あの部分の影

「あの……今作ってるアニメ、アイドルものだって判ってますよね？」

「……」

　ウチのスタジオにダンスシーンの作成を依頼してきたアニメ制作会社のヤツは、製作途中の映像を見て、当然の指摘をした。

「えっと……俺、素人なんすけど、素人目にもダンスの出来が前作より落ちてるように見えるんですけど……」

「…………」

「どう云う事なんですか？」

「えっと……スカートの股間の影が原因です」

「はぁ？」

「あの……少し前に、このアニメのキャラ使ったポスターの『スカートの股間の影』がtwitterで話題になりましたよね？」

「それが……何か？ ファンの皆さんが、あれにケチ付けたフェミ婆ァのtwitterアカウントを削除に追い込んだでしょ？」

「ええ……その……ファンの皆さんのやった事が問題で……」

「へっ？」

「これ……実際に踊ってる人の動きを取り込んでる事は御存知ですよね？」

「だから……それと何の関係が？」

「貴方の言ってる『スカートの股間の影にケチ付けたフェミ婆ァ』は、前作までのダンスシーンの振付師だったんです」

「へっ？」

「次シーズンの契約を結んでもらえませんでした。もう、このアニメには２度と関りたくない、って言ってます」

「ちょ……ちょちょちょ……そ、そんな馬鹿な……」

「なので……あれは振付師なしで作ってます」

「そ……そんな……フェミの邪悪な魔の手は……そんな所まで及んでいたんですか？」

「……えっと……何か違うと思いますが……。とりあえず、このままでやりますか？」

「いや、新しい振付師を見付けて下さいよ」

「間に合いません」

「何で？ まだ、放送開始まで３ヶ月以上有りますよ」

「それが……そちらから依頼された『ダンスシーンでスカートの股間に影を付けろ』って依頼が問題で……」

「ちょ……ちょっと待って下さい。何を言ってるんですか？」

「あのスカートの股間の影、全部、手作業で入れてて……」

「へっ？」

「普通のスカートの動きなら３ＤＣＧ作成ソフトの標準機能でシミュレート出来るんですが……あの不自然な股間の影は普通の方法だと無理でして」

「い……いえ、でも、女性がスカートをしてたら、股間に影が入るのが自然ですよね？」

「３ＤＣＧ作成ソフトの開発元に、自動的にスカートの股間に影を入れる機能を追加してもらえないか？ って問合せたら……開発に１年以上かかって、開発出来たとしても、処理時間は１〜２桁増えるだろうって言われました」

「そ……そんな……ポリコレの邪悪な魔の手は……そんな所まで及んでいたんですか？」

「……えっと……何か違うと思いますが……ともかく、今から新しい振付師を見付けて、ダンスの動きを取り込んでたら……放送に間に合いません」