第十四話:噂の家系 その2
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喪主が満を持してリビングにやってきた。
一度小さい頃に会ったことがあるのだというのだが全く覚えていない。
この人の父つまり俺の曽祖父にも会ったことはないのだが遺影に写っている写真と比べてもさほど似ていない。
シュッとしていてスリムな体型。
父とは比べ物にならない。
「こんにちは」
喪主がそう話しかけてきたので愛想よく
「こんにちは」
そう返した。
学校とかではうまくできないのだがコンビニとかだとスムーズにこなせるのはなぜなのだろうか。
それから2時間はかからないくらいだろうか。従兄弟もやってきた。
従兄弟とは少し歳の差があり上の子はもう社会人である。
IT系の会社に就職したらしい。
いとこの父はITに関してかなりの腕前の持ち主らしくその気にならば一企業をハックできるらしい。
無知な俺はよくわからないがネットとかでこういう人たちはハックとかをしたがるらしい
なんというか、登竜門だとか。
肝が据わっているとしか言いようがない。
ミクと下の方の従兄弟はなんだか仲良くなって隣の部屋で話し込んでいた。
しかし俺と上の従兄弟との間に会話がなかった。
俺も相手も社交的な性格ではない。
するとまたまた来客が来た。
その人はおそらく葬儀屋の人で今回の主役に最後の着物を着させに来たのだった。
一同がリビングに集まって話を聞く。
すると祖母があるものを持ってきた。
それは口紅だった。
「これ母が生前に死んだ時、最後にこれを使って欲しいって私に預けていたものでして使っていただけますか?」
すると間を置くとことなく
「大丈夫ですよ」
と言って葬儀屋の人はその口紅を受け取った。
その口紅が主役にとってどんなものなのかはさっぱりわからない。
しかし三途の川を渡る際に使用したいものということはよっぽど思い入れがあるのだろう。
「では始めさせていただきます」
すると襖を閉めて作業に取り掛かった。
1時間ほどしたことだろうか。
作業が終わったと報告を受けたのでまたまた一同が集まった。
そこには今にも息を吹き返すのではと思うくらいの美しい体になった曽祖母が棺の中で眠っていた。
艶のある肌、綺麗な口何歳若返ったのかわからない。
祖母たちはそれをみてかなり喜んでいた。
すると葬式屋の人が
「手に関してですが、硬直が進んでいてマッサージを行いましたがこれが精一杯でした」
「いいえ、ありがとうございます。母は亡くなる時苦しまず亡くなったそうです」
悶え苦しまずに仏のように綺麗に散った。
彼女がなぜ手を曲げたまま亡くなったのか。
それはわからない。
死人に口なしというが本当にそうなんだなと実感させられた。
「そうですか。それは何よりです」
「それでは車に乗せさせていただきますね」
「はい」
すると父と喪主が
「お手伝いします」
と言いながら係の人と共に棺桶を運び出した。
「ありがとうございます。ではこちらを」
彼らに運ばれて曽祖母は車の中に入った。
曽祖母を見送った俺たちは家に帰ったのだった。
7
翌日、今日は通夜である。
俺たちは葬儀場にいた。
受付を行なっていたのは俺たちのいとこだった。
俺たちは受付を済ませると控え室に向かった。
そこには棺の中でドライアイスにより冷やされている曽祖母がいた。
「棺を開けてもらっても構いませんが長時間はご遠慮ください」
係の人はそういうとその場を後にした。
一緒に来ていた祖母が棺を開ける。
「冷たいね」
そう呟いた。
見た目は血流が良くて肌色がよくぬくもりを感じる。
しかし手を入れてみればそんなことない。
見た目と現実の寒暖差がすごい。
俺は部屋の片隅に荷物を置き近くにあった座布団に腰を下ろした。
すると父が奥の椅子に座って
「お、これすごいぞ。マッサージ機能があるぞ」
と子供のようにしゃいでいた。
親戚の前だからといいなかなか恥ずかしい。
これが共感性羞恥。
その様子を見て祖母が
「いやだ。ハマっちゃいそうじゃない」
