きっと、恋をした-5
彼の言葉に少し違和感を覚えはしたが、いろんな感想があって当然だし、それが一般的なものと違うことだってあるだろう。その経験は私にだってある。絶賛されている小説や映画を観ても、全く感動も共感もできないことだってあった。それに、藤野さんがあまり興味を持てない作品であるならば、それ以上その映画を薦めても意味はない。
「候補、他にないん?」
「あっ……いや、実はもう一つあって――」
私はラブストーリーの映画のタイトルを伝えた。
「あ、それ原作読んだことある。小野さんも読んだって言うてなかった?」
「そうです、読んでます」
「いいやん、それ観に行こうや」
昼間の有希の言葉が蘇る。これは、脈アリだと捉えても良いのだろうか。
「いつ行こうか? 小野さんは大学あるし、土日の方がいいやんな?」
彼は、社交辞令でもその場しのぎでもなく、本気で映画を観に行くことを考えてくれているらしい。
口元が、思わず緩んでしまう。智美に見られたらきっとまた「ニヤニヤしている」と言われるだろう。
「今度の日曜日でもいい? その日、バイト入ってる?」
「いえ、休みなので日曜日で大丈夫です。……あれ? でも藤野さんシフト入ってますよね?」
「うん。小野さんさえ良かったら昼過ぎとか夕方に映画見て、夕飯一緒に食べへん?」
思ってもみなかった誘いに、慣れかけていた心臓のドキドキを再び意識し始める。よくよく考えてみれば、映画を見ただけですぐに解散というのも寂しい話だ。
私は藤野さんからは見えないのに大きく頷いて「そうしましょう」と伝えた。
映画を観に行く日はすぐに決まったものの、待ち合わせの時間は、映画の上映時間を改めて調べてから決めることになった。
「じゃあ、調べてからまたメールしますね」
「うん、分かった」
「藤野さん」
「うん?」
「また、電話してもいいですか?」
心臓がドキドキとうるさい。藤野さんが電話の向こうで、少しだけ笑っているのが分かった。
「いつでもしてきてええよ。待ってる」
藤野さんが「じゃあ、また」と言って、電話を切る。私の発信履歴に初めて藤野さんの名前が表示された。
好きにならない理由が、見つからなかった。好きではないと、否定するのもバカバカしいほどだった。こんなにも心臓がドキドキして、嬉しさから口元が緩んでしまうのに、好きではないと思える方がおかしな話だ。
電話を切った後も、まだ胸がドキドキしている。こんなに緊張するのも、こんなにときめくのも初めてのことだ。
その日のアルバイトの交代時間、恥ずかしくて藤野さんの目を見ることができなかったのは言うまでもない。