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キミがいる未来を夢見ていたい  作者: 佐久良
2.加速する想い
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加速する想い-1

 上映時間を調べた私は、すぐに藤野さんにメールを送った。待ち合わせ場所も時間もすんなり決まったが、私は一人、自分の部屋で頭を抱えることになった。


 クローゼットから、そう多くもない衣服を引っ張り出し、ベッドに並べてみる。十一月下旬という季節柄、薄手のコートを羽織って待ち合わせるにしても、映画館ではそれを脱ぐことになる。


 パンツスタイルにするかスカートを履くか。パンツスタイルでは、アルバイト中の格好とたいして変わらない。なるべくなら普段とは少し違った服装をして、できる限り可愛く見られたい。いつもと違う雰囲気を出すとすれば、いっそワンピースを着た方がいいだろうか。しかし、ワンピースを着ることで、気合いがバレバレなのもいかがなものか。


 結局、私はコーディネートが楽だからという言い訳に近い理由をつけて、ワンピースにカーディガンを着た上に薄手のコートを羽織って、待ち合わせ場所に向かった。肩より少し長い髪は、アルバイト中は後ろで一つに結んでいるが、今日は下ろしてきた。


 待ち合わせの五分前に現れた藤野さんは「ごめん、遅くなった」と一言、私に謝った。


「まだ、五分前です。私が早く着き過ぎただけです」


 楽しみで落ち着かなくて、約束の十五分前に着いていたとは言えなかった。藤野さんは、私の顔を見て不思議そうな表情をした。


「なんか、いつもと雰囲気違う気するんはなんでやろ? 髪、結んでないからかな?」


 まじまじと見つめられ、私は目を逸らす。気付いてほしいと思っていたが、いざ気付かれると途端に恥ずかしさに襲われる。


 それに対して、藤野さんの格好は普段とあまり変わらず、薄手のニットセーターの上に少し大きめなパーカーを着て、下はジーパンにスニーカーといったものだった。このあとアルバイトに行くのだから、普段と変わらない格好なのは当たり前といえば当たり前だ。


 映画館へ向かい、目的のチケットを二枚買う。公開初日から時間が経ち、上映のピークは過ぎているため、客はまばらだった。ただ、ほとんどがカップルで観に来ているらしく、私は落ち着かなかった。


「やっぱり、カップルばっかやな」


「恋愛映画ですもんね」


 上映前、少し声を落として会話する。隣同士でイスに座ると、いつもより身体の距離が近づき、ドキドキしてしまう。肩や手が触れてしまいそうな距離に彼がいると思うと、映画に集中できるかどうかすら不安だ。


 映画が始まると、思ったよりもラブシーンが多く、会話をしなくとも気まずさを感じてしまう。もちろんアイドル並のイケメンと名高い俳優と好感度の高い若手美人女優とのラブシーンは、うっとりするほど綺麗な画なのだが。一緒に観ている相手が片想いの異性であれば、それは気まずさ以外の何ものでもない。左隣に座る藤野さんの反応が気になり、ストーリーは半分程度しか頭に入ってこなかった。それでも、原作を読んでいたことが功を奏し、結末までなんとか話についていくことはできた。


 映画を観終わると、近くのファミリーレストランへと入った。藤野さんのアルバイトの時間まで過ごせる飲食店となれば、チェーン店のファミリーレストランが無難だ。


 お互いカルボナーラのパスタとドリンクバーを店員に注文する。店員が注文を繰り返してから去っていくと、目の前に座る藤野さんと目が合った。


「映画、どやった?」


「うーん……ベタな恋愛ものって感じでしたね」


 ラブシーンが多くて気まずかったなんて感想は言えず、苦笑いを浮かべる私だったが、藤野さんも「せやな」と同意のようだった。


「小説が良くても、映画になると微妙なやつあるやんな」


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