魔王がセーラー服に着替えたら
鬱蒼と茂った森を見下ろす崖の上に建てられた鉄の要塞。魔界を総べる王、我が魔王の居城である。
「魔王様、お話があります」
玉座に座り爪を研いでいた我の元に、部下のゾラが現れた。
「何用だ?」
「星が告げました。魔王様が、異世界より現れし勇者によって倒され、一族が消滅すると」
「ほう。面白い予言だな」
いきなり無礼な話を聞かされたものだ。だが、我は退屈していた。退屈しのぎにはちょうど良かろう。
「良し。ならば我が直々に乗り込んで、勇者とやらを始末しにいってくれるわ」
我は冷たい玉座から腰を浮かした。
ゾラによると、勇者とやらはこの学園に通っているらしい。学年クラスは不明というが、あっさり見つかってもつまらんので良し。
我は2-Cに転入した。我が真の姿を見せるわけにはいかないので、人の姿を取っておる。不自然に見えないよう不本意ながら、身長は二メートル程度に抑えた。だが頭部への打撃に対応するべく、首は頭がい骨より太く設定。腕は丸太程度だが、胸部腹部は鋼のごとく筋肉を身にまとった。
ちなみに、我は性別上女なので、セーラー服とやらを身につける。
これで完璧だ。どこからどうみても、理想の人間だ。くっくっく。
だが我は、人の恐るべきを知る。
正体を隠して学園生活を行っているにもかかわらず、驚いたことに、クラスの男子は我を見て断言するのだ。「あれは絶対、魔王だ」と。
なるほど。さすが勇者が生息する学び舎だけある。それに比べ女子は何たる愚かさか。
「そんなこと言っちゃ、まーちゃんが可哀そうよ。ねぇ?」
見た目に騙されている。愚かな生き物だ。同性として同情する。
だが勇者候補に警戒されるのはまずい。所詮人の姿などかりそめ。いくらでも変化できる。
我は、身体を小さくした。狭苦しい人間どもの学び舎では、むしろちょうど良し。ただ心の臓を守るのが脆弱な贅肉だけでは心もとないので、その部分の贅肉だけは大目に設定した。これがなぜか男子に好評のようだ。同じように、ばっちり大きくした瞳も受けが良かった。でかい目というのは迫力があって、良し。
あまりの変わりように、周りから奇異の目で見られた。だが、「ダイエットした」と言うだけで、男子はあっさり納得した。……勇者も大したことないのかもしれない。
ところがまたも予想外の出来事が発生する。
今度は女子から「なに、あの変わりよう。やっぱり男子の言っていたとおり魔王なのよ」と、陰口をたたかれるのだ。……仲の良かった百合ちゃんにも露骨に避けられるようになったのは、ちょっぴりショックだった。
そこで第一形態と第二形態の中間に戻すことにした。またも人間どもは変化に驚いたようだが、「リバウンドした」と言ったら納得した。
男子は落胆した様子だが、女子の悪意が減ってほっとした。あれは陰険でそれなりに怖かった。……って魔王ともあろうものが。
このように人間は、見た目だけで態度を変える愚かな生き物だ。だがそうでもない者もいる。
男子に魔王と呼ばれていた頃、我は彼と出会った。
我は退屈していた。人間は脆弱で、部活動も体育の授業も我を満足させるに至らなかった。そんなとき、ちょうどよい光景に出くわした。
体格の良い男が三人で、小柄な男を囲んでいた。魔界でもよくあるいじめの光景だ。弱い者が搾取される、当然の理だ。だが、我は暴れたかった。よって、ぶちのめし助けてやった。日頃のうっぷんとともにな。ふははは。
「くっくっく。このセーラー服というのは良いものだな。このヒラヒラ感。風や動きになびく衣装というのは、盛り上がる」
「あ、あのっ……見えてるけど」
「気にするな。百合ちゃんは『ブルマー履けば大丈夫』と言っておる」
「そうなんだ……あ、その、ありがとうございます!」
「気にするな。ただ久しぶりに血が見たかっただけだ」
これが、いじめられていた男、智樹との出会いだ。
この日から彼は「僕も、まーちゃんみたいになりたい」と、我に付きまとうようになった。そして彼は我の形態が変わっても態度を変えなかった。第二形態時には、ファンクラブの取り巻きにぼこられたが、それでも付いてきた。クラスメイトに冷やかされ、乱闘に巻き込まれ怪我してもだ。力は弱い。だが心は強い男だった。
「姿が変わっても、まーちゃんはまーちゃんだよ」
……気づくと、彼がそばにいるのが当たり前となり、我は不思議とそれを心地よく感じるようになっていた。
「魔王様、大変だギャー」
ある日、屋上で一人風に当たっていると、眼前に丸い物体が現れた。魔界の住人オドである。
「どうした」
「ゾラ様が、魔王様に変わって王座に就いたんだギャー」
簡潔な報告だが、それで十分だ。奴は、我を体よく異世界に放り出し、不在の隙を突いて自らが王座に就いたのだ。
我はゾラを恨む気持ちはなかった。常に相手の押し退けようとするのは当然のことだ。勇者のことも忘れ異世界でうつつを抜かしていた我も悪い。だが我とて魔王。ゾラの好き勝手にはさせるつもりはない。
……潮時か。
我は視線を前に向けたまま言った。
「……見ていたか」
「うん……」
智樹の返事が返ってきた。我は魔王。智樹の気配に気づかぬはずはない。だがあえて、オドの話を聞かせた。我は説明した。自らが魔王であったこと。勇者を抹殺するために来たこと。魔界でゾラが反旗を翻したこと。
「戻るの? 魔界に」
「ああ」
「僕も行く」
「いいのか。もうこちらには戻らぬぞ」
「うん。まーちゃんと一緒がいい」
「そうか」
智樹が決めたのなら、反対する理由はなかった。それにこれは我の望みでもあった。
我は智樹とともに魔界へと戻った。ゾラの部下たちが「歓迎」してくれたが、真の姿を見せた我にかなうものなど、魔界にも存在しなかった。ゾラを倒し、智樹とともに我は再び玉座に戻った。
数年後、我と智樹の間に、子ができた――
智樹が死んだ。寿命である。人と我らでは時が違う。我々の息子は、人として人の世界で暮らしている。今後も人としての人生を送るつもりらしい。息子の決めたこと、反対する理由はなかった。
我は智樹以外の子を作るつもりはない。我が一族も我で最後となるわけだ。
不意に、元部下の姿が思い浮かんだ。
――なるほど、ゾラの奴の予言通りか。
それもまた、良し。
結局投稿できなかった、5分大祭用の作品です。
さすがに内容的に2500字にまとめるのは、無理がありました。
作品コンセプトは、「勇者」や「魔王」のキーワードで、どれくらいアクセス数が変わるか、だったりします(笑)