何十枚かノルマがあるから自腹切ってると思います。でも、後輩が沢山来てくれたら喜ぶでしょう。」


話を聞いて聖歌隊メンバーの数人が、私も行きたいと手を挙げる。

「では青木さんが人数をまとめて連絡してください。先生からもよろしくと伝えてね。」


言いにくそうに青木優花は質問する。

「先生、オペラって、そもそもどういうものですか?」


「ミュージカルはわかる?」


「人気アニメがミュージカルになったりするけど行った事はないです。」とアニメ好きの生徒。

「レ ミゼラブルとか映画で観ました。」と映画好きの生徒。

「盛り上がると歌ったり踊ったり?」と青木優花。


「そのご先祖みたいなもの。歌と音楽で進行する舞台芸術がオペラです。

昔は王侯貴族の特別な催しだったもので、神話などを題材にされていました。

モーツァルトは大ヒットオペラ作曲家ですが、この頃には市民階級もオペラを観るようになって、

『魔笛』などは大人気だったんですよ。夜の女王のアリアとか有名ですね。

今回の公演にもモーツァルトの『フィガロの結婚』名場面集が予定されてますね。

後半は『カルメン』」


それは知ってるという生徒がチラホラ。


「鈴木さんはメゾだから主役のカルメンかもしれませんね。

あなたたちお得意のスマホであらすじを予習してから行くと良いですよ。

注意事項は、拍手のフライングはしない事。携帯の電源は切ること。

盛り上がっても口笛は吹かないこと。」


何がダメなの、という顔をする生徒が数人。


「クラシックでは口笛を吹くのは貶すことになるんです。」


先生に聞いた事を浅井&斉藤の二人に伝えると、切符を貰うだけじゃ悪いからお花でも渡そうかという話になった。いい考えだから聖歌隊のメンバーにも相談することにした。


「本当はオーケストラで演奏する曲をピアノ1人で伴奏するんだって。」

青木優花はチラシに書かれた

[ピアノ 白河星夜]

という文字を指で刺す。

「ピアニストだったとはね。」


そういえば育ちの良さそうな感じや、頭の回転が速そうな佇まいに納得するところはあった。

(ピアノ教室や発表会で会ったピアノ男子達はヒョロっとした秀才タイプが多くて、そのイメージと一致しなかったからなあ。あの人はブレイク前のライダー俳優みたいで、むしろ見た目は体育会系。)


あっという間に公演の日。

家と会場は反対方向なので、学校で宿題と予習を済ませてからコンビニのおにぎりを食べて、制服のままで、途中の花屋に寄って会場のホールへ行く。

受付で預けて貰った切符を受け取り花束を預ける。

「直接お渡ししたい方には終演後にお返ししますので、楽屋へどうぞ。」

預り札を渡される。楽屋に行って良いとは軽い驚き。

客席に持ち込むと邪魔になるから編み出されたシステムのようだ。

自由席なのでやや左寄りの中央より後ろに席を取る。

真ん中には偉い先生や評論家の招待席があると教えられたからである。

できればそういう先生方の視界に入らないでおこう。

後方になるほど階段状に高くなるので舞台全体が見やすいし、オーケストラピットに入るピアノと指揮者も見える。

青木優花たちと聖歌隊の数人ずつは別の場所に席を取ったようだ。

少しずつ人は増えてくるが、全体が埋まりそうにはない。

研修発表的な公演だからか、出演者が手売り、もしくは招待した身内感漂う人々と音大の後輩っぽい華やかな女性たちで寂しくない程度に客席が埋まっていく。

手渡されたプログラムを読んで、オペラの粗筋を再確認する。

前半はモーツァルト作曲「フィガロの結婚」名場面集。

少年時代シェーンブルン宮殿ですっ転んだ彼を親切に助けた王女マリア アントニア、のちのフランス王妃マリーアントワネットに求婚したという伝説のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。

「まさかの同時代人。」

「脚本はフランス人のボーマルシェの大ヒット演劇をイタリア語に翻訳、しかし舞台はスペイン。」

「王妃アントワネット様が事もあろうに貴族が下僕にやりこめられる演劇に夢中になるとはと顰蹙を買った。単なる喜劇じゃなかったのね。」

と三人が各自調べた事を話していると、アナウンスが入り、客席の照明が徐々に暗くなる。

スポットがオーケストラピットに当たり、指揮者が現れる。前半のベテラン女性ピアニストが立ち上がって迎え、拍手に答えて指揮者が頭を下げる。

ピット内部の、譜面台にだけ当たる薄暗い照明の光の中で、指揮者の右肘が上がる。

ピアノが軽やかな前奏を奏で始まるとゆっくり幕が上がる。






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