青木優花の高1新学期
このお話の語り手は高校生の青木優花。
関西の某伝統女子校に入った頃、部活帰りの電車の中で、平凡な高校生とは別世界に生きる長身の青年や彼の仲間たちと出会います。
中高一貫女子校に高1から入った。
それほど社交的でないアタシは入学式の日、途方に暮れていた。
三年前から出来上がっている内部生グループに、どうやって入っていけるっちゅうねん。
言葉でお察しの通り、彼女は関西のとある伝統女子校にはいったばかり。
このお話の語り手である。
勉強はやるものだと心得ているので結構できたが、
公立高校受験会場で誘導手伝いの上級生が優秀さを鼻にかけた嫌な奴で、
コイツと同じ学校なんて、とヘソを曲げて全力を出さなかった。
その辺は頑固職人だった祖父に似ているかもしれない。
いわゆる滑り止めに入学したのだが、彼女に不愉快なちょっかいを掛けてくる奴は98%男子だったので、女子校に入って清々しい気持ちではあった。
入学式は礼拝堂で粛々と行われた。
上品で元気なおばさんという雰囲気の副校長の講話が、宗教的な典礼のもたらす眠気を一掃した。
自身も卒業生でもある副校長は新入生を見渡して微笑んだ。
「高校から入られた皆さん、中から上がった人達に観察されている気がするかもしれませんが、
それは貴女がたが優秀だからです。
中から上がった生徒はのんびりしているので刺激を与えてくれることを期待します。
ところで私たちの時代との大きな違いは、皆さんのカバンに入っているスマートフォンです。」
禁止事項を言い渡されるかと身を固くする生徒達。
「親御さんへの連絡や非常時にも役立つので禁止はしません。
ただ目の前に友達がいるのにお互い喋らないでスクリーンを見詰めるのは残念です。
ところでわたくしの友達の息子が芸能活動をしていて‥‥」
そこで寝そうになっていた何人かが顔を上げる。
「レッスンや仕事に行くときもキャップを被って電車で移動するそうです。
意外と気付かれないそうです。みんなスマホの画面を見てるからって。
たまに「頑張ってください。」と囁いてくれるファンがいるようです。最近は推し、というそうですが、大切な人との出逢いの瞬間を逃さなかった人は幸せですね。
限られた時間を大切にして、長いようで短い高校生活を楽しんでください。」
やたら禁止ばかり多かった中学との違いに拍子抜けしているのは、彼女と同じ外部入学生に違いない。
隣にいる内部進学生は、ゆるいやろ、と微笑みかけた。
癒されるわ、中学ひどかったから。囁き返した。
さり気なく内部生が話しかけてきて、既存のグループが拡大再編成されてきた。
彼女のクラスは英数コースなので外部進学生が多いのも幸いした。
「なあ青木さん、課外活動なんかする?別にやらんでも良いけど。」
入学式で隣にいた出席番号2番の浅井ミカが尋ねる。
「浅井さんは決めてるの?」と、ここはひとまず聞き返す。
「ふふ、うちは中学から剣道部。一緒にする?」
「いやいやいや武道は無理!」
「白い道着カッコええで。」
小柄な浅井ミカが華麗な胴を決める姿を想像してみる。
「打たれたら痛いやん。」
「それはそう。今は長袖で隠れてるけど夏服は痣が目立ってあかん。」
聞いただけで打たれた気分になって腕をさすりつつ、何か無難な活動を考えてみる。
「中学は合唱部やってんけど、ノリが体育会系で、もうええわ。高校では違うことがいいな。」
すごく良い事を思いついたという顔をして浅井ミカが提案する。
「じゃあ聖歌隊どう?練習は週一やし、礼拝でかわいい白いガウン着れるで。
入学式で聴いたやろ。」
実は彼女、入学式で礼拝堂のパイプオルガンに圧倒され、二階席から降り注ぐ歌声が気になっていた。
厳粛かつ荘厳。
仏教系の学校なのに。
聖歌隊の顧問のところへ引っ張って行かれて、音楽歴を聞かれた。
長年続けたピアノを受験の為に辞めたこと、合唱部に入っていたことを話すと、
顧問である音楽教員は、練習は水曜放課後音楽室に来るように満面の笑みで告げた。
そうして青木優花の高校生活は順調に始まった。
ルーティーンに馴染んできた五月のある日、いつものように彼女は聖歌隊練習の後、
好きなアニメのリアルタイム視聴略してリアタイをする為に、ギリギリ帰宅に間に合う電車の
いつもの車両いつものドア前に立った。降車駅の階段に近いからだ。
副校長の言った通り、みんなスマホ画面を見てるな、と周囲を見渡すと、ある人物に目を留めた。
180cmくらいあるシュッとした20代半ばに見える男性。
サラリーマンには見えない少しお洒落な私服。そもそもこの時間帯は勤め人の退勤には早目である。
何やってる人だろう。
彼女は芸能界には疎いが、タレントではないだろうと思った。
見た目の良いお笑いの人っているのかな。いや、お笑いじゃないだろう。
関西でオーラのある男性の職業で水商売以外ーというのも電車は郊外に向かうからーとなると
お笑い以外に何があるのだろう。
次の日には忘れていたが、翌週も同じ車両で同じ人を見かけた。
彼女が降りる駅でもまだその人は乗っていた。
二度あることは三度ある?