遠回しに太っていると言っているのだろう。
咄嗟にこの言葉が出てくるところ、そしてこの言い回しは見ならないたいものだ。
ミクもそこに向かい
「私にも」
そう言った。
「いいぞ」
父がゆっくりと腰を上げるが
「あれ?」
ある位置からびくとも動かなくなった。
「ちょっと言わんこちゃないじゃない」
祖母がそう突っ込んだ。
母と叔母はくすくすと笑っていた。
俺は呆れた表情を隠すことなく父の元に近づき
「はい、行くよ」
俺は力いっぱい父の腕を何も考えることなく引っ張った。
「痛い痛い」
何かほざいていたがそれを無視して父を立たせた。
「ありがとう」
「はいはい」
「私の番」
隙を見つけたミクが突撃していった。
「いいね。効くよ」
「若いのに肩凝ってるの?」
母が突っ込んだ。
「いや?でも気持ちいよ」
母に肩を揉んでと言われてたまに揉んでいた。
その時に手本として揉んでもらったことがあったが全く気持ちよくない。
それに別の場所でマッサージ機を使ったことがあるがそれも全く効いている気がしなかった。
いつかこの装置のありがたさに気づく日は来るのだろうか。
俺はそんな彼らを置いて外に出た。
外にも色々な装置が置いてあるときいたからだ。
少し歩いた先にコーヒーメーカーとそこの近くに座る上のいとこがいた。
「久しぶり」
少し距離があったがそう彼に話しかけられた。
「久しぶり」
俺は二言目が口から出ることはなかった。
俺たちが最後に会ったのはもう片手では数えられないくらい昔のことだ。
その時は下のいとこと遊んでいたからほとんど面識がない。
俺は近くにあった椅子を引き出して腰を下ろした。
「どう?学校は楽しい?」
気まずい雰囲気を切り裂いたのはいとこだった。
「まぁまぁかな」
俺は顔を伏せているに等しいほど机に近づけながらナーナーな返事を返した。
まぁまぁというのもなかなかしっくり来ない回答である。
いや、まぁまぁという解は適当なものなんだと思う。
しかしあのキラキラした一年を過ごしてしまった以上それとどうしても比較してしまう。
だから見劣りしているだけで身の丈にあった生活を今は送っているのだと思う。
「そっか」
するといとこが立ち上がって
「コーヒー飲む?」
と問いかけてきた。
「じゃ飲みます」
俺は体勢を変えることなく長い髪を回すように触りながらそう言った。
「ホット?アイス?ミルク入れる?」
「じゃアイスでミクルなし」
俺は即答した。
「ブラックでいいの?」
少し心配そうに問いかけてきた。
俺が強がっているとでも思ったのだろうか。
「ブラックしか飲んだことないんですよ」
俺は少し笑いながらそう言った。
「へー、初めはミルクから飲むと思うんだけど」
と言いながらいとこはコーヒーメーカーを動かし始めた。
確かに初めはミルクからというのが定番なのだろう。
なぜブラックから入ったのかは覚えていないがミルク入りを飲まないのは単なる食わず嫌いならぬ飲まず嫌いだ。
少しして出来上がったコーヒーを俺の前に出してきた。
「はい」
「ありがとう」
俺はそれを手に取り口に運んだ。
飲み終えた後の目のやりどころに少し困ったがテーブルの上に置いたコーヒーを眺めることで決着した。
すると
「あ、ここにいたんだ」
そうやって俺を呼んだのはミクだった。
「ミク」
ミクは俺の隣に座って
「あ、コーヒー。私も何か飲もうかな?」
と言いながら立ち上がってコーヒーメーカーの前で佇む。
「あ、カフェオレがあるじゃん。私これにしようかな」
すると紙コップを取り出して手早くカフェオレを注いだ。
それを持って俺の隣に元に戻ってすごい勢いで飲み干した。
「うん。美味しい」
満面の笑みだった。
「あんま飲むと糖尿病になるぞ」
俺はジト目でそう言い放った。
「はぁ?まだ14だよ。なるわけないじゃん」
そう言いながらまた立ち上がって紙コップにカフェオレを再度注ぎ込んだ。
俺は知っている。
去年、つまり15歳の頃友達が
このままだと糖尿病になるって医者に言われた
と笑いながら言って米をめちゃくちゃ減らしていた奴がいたことを。
