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ミラーボール

作者: 遠山千佳

「そしたらほんとに天井からミラーボールがぶら下がってて」


 健二はジョッキいっぱいのビールをあおってアツヤの家に上がった時のことを語り始めた。大学時代のバイト先の先輩だったというアツヤの話はよく聞かされるが、その度に状況がころころと変わって面白い。なんでも今は動画クリエーターを目指しているのだとか。


「あんなのディスコだかクラブだかにあるイメージしかなかったから目ん玉飛び出るかと思ったけどさ、フツーの和室で使われるのも意外とオツなもんだったわけよ」


 畳の部屋で光を乱反射するミラーボールを想像して、思わず眉をひそめてしまった。


「あんまり乙なイメージ湧かないけどな」

「いやそれがさ、しーんとした部屋で光の粒がゆっくり回ってるとアレを思い出すんだわ。えーと、じいちゃんが死んだ時だかに部屋にあった、あの……」

「走馬灯?」

「そう! たぶんそれ!」


 画像検索して健二に見せると納得したように頷かれた。思い出した状況が適切なのかという疑問は胸にしまって、改めて和室ミラーボールをイメージしてみる。反射した光が壁や床をゆるりと回っていく様子を想像してみれば、あながち的外れなたとえではないようにも思えた。


「アイデアが煮詰まった時にそれで気分上げてどうにかするっての、実物見せられるまでは俺も冗談だと思ってたけど意外と悪くなくて、ちょっと悔しかった」


 声を上げて笑う健二につられて口元がゆるむ。仕事の悩みを相談し始めてこの話につながるとは思わなかったけれど、いい意味で自分の世界の狭さに気付かされたような気がした。

 憑き物が落ちたように仕事の悩みはどうでもよくなって、それからは話半分でミラーボールのことばかり考えていた。実物を見たことがなくて動画を調べてみたら健二が走馬灯を思い起こしたのもわかるような気がしたし、見方を変えればプラネタリウムのようにも見えた。

 ギラギラした球体の方にばかり意識が向いていたけれど、本質は反射した光の方にあったのだ。アツヤがミラーボールを手にする前からそれに気付いていたのか、使ってからそうと気付いたのか、気になったけれど心に留めておいた。それを尋ねることは本質ではないと思ったから。


「なんかスッキリした顔になったか?」

「おかげさまで。ありがとう」


 健二と、話したこともないアツヤへ半分ずつ感謝しながら、残っていたジョッキの中身を飲み干した。

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