残酷な真実と嘘-2
「藤野さんがガン? あと半年しか、生きられない?」
彼は頷く。その真剣な表情から冗談を言っているとは到底思えなかった。そして、藤野さんは困ったように私に尋ねた。
「店長から何も聞いてないん?」
「店長からはメールが来て……藤野さんが辞めることは聞きました。それと『あとは本人から聞いてやって』っていうメールが来ました」
藤野さんは困ったように笑って、短いため息をついた。
「なら、最初から話さなあかんか」
「え?」
「俺な――元々、持病があんねん。小さいときから、よう入退院繰り返してたん。この歳まで生きてこられたんは、ある意味奇跡かなって思うてるくらい」
未だに理解が追いつかない私を置いて、彼はどんどん話を進めていく。
「その持病が悪化してるって分かって――もう、あとどれくらい生きられるか分からへんってなってな。俺、それでやりたいことやろうって決めたん」
慌てて「いや、ちょっと待ってください」と言葉を止めようとする私をよそに、彼はベッド近くの床頭台の引き出しから何かを取り出した。
「見てみて」
俯く私に差し出されたのは、一冊のノートだった。表紙には『死ぬまでにやること』と黒のマジックで書かれている。『死』という言葉が私に重くのしかかる。
「知っとる? 死ぬまでにしてみたいことってネットで調べたら十とか三十とか出てくんねんで? 俺、そんないっぱいやるような時間ないかもしれんのに」
自嘲気味に話す彼の声を聞きながら、私はそのノートの表紙を触った。渡されたものの開く勇気は出ない。
「あとどれくらい生きられるか分からへんって聞いたとき、まず、一人で暮らしてみたいって思うたん。それで、家族や知り合いが全くおらん、こっちに出てきたん。働いてみたくて、何回もバイトの面接受けたけど、身体のこと説明したらことごとく落ちたわ。当たり前っちゃ当たり前なんやけどな。でも、店長だけは違うてて『無理をせえへん』っていう約束で働かせてもらえたん」
私は俯いていた顔を上げ、藤野さんの顔を見た。優しく微笑んでいる彼は「ノート、見てみて」と促す。私はその言葉を聞いて、表紙をめくった。
ノートの一枚目には藤野さんの字で『自分で稼いだお金で生活する』『甘いものを思う存分食べる』『旅行する』『恋愛をする』と箇条書きに書かれていた。それ以降のページは日記のようだった。それを読んでいいものか迷った私は、パラパラとめくるだけにした。そして、ノートの真ん中あたりで、再び箇条書きのページを見つけた。