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4両目第3ドアから始まる物語  作者: 二城 望


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3/3

やりたかったこと

職業実習、

やりたいこと、

将来??


そんなこと聞かれても。

高校入学して一息ついたばかりなのに、何をおっしゃいますやら。

確かに二年で文系か理系か選択科目を考える為に大まかな希望は決めないと、だけど!

たとえなりたいと思っても私の学力じゃ医者にはなれないし、私にできそうな仕事って何だろう。


「へーっ、お前んとこ、お嬢様学校と思ったら意外とキャリア教育充実してんな。」

微妙に上から目線なのは、年の離れた兄が青木優花より偏差値の高い男子校出身だからか。

帰りの遅いサラリーマンの父親や疲れた顔の母親よりも先に、兄に相談したのは間違いだったか?!

電話をブチっと切りそうになったが、そこを抑えて兄や友人たちが進路選択で何を重視したか質問する。

「誰もがやりたい仕事を出来ると限らないけど、試さないと後悔するとは思う。

何に適性があるかなんて15歳じゃわからないけど、向いてない事はわかるだろう。

消去法で勝手に狭まっていく、とはいえ、夢を持つのも悪くないやろ。

優花は現実的な性格だから確実な進路を見つけたいんだろうけど、やりたいことの為なら人間は変われるし、努力もできるん違うか。高校の友達で凄い奴がいたの、覚えてるか?

会ったことあるやろ、小柄でやたら顔のいい? スパッと同志社中退してドイツで芸大入ったんや。」

「え、勿体ない。」

「と思うよな。あいつは時間はお金で買えない、言いよった。」

「どういう事?」

「ドイツの音楽大学は年齢制限あるんやって。

タダ同然で勉強できるから世界中から受験生が集まって来て、合格するのは一桁の世界。」

「凄っ。才能あるんやな。」

「それ以上に努力してた。好きな事の為なら頑張れるってアイツよう言うてた。

優花かて、一ミリも興味ないのに勉強できるから弁護士目指せって言われても従う必要ないで。」


家を出て首都圏で就職した兄は妹に頼られて嬉しいのか、職場では封印している関西の言葉で饒舌に語った。


電話を終えてから優花はベッドに仰向けになって呟いた。

やりたいことはあったけどな。


受験の為にピアノを辞めた事は後悔している。

先生は勿体ないと引き留めてくれたが、母は頑固だった。

勉強の合間にこっそりヘッドフォンで音を消して弾く事もあるが、レッスンを受けなくなって一年、最後の発表会で弾いたソナタがもう怪しくなっている。

積み重ねが大切ということを切実に感じる。


母親は息子が違う道に進んだから、将来は娘が事務所を継いでくれたら、と思っているに違いない。

だから親に相談せずに職業実習の受け入れ先を見つけたいと優花は思っていた。

自分に何が向いているのか。

人の役に立ちたいという気持ちはある。

でも医療系には向いていない。美容はそれほど興味がない。

かといって一日中机に向かって仕事できる気もしない。

靄のようにまとわりつく答えのでない自問自答。

ぼんやりしながら電車に乗ったら水曜でもないのに、あの人がいた。

すると微かな良い香りが優花の隣をすり抜けて彼のほうへ行く。


「おはようございます。」

華やかな二十代半ばくらいの女性が挨拶する。

「おはようございます。なんか緊張してる?」

「はい、めっちゃ緊張してます。今日は師匠が来られるし。」

「どんな偉い人よりも師匠が怖い?」

あははと豪快に笑う女性。

うっかりガン見してしまった優花に気付いた青年が、女性に「鈴木さんの後輩がいるよ。」と囁いた。

あら、懐かしい制服、と彼女は優花に微笑み、手招きする。

「私も聖歌隊やってたの。」

何といったら良いものか、とりあえずお辞儀をする青木優花。

「この前はビックリさせてごめんね。彼女から聖歌隊の話を聞いて半信半疑だったから楽譜を見て驚いて。」と謎の青年。

「先輩は芸能界のお仕事されてるんですか?」聞いてしまった。

鈴木さんはコロコロ笑った。「仕事と言っていいかわからないけど、浪花歌劇団やってます。」

「えっと、宝塚みたいな?」

「じゃなくて、オペラ。こちらの方はピアニスト。」

彼女はカバンを開けてチラシを取り出す。

「興味があったら新人公演見に来て。聖歌隊の皆さんにも配ってくれる?先生にもよろしく。」

裏にメールアドレスを書いて優花の手に載せる。

「学生さんは招待するから連絡してね。」


翌日、学校で浅井、斉藤両氏に報告すると、

「ピアニスト?」

「オペラ?」

これは無かった発想だった、と二人は声を揃え、

「新人公演行きましょう。」と青木優花の手を取った。





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