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第19話 閑話②(別視点)

 城に戻ったビアンカは、帰還の挨拶や父レオンと食事をとるなどしながら、一日の残りを過ごした。


 皆が寝静まった深夜、ビアンカはムクリと起きると、ランタンを持って一人廊下に出た。誰にも見つからないよう気配を消しながら、とある部屋に入る。


 そこは、緊急用の抜け道がある部屋だった。奥にある物置部屋に入ると、取り外し可能な壁を動かし、慣れた様子で隠し通路に入って行く。


 隠し通路はさほど広くはないが、小さなビアンカならそのまま歩いて通れる位の幅と高さがあった。長いこと使われていなかったのか、通り道には埃が積もり、壁の角には蜘蛛が精力的に巣を張り巡らせている。


 そんな汚れた通路を、ビアンカは物怖じせずに歩いて行った。


 やがて行き止まりにぶちあたると、入って来たときと同じように、行き止まりと思われた壁の一部を取り外し、外に出た。


 そこはドレスがたくさんつり下がっている部屋だった。奥には、紫の布で覆われた鏡がかかっている。


 王妃の物置部屋だ。


 ビアンカは鏡に真っ直ぐ近付き、紫の布を剥ぎ取ると、鏡の中の自分を見つめ返しながら囁いた。


「鏡。私のこと、見てるんでしょう? 出て来なさい」


 静けさからくる耳鳴りが響く中、変化は起こった。

 鏡の中にいたはずのビアンカの姿が消えたのだ。そして、


『お帰りなさいませ、ビアンカ様』


 彼女に帰還の挨拶を告げる、甲高い鏡の声が響いた。思った以上に大きな声だったのか、ビアンカは周囲の様子を伺いながら、しーっと人差し指を唇に押し当てる。


「気をつけてよ。向こうでお義母様が眠っておられるんでしょう?」

『失礼いたしました。半年ぶりにお目にかかったものですから、声量の調整を誤りました』

「……まあいいわ」


 諦めたように、ビアンカはホッと息を吐き出した。

 そして鋭い視線を鏡になげかける。


「聖女修行をして、ようやく分かったわ。お義母様が、なぜ私を目の敵にしていたのか。お父様に冷たい態度をとっていたのか……」

『左様でございますか。真実に辿り着かれたのですね。おめでとうございます、ビアンカ様』

「……おめでとう? これが?」


 ビアンカの瞳が大きく見開かれた。

 幼子の愛らしさが一瞬にして激情に染まり、小さな声でありながらも叩きつけるような叫びを鏡にぶつける。


「あんな残酷な真実をずっと抱えていたお義母様の気持ちを考えると、胸が張り裂ける思いだわ! 誰にも相談出来ず、私たちを……この国を守るために必死で考えて出された結論が、私に憎まれて処刑されること……それを選ばざるを得なかったお義母様の絶望が、邪纏いであるあなたに分かるっていうの⁉︎」


 鏡は、その問いには何も答えなかった。

 だが少しの間の後、ポツリと呟く。


『あなた様は王妃様を【お義母(かあ)様】とお呼びになるのですね』

「……当然よ。確かにあの方は私の本当の母親ではない。だけど……母と慕うに相応しい方よ」


 鏡は、何も言わなかった。何も映らない鏡面はただ静かに、ランタンの光を返しただけだった。


 自分の気持ちを吐き出したビアンカは、軽く頭を振って気持ちを落ち着かせると、真っ直ぐ鏡を見据えた。


「明日、父に全てを伝えます。お義母様が抱え続けた孤独と苦痛、その全てを。そして……私のことも」

『陛下はあなた様の仰ることを信じてくださるとお思いですか?』


 鏡への問いに、ビアンカは口角をニッと上げた。自信満々な表情に、十歳の少女らしいあどけなさはない。


「信じるわ。いえ、必ず信じさせるわ。だって、私がこの人生を繰り返し続けて、やっと……やっと掴んだ真実だもの」

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