確かにその子は自称100kgのお相撲さん体型だった。
しかしそれが他人事とは思えなかった俺。
それに加えて最近の保健の授業でコーラなどの清涼飲料水に含まれている砂糖の量を可視化したものを見た時にゾッと背筋が氷ついてからジュースは本当に疲れた時以外は飲まないと誓った。
「まぁそうだといいな」
俺はミクに震えた声でそう返した。
そんな様子をいとこが微笑みながら見ていたように俺が感じた。
8
もうすぐ通夜が始まる。
受付を担当しているいとこはかなり忙しそうにしている。
目の前にいるのは会ったことない親戚ばかり。
どこに居ればいいのかわからない。
穴があったら入りたいというのはこういうことなのかと実感した。
するとある一人の男性が話しかけてきた。
「もしかしてタケシくんの?」
すると隣にいた母が
「はい、上の子です」
と微笑みながら言った。
俺はそれに合わせて軽く会釈する。
「いやー大きくなったね」
そう微笑みながら俺を見てきた。
「何歳かな?」
親戚が集まった時に言っておけばいい言葉ランキング堂々の一位である年齢確認を炸裂。
「16です」
俺は淡々と答えた。
こういうところが愛想がないとかコミ力がないとか言われる原因なのだろう。
もっと他人に笑顔を振りまけばいいのだろう。
でもそれは大人に媚びているみたいで嫌いだ。
いい子ちゃんぶるのは大っ嫌いだ。
そんな和気藹々とした会場を抜け出して俺は駐車場に行った。
「まだかな」
俺はある人たちを待っていた。
すると
「ソラ」
そう呼び声がしたので俺はどっちを向き手を振った。
そこには母の母、母の弟がいた。
「こっち」
俺は二人を案内した。
この人たちにとっての本日の主役なんて赤の他人のようなものだ。
俺は今回の一連の儀式にすら参加する意味を見つけるのに必死だというものどうゆう考えでここに来ることにしたのだろうか。
心が育っていけばいつかわかる日が来るのだろうか。
森羅万象全ての物事に意味を求めるこの気持ちが払拭されたその先の解があるのだろうか。
通夜が始まった。
「帰命無量寿如来.......」
長ったらしいお経が始まる。
心の内容物を全て別の場所に移築してやっとのこと受け止められる情報。
右から左に出すことでやっとのこと処理できる情報。
俺はその情報を処理しながら死んだ魚の目という言葉がしっくり来るような表情で手元を眺める。
中盤ぐらいだろうか。
親戚が前に出て何かを備えている?そういえばいいのだろうか。何かをしていた。
すると横に座っていた母から
「ソラはお父さんと一緒に行って。」
そう言われた。
何をするかは最初に言っておいてほしい。
親たちからすればこのくらいのこと常識の範疇なのだから知っておけよ、ということなのだろう。しかし教わってもいないことを、特にこんな興味がないことの既知でない情報を自ら進んで収集するだろうか。
いやない。
自分が知っていることは知っていると本気で思い込んでいるのだろうか。
生きた厚みが違うのだから知らないことだって多い。
頼むから同じ土俵にいる前提で話をしないでほしい。
俺たちの番がやってきた。
父が席を立って真ん中を歩くので俺はそれに着いていき木屑だろうか?そのようなものが入っている箱の前に立った。
それを上に上げて前の箱に入れている父をトレースして同じ行動を行った。
俺たちはそれを終えると席に帰っていった。
なんともパッとしない行為。
こんなこと言ったらもともこもないというか、一応仏教徒であるので禁忌に触れてしまうのかもしれないが、この式は必要なのか。
亡くなった方が黄泉の国に安全に行けるように、とか無事に辿り着くため、という理由で執り行うこの儀式。
俺はこの意味を込めてこれを行うのは失礼なんじゃないかと思う。
この言いようなら、まるで故人は一人の力で天国に行けないみたいではないか。
日頃の行いというか生前の行いが良いとそこに辿り着く、それが彼らの言い分ならこれを執り行うということは素行が悪いみたいじゃないか。
だから生前の感謝を込めてというのを前面に押し出すべきではないか?
まぁただ俺が無知なだけで的外れなことをたらたらと語っているだけなのかもしれない。
まだまだ続く長いお経。
すると横に違和感のある動きを感じた。
そして横を振り向くとそこではコクリコクリと首を動かす父の姿があった。
「マジかよ」
俺は長いお経、そして父の姿に呆れてしまった。
彼のプライドというか名誉を守るために足でつつくとかそういうことはしなかった。
しかしながら大人のそういう行為を見ているとなんだか深く失望する。
同じ人間だから気持ちもわからんことはない。
でもこういう時くらい起きていてほしい。
そんな式が終わった。
親戚一同が控え室に帰る中、喪主が母の母に
「この度はお忙しい中ありがとうございます。失礼ですがどちら様ですか?」
正しい反応だ。
「ユミのタケシくんの妻の母です」
ユミとは母の名前だ。
「そうでしたか。失礼しました」
「いえいえ」
「つまらないものですが、あちらで配っているものを受け取ってお帰りください」
「ありがとうございます」
そういうと母の母と母の弟は物を受け取って帰っていった。
「じゃね」
俺は二人にそう囁いた。
「またね」
9
控え室に戻った親戚一同。
食事をとるには時間になっていったのでみんなで事前に注文した寿司を食べることにしたのだ。
俺は生物が嫌いなので式の前にコンビニでおにぎりなどを買っているのでそちらを食べる。
父からは、子供だから多めに見られているけど普通は出せれたものを食べるもんだぞ、と警鐘を鳴らされた。
それはそうなのだろうが食えないものを無理して食うのは意味がわからない。
この場合の最適解はなんなんだろうか。
そう思いながらおにぎり取り出しておもむろに口に放り込む。
祖母は一人ずつに寿司を配膳していると何かに気づいた。
「あれ?三個足りないよ」
「嘘だ。もう一回数えてよ」
父の妹がそう返した。
俺から見ていても少しおっちょこちょいなところがある祖母。
とはいい三個の誤差があるだなんておかしい。
「あれないね」
叔母も確認したらしいが数が合わなかった。
「ねぇちゃんと人数分頼んだんだよね?」
祖母が喪主に尋ねた。
「そうだよ。姉さんも見てたでしょ」
喪主は席を立ち上がって領収書を取りに行く。
そしてそれを祖母たちに見せつける。
「そうだよね」
3人が顔を見合わせていると
「ユミの母親たちが何かもらってたけどあれなんだんだ?」
父がそう尋ねた。
すると喪主の脳裏をあることがよぎった。
「もしかしてあれ寿司だったのかな」
核心。
あとで尋ねた話だが母の母たちは寿司をもらって帰っていたのだった。
彼らはあれを見上げものだと思い込んでいたのだった。
これには母の母たちも驚いただろう。
こんな高級な寿司が入っているだなんて誰が想像できるのか。
ラッキー心で呟くと同時に申し訳なさが心を這巡ることだろう。
「いやだ。え、どうしよう。足りないよ」
祖母は焦りを隠すことなく顔に顕現させる。
そりゃそうだ。
つまりは3人が寿司を、夕食を食べることはできないのだ。
「ソラは食べないから一つ余るぞ」
幸いにもこの場に出された食事でなく持ち込んだコンビニのおにぎりを食べる非常識なやつがいたことで一つ余裕ができた。
「二つか...どうしよう」
叔母が気まずそうにしている。
すると父が切り込む。
「二人がパスでいいんじゃないか?ダイエット中って言ってただろ」
そういうと父は自分の母と妹を指差してそう言った。
なんて薄情な奴なんだ。
ゾンビサバイバルなら一番初めに死亡退場する役回りの発する言葉を堂々と言い放った。
「そうだけど、ほらお兄ちゃんだってダイエットしなきゃでしょ?」
そう言いながら叔母は父を指さす。
最近常々思うが父のお腹は大きくなったと思う。
さっき行った糖尿病予備軍の友達よりお腹が大きい。
でも不思議なことに腹以外に太っていると感じさせる要素がない。
いや違う、お腹が大き過ぎて相対的に太って見えないだけだ。
「俺はいいんだよ」
そう笑顔で発する。
ここから父が折れるビジョンが見えない。
「なにそれ?ねぇ?」
妹が母に共感を求めていた。
結論を言うとあの二人が食べないと言う解が出たのだった。
食の恨みは怖いぞ...
そう俺は心でつぶやいた。
食の恨みに関してはミクにとっていやと言うほどわからされている。
そう言いながら俺はまたまたおにぎりを口に放り込んだ。
いかがでしたか?
少しずつでも表現力を手に入れられるように日々努力します。
では軽く登場人物のプロフィール紹介といきましょうか。
名前:アスノソラ(主人公)
生年月日:2008年4月(16歳)
身長169cm
体重51kg
趣味:絵
説明:TPOに配慮できない奇人。
彼のおかげで犠牲者が減ったことには世界が感謝している。
この後父から卵の寿司をもらったとか。